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第十四話 アカネ、魔法を獲得する

 森を抜けた先に広がる異界の風景は、草木の種類が違う程度のようだ。森の中、近くで眺めたところ、さほど違いは感じなかった。


 森の中は比較的歩きやすいのに、外周部になると再び枝払いが必要になるのから不思議だ。


 コバンと入れ替わりでやって来たヒイロが、異界の文化について語ってくれる。今回は異界の知識に関してだ。


「その指輪の言うステータスと言うのは、召喚された者達の残した発言などを参考にしたのでしょう。そうして作られたものが、この世界には多々あります。冒険者の階級制や、魔力をあてにしない火起こしなどだそうですよ」


 ヒイロは自分の知っている異界の知識についてさらに詳しく教えてくれた。


 言葉や知識が似通っているのも、我のように召喚されて来たものが他にもおって、この世界に受け継がれているそうだ。


 呼び出した世界の中には、理解出来ぬ知識や才を持つものもやって来るそうだ。


 荷馬車が森の中を抜けて来られたのも、我のいた世界より車輪の仕組みや素材に加え、魔法まであったためなのだと納得した。


「悔しいが、魔法を含めた技術はこの世界の方が上のようじゃの」


「誾千代さまのいた世界は、魔法はなかったんですね。逆に、そのせいでお強いのかも」


 アカネが感心するが、コバンが言うには召喚による魔法のボーナスとやらだから違うな。


 異界の力が我の国より上であると、認めたくはない。だが召喚とはそういう侍を呼ぶ以外の恩恵も、もたらしてくれるので、自ずと発展しやすいようだ。


 南蛮の神とやらも知識はくれた。だが崇めたからといって、その物自体を作るのは人間だからのう。


 その辺りは魔法があろうと変わらぬようだ。まあ全てがそうとは限らないから呪いの類は危険なのだ。


 それに魔法に頼るばかりでは、魔法が封じられたり、枯渇したりすると脆いのだとか。


「この世界は広いですからね。冒険者ギルドの把握する果ての地でさえ、生涯かけても人には到達出来ないと言われています」


「ふむ、事実かどうかはわからぬが、壮大な世界なのだな」


「あくまで噂ですが、良くも悪くも夢を追う冒険者が、食いはぐれがない理由ですよ」


 ダンジョンとやらも含めて、忙しい世界でもあるのだな。我の世界と同じように、怪しげな教えを広める国などもいるようだ。


 父上の仕えていた主は南蛮物にかぶれたようだが、本当に信じていたかは怪しいものだ。狡猾な南蛮人共も、それはわかった上で取引を行っていたように思う。


 ふと、いま置かれている状況と、かつての戦局が似ていて記憶が呼び覚まされた。


 そう言えば、新たなスキルとやらについて指金のやつが何か言っておったな。


「アカネ、近うよれ」


「はい?」


 童子達と仲良く話していたアカネが嬉しそうにひっつく。


 我はすっかり忘れていた指金の能力を思い出した。能力付与とやらがあったはずだ。


 アカネは我の役に立ちたいと言っていたからの。せっかくだから望む通りの力がつくと良いの。


 さて、指金よ。役立たずと思われたくなくば、我の意を汲むがよいぞ。


 少々指金のやつに脅しをかけてみた。こやつは元の持ち主と似たのか怠けるからの。


「な、なにか声が聞こえます、誾千代さま!?」


 我の意を汲み、さっそく指金が仕事をしたようだ。アカネが慌てて我にしがみつく。


「なんと言うておるのじゃ」


「選択された能力からひとつスキルを選ぶことが出来ます、って」


「ならば好きなスキルとやらを選ぶが良いぞ。指金よ、アカネにもわかるように、能力の説明を伝えよ」


 元々魔法に関して才能のある童子だ。我が付与とやらを使わずとも、アカネならば自力で覚えられただろうの。


 指金は我に握り潰されたくないようで、しっかり丁寧にアカネに伝えていた。


「……」


 何やらアカネが悩んでおる。説明が難しかったのか? 我も詳しくないので、助言しようがないのだ。


「わ、私も誾千代さまみたいに強く格好良くなりたいのに〜」


