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第九話 勝ったはずじゃが……出し抜かれて悔しい

 殺った……と思うたが、このオーガなる鬼、間に合わぬと見て自分から頭を突き出し首への致命傷を避けた。


 我の槍は大鬼の左目を突き刺し、雷の力をぶち込む。魔法に対する抵抗力とやらで、脳髄を破壊するまでには至らず止められた。


 強烈な怒りの咆哮。重傷を負っても衰えぬ闘志には感嘆する。我は瞬時にとことんまでやる覚悟を決める。


 しかし我の考えとは裏腹に、オーガは反撃と見せかけて駆け出した。身構えた我は、槍を引き抜く間もなく跳ね飛ばされた。


「おのれ、オーガなる鬼め!!」


 見事なる逃走に我は怒りを発する。あの深手で、溢れんばかりの殺意と闘気を発して、我を騙すとは天晴と言いたい。


 だが、大鬼ごときに出し抜かれて、悔しくてたまらなかった。父上がいたら叱られたであろう失態だ。


 あれほどの手練れが名もなき魔物として野を彷徨いておるのか。そう思うと、この世界は侮れぬようだ。


 オーガ達の敗北で戦意を失ったオーク達は、コバンらが難なく始末していた。


「あちらも終わったようじゃの」


 気分が高揚したのか声が響く。我の真似をして、あやつらの誰かが見様見真似で勝鬨をあげたようだ。


「一体取り逃がした、すまぬの」


 我は満身創痍のコバン達へ謝る。勝ち名乗りをあげて、気分の高揚に水を差したようで申し訳なく思うのだが、失態は失態だ。皆に詫びねばならぬ。


 我とてボロボロだ。頭の中にレベルアップと騒がしい声が響く。指金め、そんなものは後だ。


「誾千代様お一人でその年齢で、オーガを二体も仕留めただけで凄いですよ」


「そうですよ。銀級冒険者でも、一対一ならオーガは苦戦する魔物です」


「ヒイロ様でも、オーガ二体同時に相手するのは難しいんじゃないか」


「今の状況で、撃退出来ただけでも、充分な戦果ですぞ」


「オークとオーガの亡骸から、取れる素材は回収しましょう」


 口々に称賛をしていたので、我は気持ちを切り替える事にした。シロウとクロナが傷と疲労でぐったりしながらも、回収作業を始めた。


「オークとやらは猪だったか。肉を食うわけではないのだな」


「ええ。食べられなくはないですが、お腹壊すし、不味いですよ」


 食に関しては、我と認識は同じと思うてよいのかの。


 こやつらも手慣れておる。疲れていても、血の臭いを嗅ぎつけて別な魔物が来る前に、使えるものを回収するのだそうな。


 異文化というやつだの。戦が続いていると、死んだもの達への扱いは杜撰になりがちだ。


 我も回収作業を手伝うが、何が必要なのかさっぱりわからぬの。


「慣れるしかないですよ」


 シロウは我に、オーガの使える素材の取り方を教えてくれた。コバンは作業を手伝う大人を呼びに行った。


 オークは主に毛皮や脂が生活必需品になり、オーガは角や目玉や骨が魔法の儀式や武具のもとに使われる。


 魔物には核となる魔晶石というものがある。死んだ時に内包する魔力が結晶化したもので、オークのものが小さく、オーガのものが大きいのは魔力量の差がかなりあるためだようだの。


