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第七話 異界の魑魅魍魎など、立花の敵ではないわ!

 我らよりも先に偵察に向かったアーガス達だったが、合流予定地点に行く前に戻って来た。森の奥で何かあったようだ。


「この先に、オークの群れがいます。数は、およそ十体です」


 あまり近づいて物音をたてると見つかるため、アーガス達は無理せずに、一旦我らへ知らせに戻って来た。


「オークとやらは強いのか?」


 あの燃やすと少々臭う脂の持ち主だな。魔物とやらの話しはアカネやコバンらから聞いた。ザッコくらいの大きさらしいが、あやつが単にオークとやらだっただけなのかもしれんぞ。


「一人で一体ずつ相手にするのなら、冒険者のランクが鉄級は必要かと」


 戦ならば敵の数や城の様子で強さがわかるというもの。しかし、獣や魔物相手では違ってくる。


 どうやらこの世界において、戦闘能力が見えないもの達の基準は冒険者や門兵らに合わせているようだった。冒険者ならば階級、騎士や衛士ならば武闘大会や勲章で測るというわけか。


 我は既に冒険者ならば鋼級は固いそうな。登録には基準年齢がちと足りぬがの。指金にもそのような事が載っていたな。


「陣を組む。童子達は荷馬車のまわりに固まれ。大人達は馬が怯えて走り出さぬよう注意せよ。大楯持ちは壁を作り、童子達を守るのじゃ」


 戦闘に不慣れなものは、戦うのではなく守らせる。童子達を守るためなら少しは頑張る事も出来よう。


「弓矢を扱えるものは荷車の上の干し草に一人潜め。後は大楯の隙間から先制じゃ」


 遭遇するまでは、ゆっくり移動する。門兵らと違い、魔物達は武具なしでも強いようだ。水場を抑えてしまえば、野営がてら陣を構築出来よう。それまでは我慢を強いられる戦いになるのう。


「コバン、おぬしはシロウとクロナ、それに門兵を二人連れて、後方を見張れ。知恵が回るなら搦め手の偵察は重要じゃ。アカネはワドウら童子達と一緒におるのじゃ」


 屋敷の戦闘と違うのは、オークとやらは喰らうのが目的。我らを捕らえた後で、売るなり楽しむなりする事など考えておらぬだろう。


「誾千代様は?」


 アカネが心配そうに我の着物をキュッと握る。不安なのだな。それでも我の心配するとは健気なものよ。アカネは捕まる前にも魔物と遭遇した事はあったようだ。

 

「己の不安より我の心配するのならば、まずは身体の震えを止めよ」


「うぅ……はい」


 素直な良い娘だ。我はアカネの頭をぐりぐりと撫でると、大人達の囲いの中へと押し込む。


「童子共よ。戦いは我に任せ、安心して震えておるがよい。オークごとき何するものぞ」


 予想通り、我ら集団の臭いを嗅ぎつけてやって来おったわ。熊や狼と同じで、オークとやらも鼻が効くのだな。


 アーガス達は十体程を確認したと言うておったが……この数に向かってくるならもっといるやもしれん。


 魔物共などに知恵比べで負けるわけに行かぬのう。


「アーガス、ぬしらは荷馬車を中心に防衛の指揮をとれ。背後の警戒はコバンらに任せ、そなたは側面に注意せよ! ヒイロ、おぬしは我と来い!」


 生き残っていたのは下っ端の侍と門兵ばかり。指揮などとったことなどないやもしれぬが、まあ任せたぞ。


「我々は二人であれに当たるのですか?」


 戦闘体勢を整えながらヒイロがたずねてきた。こやつ、震えておるのか。


「なんじゃヒイロ。恐ろしいのか? それならアーガスと……」


「いえ、違います。私の腕を買って下さり嬉しいのです」


 変なやつだ。武者震いならば構わぬ。討ち漏らしを避けるために、補佐が欲しかっただけとは言えぬの。


「ならばついて参れ!」


 木々の間からオークとやらが見え隠れする。ゆっくり距離を詰めてくるが、やつらも我らを狩るつもりで包囲を拡げているのがわかる。


 正面に十二、三、左右にそれぞれ三から四はいる。搦め手にはおそらく五はいるの。全部で三十近くおるようだが果たしてそれだけだろうか。


 コバン達にはすまぬが、我が行くまで凌いでもらうしかないようだ。


 魔物と呼んでおったが、知恵あるあやかしらしい。見た目は熊のようで、狩りの方法をよく心得ておるようだ。


 アーガスらには注意は促してある。だが先行して来た正面ばかり目が行くもの。戦の素人ばかりで、左右からの奇襲を忘れておる。童子達もおるのだ、死ぬでないぞ。


「オークとやらは毛皮が厚いのじゃな」


「はい。それに筋肉と脂肪で守られていて、致命傷を与えるまで深手を与えるのに苦労します」


 弓矢の牽制を待って我らは敵の正面へ斬り込んだ。威嚇程度しか効かないが、当たれば痛いらしい。ヒイロの言うように、オークとやらは熊よりも毛皮が厚く、肉も固い。


「立花の者を前にするとは、相手が悪かったのう」


 ────ブンッ!!


 我の振るう槍の風切り音と共に向かってくるオークを突き殺す。でかいが熊よりは鈍いようだ。三体ほど仕留めるとオーク共が動きを止めた。


「誾千代様、どこからそんな力が」


 大剣ひと振りで一体のオークを斬り伏せたヒイロも、腕は確かなようだ。オーク討伐にも慣れているようだから、残りは任せて良さそうだ。


「残るは八体か。ヒイロ、悪いがここは任せたぞ」


「えっ、あっはい、わかりました。お任せ下さい」


 戦の勘働きも悪くなさそうだ。実力高めのものを正面へ回している弊害を理解しておるようだな。戦場を任せられるものがいるのは、我も正直助かる。


 見た目で判断すると痛い目を見そうだのう。いまの我も似たようなものか。我はヒイロに正面のオーク退治を任せて、荷馬車へ戻る。


 一番嫌な戦況で両面攻撃を受け、荷馬車を中心に陣取る大人と童子達の悲鳴が上がった。。


 やはり全員正面の戦いに気を取られていたようだ。オーク達はギリギリまで潜みながら移動していたせいもある。鈍いが森の住人だけの事はある。


「じゃが、残念だったのうオーク共よ。この我、立花誾千代がいたのが、そなたらの運の尽きじゃ!」


 我は雷を身に纏い、駆け──吠えた。怯えきって逃げ出しかけた防衛陣に覇気が戻る。


「怯むな。おぬし達には我がついておる。立花の者としての勇姿、我に示してみせよ!」


 我は左翼のオークを一蹴すると、荷馬車の屋根で弓を放つ門兵の横に立ち、皆を鼓舞した。


「ぎ、誾千代様!!」


 アカネ達が歓喜の声をあげた。大人達も気力を取り戻したようだのう。まあ、出来る事なら我抜きで、持ちこたえられるくらいに性根を鍛えよと言いたい所だがの。


「正面はヒイロの討ち漏らしだけを狙え。右翼のオーク達はお前たちがやるのじゃ。我はコバン達の加勢に参る」


 知恵が回る敵の事、退路にこそ主力を置いている可能性がある。我やヒイロ抜きならば、包囲の突破は難しかったはずだ。


 むぅコバン達よ。救援は間に合わなぬかもしれん。すまんが……死んでくれ。


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