 どうやら我のように雷を纏って戦いたいようだ。


「鍛錬もせずに強くなる道理などないわ!」


「ぴぃ~〜」


 アカネめが奇妙な声を出して怯える。魔法とやらで強化した所で、素の力量なくば、実力などたかが知れると言うもの。


「おぬしは魔力が強い。じゃから、いまはその力を活かした能力を選ぶとよいぞ」


 アカネは悩んだ末に、風魔法Lv.1と派生したスキルの疾風陣Lv.1と浄化の風Lv.1を獲得していた。


 疾風陣は矢弾のように移動力が上がる魔法だ。アカネの中に、我の雷のように動きたい願望がかなり強いのがわかる。


 こやつ、叱った後だというのに意外と図太いの。我の真似をせんでも強くなれる方法などいくらでもあるだろうに。


 浄癒の風は解毒や病を除く力と、傷を少し癒やす力があるようだの。


 アカネに能力を付与すると、我の強化値とやらが減った。これは我と我を信奉するもの達を強くする為のもののようだ。


 アカネのステータスも、スキルなど見える範囲が増えた。


「ちょうど良い、切り傷を負った童子に魔法をかけてみよ」


 我が促すとアカネも魔法を使ってみたくて怪我をした童子の側へと寄る。


「浄癒の風ーー〜ッ」


 なんとも気の抜ける発声だったが、アカネが見よう見真似で使ったスキルにより魔法が発動した。


「……痛くなくなったよ?!」


 童子が嬉しそうに傷口のあった所をみせて告げる。


「誾千代さま……」


「うまく扱えたようじゃの。コバンが言うには魔法を使い過ぎると気を失う事があるそうじゃ。加減に気をつけよ」


 便利な魔法を覚えたものじゃ。少なくともこれでアカネは役に立つものになった。


「我の側にいたいのなら、遠慮なく使うからの」


「はい!! 望むところです」


 健気なやつじゃ。傷を治した童子には、アカネの事は黙っておくように伝えた。情報があまり広まると、邪な思いを抱くものが出るからの。


 アカネのやつに無事能力を付ける事が出来たので、指金はもうしばらく我が預かっておくと決めた。


 ────指金からホッとするようなため息が聞こえたが、我は聞こえていないふりをしてやった。



 森を抜けてルデキハ伯爵領内へと入る事に成功したので、我はザッコ領から一つ先の町へと向かう事にした。


「この辺りは街道へ戻るとまだザッコ領からの方が近いのですよ。領境の町へ入らず、デリーの町へ行くのがよいです」


 コバンとアーガスが進路について助言をくれた。森を抜けた事で、一つ先の町へ進んだ方が早くなっていた。


 鬱蒼と茂みに慣れた目に、長閑な景色が広がる。ルデキハ伯爵領は平穏そのものだ。


 森に比べると歩きやすいが、街道とはやはり違い足場が悪い。雑草に隠れた大地はでこぼこしていて、童子達が油断して転んでいた。


「見晴らしが良い分、足下への注意を忘れがちになるようじゃな」


 ザッコ領は森や川近くを除いて、荒れ地が多いそうだ。むき出しの大地ゆえに、足場への注意がしやすい。森の中も歩きづらいために、注意力が増す。


「ワドウ、ホーネ。荷台の後ろに折れた槍がいくつか積んである。引っ張り出して転びやすい童子達に渡せ。アカネ、手伝ってやれ」


 折れた槍でも童子なら杖の代わりにはなるはずだ。簡単な傷ならアカネが治せるようになったが、魔力とやらを消耗する。


 魔力を鍛えるのなら、気を失うまで訓練を重ねるのが良いそうだが、それは我らの行く先が落ち着いてからの話となるだろう。


 ルデキハ伯爵には起きた事をそのまま話す事にすると、改めて決まったからの。それよりうっとおしく付きまとう、厄介事の処理が先だの。


「先程の……拝見しましたよ、誾千代様。お役に立って見せるので、私にも魔法の力を下さい」


 素直で露骨なやつだ。アカネと違って、キラキラした目……ではなくギラギラしておる。


「拝見も何も、そなたの前でやった事だから隠しようがないわ。だいたいヒイロよ、我の力を与える意味をわかっておるのかのう」


「わかってますよ。誾千代様に私の初めてを捧げます」


 こやつ……わざと言葉足らずにいって、我をからかっておるな。

 

 ────ゴンッ!!


