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第十八話 誾千代さま、騙される

 我はアカネらとハルキの町の工具師の店で、短弓と大量の矢を買い入れた。草を刈るための手鎌や小刀も大人達や童子の人数分用意させた。


 ルデキハ伯爵領は果樹栽培が中心というが、魔物をはじめ多くの野生の獣がおるから、狩りの道具や釣りの道具がそこかしこの店で売られていた。


「店主よ、魔法の道具とやらは高いのか?」


 コバンの話では、簡単な魔法の火起こしなどは一般にも流通していて、比較的安価で手に入ると聞いた。


 我が欲しいのは魔法の道具よりも刀だなのだが、流石に刀が置いてある店は少ないらしい。


「嬢ちゃん達はダンジョンにでも潜るのか? それなら少し値は張るが、このランタンはいいぞ」


 明かりを灯す道具で、松明やオークの脂と違い臭わない代物のようだ。燃料もオークらのような魔物から得られる魔晶石の欠片でよいのだとか。


「理屈は俺もわからんが、殺意だか害意を持つものが十(メド)の範囲に近づくと明かりの色が変わるそうだ」


 金貨十枚もする魔法の道具だが、一番の売りは落としても壊れない頑丈さだと、店主は笑う。


「誾千代様、買うのでしたら魔導ランプと魔導警報器を別々で買った方がお得ですよ」


 クロナが店に置かれている物に気がついて助言をくれた。二つ合わせてこちらは金貨一枚と割安だ。


「どういうことじゃ、店主よ?」


 物を知らぬ小娘と侮ったようには見えなかったのだが、気のせいか。


「なぁに、その物言い……あんた異界人だろ? 異界の奴らは物にこだわりがあるやつが多いんだよ」


 高価なランタンと安価なランプとは同じ魔法の道具でも、作りが違うらしい。


「魔道具と魔導具の違いは俺も詳しくは説明出来ねえ。ただ魔法の力というか、ものづくりの魂が違うようなのさ」


 後で知った事だが火の簡単に付く魔法の火打石など、魔導回路や刻印なる手法を用いた魔導具と呼ばれるものが、生活を営む人々の主流なのだそうだ。


 魔晶石があれば誰でも使用出来る魔導具は、作り手の負担も少ないらしく失敗も少ないようだった。


 欠点は魔力回路なるものや刻印が歪んだり傷つくと機能を失う事だろう。大切に扱えば長く使える。


 しかし、壊れたり傷ついたりしやすいのは事実で、必要性に応じてまた購入する事になる。


 店主の薦めたランタンなる魔道具は、我がアカネらに魔法を使えるように力を与えたように、魔力を道具に付与する。


 あらかじめ魔力を込めながら造り出す事もあるようで、出来た道具の性能も作成者の力量に左右されるというわけらしい。


「込めた魔力によっちゃあ、魔晶石など使わずに済む魔道具もあるそうだ。いわばこいつには作成者の誇りや魂が込められているようなものなのさ」


「うむ、ならばこのランタンとやら、我が買った!」


 店主に乗せられたような気もするが、誇りを持ち出されては買わぬわけには行くまい。


「ちょっと、誾千代様。騙されているかもしれませんよ」

「たとえ良い物だとしても、明かり一つに金貨十枚はぼったくりですぜ」


 従者どもが騒がしいのう。ザッコの財産は皆の共有のものだ。しかし利用に当たり、何に使うかは我に任されておる。


「ハッハッハッ〜、いいね、嬢ちゃん。こいつは金額の問題じゃない、価値観の問題だ」


「その通りじゃ。買うための銭がないのなら仕方ない。じゃが……職人の誇りと魂を見せつけられて、ガラクタに手を出すわけにはいくまいよ」 


 渋るクロナから財布を貰うと、工具師の店主のテーブルの前に金貨十枚を積む。ずっしりと重たかった財布が一気に軽くなる。


「こいつは本当にいいものなんだよ、嬢ちゃん。壊れにくいのには理由があってな、自己修復するんだよ」


「付喪神が付いておるようなものかの」


 魔晶石がなくとも、一日位ならランタンとやらの魔力で明かりを灯し続ける事が出来るようだ。それに魔力付与を破壊されない限り、潰されても元の形へ修復するのだ。


 他にも水の浄化壺や、虫除けの粉などを買った。良い買い物が出来て、我は満足した。しかし買い物を終えた後でコバンのやつに呼ばれ、こっ酷く叱られた。


「私の事をどう思おうと構いませぬよ。ですが、誾千代様はまだこちらの世界についてわかってらっしゃらない」


 ぶち切れるコバンの前には我とヒイロとクロナがいた。二人は我が騙されているのを止めなかったせいで叱られた後だ。


「伯爵の客人であり、怒らせると後が怖いから手加減してもらえただけマシですよ。あれは新人の銘なしの品。良いものでしょうが、仕入れ値なんて金貨一枚もしてませんよ」


「それはまことか?」


「ある程度は教えてくれていたのでしょう? いつまでも壊れない作品ならば、魂を刻むように銘を刻むものですよ」


 確かにそうだ。名刀には刀匠が名を刻む。金の問題ではない、価値感の問題だと乗せられてしまったようだ。


 名のあるものの品ならば、品質以上に価値が生まれ高値になる。そういう意味では、無名の新人の品は付加価値はないに等しい。


「一流の付与師の作ったものならば、金貨十枚は妥当なので当人からその値で買うのなら私だって咎めませんよ」


 我が騙された工具師の店主は、工具師自身ではなく、商業ギルドなる組織から派遣された商い上手。


 ハルキの町が比較的大きな町だとしても、町の職人は異界人の違いにそれほど詳しくないそうだ。


 コバンを警戒しはぶいたせいで痛い目を見た。今頃あの商人がほくそ笑んでいるかと思うと腹が立つ。


「これはコバンに言われずとも、我の失態じゃ。許せ」


 どこの世界も商売人は油断出来ぬとわかった。我はヒイロとクロナに謝る。ヒイロは無頓着ゆえ仕方なく、クロナは渋っていた。少し我も調子に乗っていた。


 ザッコの財産を考えると金貨十枚は痛くない。だが、そんな考えではいかぬのだ。


 宿の食堂という場で正座をして反省させられるという屈辱は忘れぬ。未熟な我に、亡き父上の幻滅した顔が浮かぶ。


 誇りを持ち出して、我の立花の誇りを傷つけた事を必ず後悔させてやるからの!!


 ────コバンのやつへの詫びの印に、我が身に着けていたザッコの服を要求された。匂ったので一度クロナに丸洗いされたので、旧主の匂いなど残っておらぬはずだ。


 良い生地ゆえ売るなら好きにせいと思いコバンへあげた。何故かヒイロと喧嘩になり、奪い合いになる。ヒイロの怪力にコバンが奮闘したため、服は破れてしまった。


 二人は無言で破れた服を見つめた後、それぞれの腕にある破れた服を畳んで去って行った。

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