プロローグ 世紀末の微笑み
あぁ,あ?
目の前には、炎。視界を埋め尽くす赤。
そして、死体。見ず知らずの人も、友達も、家族も、全員どこかしらから血を出して倒れている。
一番近い死体は、胴体を真っ二つにされている。
「あ、あぁ」
情けながら、こんな声しか出ない。よろめきに耐えられず、前に体が持っていかれる。そのまま、土の上に手を着いた。なんで、こんな目に。
こんな、田舎に。
ジャリ・・・・・・
土を、踏み締める音。正面から。
顔を上げる。
「はっ・・・・・・!」
何か、居る。
炎から、人影が。どんどんとこちらへ近づいてくる。
「こんにちは。お嬢さん」
右手を胸の前に出し、軽くお辞儀をした男の低音の声が鼓膜に響く。
黒髪、赤い目、男。そして。
「っはぁ!」
月に光る、真っ赤な、金の薔薇が彫刻されたペンダント。
「王族の証、気になる?」
この風貌、この、ペンダント。あぁ、なんということだ・・・・・・。
「アドネス王国、第二王子・・・・・・!」
「うん、大正解」
第二、王子。この世で最も優れた魔力を持ち、同時に最も危険な思想の持ち主だと知られる、あの、第二王子が。なんで、ここに。
炎から出てきたということは、少なからず耐性があるということ。
つまり、いずれ死ぬのは私だけ。こんな理不尽が許されてたまるか。
「なんで、こんな、田舎に」
特に何かあるわけでもない、なんの変哲もないこんな田舎になぜ、膨大な魔力量が必要な巨大な炎をそこら中に放って、沢山の人を、斬って、殺して・・・・・・!
沸々と怒りの感情が溢れてくる。しかし、恐怖は変わらないようで、ずっと地面に手をついた状態だった。体が動いてくれるなら、一発ぶん殴ってやりたかったのに。
「君だよ」
「え?」
こちらを見つめ、指を指してくる。私の後ろに誰かいるのかと思い振り返ってみたが、誰もいない。
つまり、正真正銘私のことだ。
しかし私は普通の人間。魔力なんざ持っているわけがない。私を手にしても、何も良いことなんてないはずなのに。
それに、家族や友達の仇にノコノコと着いていくわけがない。
「何が望み?」
せめて、なぜこんなことを犯したかを聞いておかないと、快く死ねない。分からないというものはとても気持ち悪いものだ。だから、冥土の土産に情報一つでも持っていかないと気が済まない。
「僕と一緒に着いてきてもらう」
何か隠された秘宝がこの村にあるのかと思ったら、私?
着いていくわけがない。
「絶対に無理だね。私は家族と一緒に死ぬんだ」
断ったら絶対に殺される。
それを分かっているのに、強気の言葉が出てくる。
こんなことになるなら、今日のお昼ご飯、いっぱい食べておけば良かった。
ーーごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
さっきより肌が感じる温度が高くなった。もうすぐそこまで炎が迫っているのだろう。
これで、家族のところへ。目の前の王子には、私を連れて行けなくなって無念のまま帰ればいい。
これで、この世界にさよならか。十六年間、案外楽しかったな。
目を閉じれば数々の思い出が。これが走馬灯というものなのか、そうでないのか。私には分からない。
肌全体が熱さで突き刺すような痛みを伴ってきた時、お腹の下にに誰かの腕が通ってきた。