 「あだっ?!」


 とりあえず手に持つ槍の柄で、ヒイロの頭を叩く。まったく、コバンといい、こやつといい変人ばかりだ。


「我が力を授けるという事は、盃を交わし主従の契りを結ぶに等しいのだぞ」


 アカネとは義姉妹のつもりだったが、ヒイロはどうしたいのか今いちわからん。なんせ目がギラギラと輝いておって、気味が悪いのだ。


「私はこの剣を────誾千代様に捧げたいのです」


 南蛮侍が剣を主に捧げ、忠誠を誓うのと同じなのかのう。異国異界の風習は、わからぬものよ。


「ならば、はじめからそう述べよ。異界の南蛮侍も剣を持って忠義に変えるのじゃな」


「忠義ではないですよ? 誾千代様の姉となりたいのです」 


「おぬし……もうよいわ。能力は好きにせよ」


 ヒイロの忠義は【心愛】 となっている。指金を信用するならば、我への忠誠は疑いようがない。少し……いや、かなりの割合でコバンと同じ気色の悪い性根を感じて不安なのだがのう。


 アカネ同様に、ヒイロのステータスも見える範囲が増えた。こやつは騎士だけに、始めからスキルとやらを持っていたのだな。


 どうやら今までは、魔法は使えなかったようだの。アカネと違い魔力も低いわりに魔法に対する守りの力は大したものだ。


「……そんなぁ、私には誾千代様のような雷も風もないなんて!」


「うるさいやつじゃ。才能のなさを嘆くより、使える所を伸ばせ」


 騒がれると面倒なので、唯一あった地魔法Lv.1に、再生Lv.1と、重力Lv.1とやらを勝手に選んでつけた。


 こやつ自身、真っ先に選んだのが、誾千代の盾Lv.1という奇っ怪な能力だったからだ。


「寵愛補正が欲しかったのに、酷いです誾千代様!」


「役に立とうと思うのならば、我の壁となって死んでみせよ」

 

 アカネと違ってこやつは残念な性分だった。もとから剣技や槍技の能力が高いのに、それらを活かす気がなかった。


「一つ聞くぞヒイロよ。おぬし、何故ザッコに仕えておった?」


 我の質問にヒイロの目が泳ぐ。こやつ、ザッコやコバンと同じ類の輩やもしれん。別な意味で腹が黒いようで気持ち悪いのう。


「誤解です、誾千代様。私は幼女趣味ではありません。原石を磨いて一人前の淑女に育てあげたいだけなのです」


 こやつは本当に駄目なやつだった。ある意味ザッコの毒牙に掛からぬようにアカネらを保護していたとも言える。毒を持って毒を制するようなものだの。


 ただし、それはあくまでも自分の欲望のためだと言うのだから、始末に困る。


「ふへへ〜〜っ、もう契約を交わしたからには誾千代様は私から逃げられせんよ?」


 何故だろう、非常に腹ただしい。生命をかけてまでこやつらを守って来て損した気分だ。


「お前たちからは解除出来なくとも、我からはいつでも外せるのじゃ、たわけめ!!」


 ヒイロの顔が青くなった。してやったりと思ったようだが、甘いわ。泣いて縋りつかれて難儀したので、調子に乗らず精進するよう伝えておいた。


 アカネとヒイロに強化値を使ったので残りは温存するとしよう。ヒイロのうつけが騒ぐせいで、コバンやシロウらが物欲しそうな目で見て来たが、無視じゃ。


 我は頭が痛くなった。アカネはともかく、このヒイロのステータスに【誾千代の義姉】 なる証がついていたからだ。


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