「他にもダンジョン産まれのものは、核となる魔晶石を取ると黒い霧のように自然に消えます。野生のものは、土に還る感じです」


 この世界の事を知らぬ我のために、シロウとクロナが交互に教えてくれた。


 ダンジョンとやらの魔物素材として切り取ったものや、食用の魔物の肉などは切り取ってしまえば、残るらしい。


 屋敷での戦闘の遺骸やオーガに殺された侍のテクズなど、放っておくと死霊が取り憑き不死者(ゾンビ)と呼ばれるあやかしになるという。


 そうなると面倒になるので放置したり埋葬せずに、火葬するか祝福を与えたものに包んだり入れて埋めるというようだ。


 我は根城にされぬように燃やして来たが、誰も反対しなかったのはそのためだと知った。


 テクズは祝福も火葬も難しい状況なので、魔物かせぬように魔晶石化しやすい臓器は抜いて埋めていた。


「それはなんじゃ?」


 クロナが侍を埋めた後の土に、何やら葉を撒き散らしていた。


「供養代わりと、魔物避けのヤツレ実の葉ですよ」


 亡骸が食い荒らされぬように辛味のあるカカシラの葉とやらや、死人が嫌がるヤツレ実とやらの枝葉や種を撒くという。


 森や草地のある所ならば、どこの地域にも生えているという。虫除けなどにも使えるので、荷物の中に塗り薬や飲み薬があったな。我も薬師の知識は多少あるので納得した。


 「我の国がこの世界と同じならば、今頃は黄泉の国のように、うごめく不死者だらけになっておったのう」


 案外神時の頃に、こうした世界と交流があって、黄泉の国もあったのやもしれんのう。現に我もこうして異界にいるわけだから、否定は出来ぬ考えなわけだ。


「それこそ先程のオーガなどは、知能が高いので通じないんですよね」


 猿や烏など、賢い相手は嫌うだけで危害が及ばなければ来てしまうそうだ。民草の悩みはどこも変わらぬものだの。


「それにしても森の魔物とやらは、みなこうなのか?」


 毎度毎度、このような戦闘をしていては身体も武器も持つまいよ。勝ったはよいが皆へとへとではないか。


「今回のような数は珍しいですよ。オーガは他種族に雇われ戦うこともありますが、ああして自分達から指揮をとるのは珍しいはずです」


 シロウはアカネらと住んでいた集落が近いようで、魔物解体の手伝いはよくやっていたようだ。話しながらも手元を狂わせる事なく回収を進めていた。


 森での集団行動は稀という。人里などを襲う時に、里人の数以上の魔物がやって来るらしい。裏がありそうだが、我にはまだ確証となる知識が足りない。


「そうならないために、御領主様の騎士団や衛兵の方が巡回してくれたり、冒険者の方々が調査や討伐を行ってくれるんです」


 賊徒なども同様のようだ。魔物か人かの違いで、退治を生業としている専門のものが、我のいた世界より多くいる印象だ。


 意外とアカネらが肝っ玉が座っているのも、そうした事情があるのだな。


 大鬼達は、これからザッコの屋敷を襲うつもりだったのかもしれない。合流する魔物共の数が増える前で良かったのかも知れぬ。



 コバンが大人達三人程連れて戻って来た。あちらのオークも壊滅し、素材回収を急いでいるとの事だ。


 疲れているが、アーガス達も再び水場のある方の偵察に向かってくれたそうだ。


「魔物達が領主の秘密の屋敷を狙うのは、魔力の高まりにも原因がありそうですよ」


 コバンがどういう事か説明した。戦闘で人数を減らす前は、警護の侍や門兵、拐われて来た素養の高い者達により、魔力密度が高まっていた。


 魔物達の目には屋敷が餌場のように映っていたかもしれん。知能の高いオーガが屋敷の戦力を図って襲撃を企てた。だが奴らは傭兵も請け負うという。やはり裏で動いておるものは、他にもいる可能性を頭に入れておくべきだろうの。


 逃げたオーガが敵わぬと見て引けば良いが、あれらを使ってけしかけたものが大鬼より弱いわけもない。


 まったくコバンらをはじめ、このものらは見通しが甘いのう。


 まあそう簡単に物事が都合よく運ぶとは思えぬ……というのが戦さばかりの世界に生きた我の考えだから、最悪の事態を想定し過ぎかもしれないがな。


『レベルアップしました。ステータスを確認して下さい』


 落ち着いた頃を見計らって、指金がまた騒ぎ出した。まあ確認する程のものでもなかろうが、見てみるとするかのう。


 能力などあまりあてにしては、痛い目を見そうだ。人を簡単に見極められるのならば、争いなど起きぬものだからの。


 ただ自分の状態を冷静に見るには役に立つものだな。


 コバンのやつはザッコより指金について詳しいようだったが、聞いた事のない能力に戸惑っておったな。


 レベルとやらが上がり、コバンが言っていた武具のスキルとやらが出てきおったぞ。我は既に槍を扱えているのに、覚えろなどとは片腹痛いわ。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 立花 誾千代 【異界の姫当主】

 レベル:3→5

 職業:姫侍

 冒険者ランク:──級(未登録)

 所属:なし

 年齢:7歳


 戦闘力  S

 生命力  C

 持久力  C

 敏捷力  A

 忍耐力  B

 精神力  A+

 魔法力  B

 魔耐性  A

 知識力  C→C+

 洞察力  B→B+

 判断力  A

 発想力  B

 器用度  E

 統率力  A

 交渉力  D

 政治力  C

 潜在力  S

 友愛値  C

 幸運値  B

 魅力値  A

 成長力  B+ 万能

 信奉度  385→602

 強化値  277→404


 スキル 固有スキル


・雷鳴閃撃Lv.3(魔力による身体強化Lv.2)(魔力による追加ダメージLv.1)

・立花の誇りLv.5(精神鼓舞Lv.2)(精神魔法耐性上昇Lv.3)(威圧Lv.2)

・言語共通解析(共通認識化)

・父の教え(能力大幅上昇)


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・新スキル 能力覚醒Lv.1(能力付与Lv.1)を獲得しました。

・スキルポイント+2獲得しました。

・槍技Lv.1を獲得可能です。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


◇ 導きの指輪 登録者【立花 誾千代】


 レベル:1→2


 スキル 固定スキル


・魔法力上昇Lv.1

・魔力量増加Lv.2

・ステータス鑑定眼Lv.2

・スキル模倣Lv.1  


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・スキルポイント+1獲得しました。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ◇


 間抜けな指金めが、槍も銃も刀も薙刀も馬術すらないではないか!


 ◇


『……スキルに修正があります。確認して下さい!』


スキル 固有スキル


・雷鳴閃撃Lv.3(魔力による身体強化Lv.2)(魔力による武装追加ダメージLv.1)

・立花の誇りLv.5(精神鼓舞Lv.2)(精神魔法耐性上昇Lv.3)(威圧Lv.2)

・能力覚醒Lv.1(能力付与Lv.1)

・言語共通解析(共通認識化)

・父の教え(能力大幅上昇)


・槍術Lv.5(雷纏Lv.2)(急所突きLv.1)(薙刀Lv.2)

・刀術Lv.4(不明)

・弓術Lv.3(不明)

・砲術Lv.2(不明)

・体術Lv.5(不明)

・馬術Lv.3(不明)


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うん……獲得出来る槍のLv.1とやらの数値も変わっておるのか?」


 それに不明とは何じゃ? 指金のやつめ、我の能力を測りきれずに、あえて濁して逃げおったな。

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