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お、食った。

駐車場に駐めておいた車のトランクに服を積み込み、まず自宅に戻る。玄関前に車を駐めると後部座席でエドがノアに話しかけた。


「ノア起きて、起きて。寝るなら家で寝よう。」


振り返るとノアは眠そうに両目を手でこすっていた。半分眠った状態のノアをなんとかエドは車から連れ出す。玄関のドアを開けてエドとノアを通し、もう一度車に戻って荷物を家に運び込む。


家に入るとノアはソファで寝ていた。俺たちにとっては日常生活だが、ノアには刺激が多くて疲れたんだろう。


「ヴィンス、鍵貸して。買い物してくる。あと服洗っておいて。」

「いいけどなんでだ?新品なんだからそのまま着ればいいだろ?」

「化学物質にかぶれるかもしれない。あと糊がついているから汗を吸わないし。」

「へー、そうなんだ。」


手を出したエドに車の鍵を渡す。エドが出て行った後は、寝ているノアの横で片っ端から服のタグを切る。服を洗濯機に放り込んだが全然入りきらない。もう1回か2回は洗濯しないと…しまったな、コインランドリーに持って行けばよかった。予想どおりエドが買い物から戻ってきてもまだ洗濯機は回っていた。


午後になってノアは目を覚ました。エドが買ってきた物から適当にランチにする。ノアが何を食べるかわからないので、エドはまたいろいろ買っていた。ブリトー、タコス、それに何種類かのサンドイッチ。エドがハムチーズサンド、俺がタコスを食べるとノアはブリトーに手を出した。はしっこをちょっとかじって中が何か確認する。大丈夫そうだと思ったのかぱくっと口に入れた。


「お、食った。」

「ブリトーか。食べると思わなかったな。中身わからないのに。」

「アラダにも似たような料理があるんじゃないか?」

「ああ、そうかもね。クレープみたいに具材を巻くのは世界中にある料理だ。」


ノアはちょっと違うな?みたいな顔をしたが、味は気に入ったらしい。両手で持ってもぐもぐ食べ始めた。半分くらいまでもぐもぐしていたが、急に食べる速度が遅くなった。あと1/3くらいでもてあましたような顔をする。ブリトー1個食べられないのか。小食なのか、まだ胃が本調子じゃないのか。


「ノア、腹一杯なら無理して食わなくていいぞ。」


そうは言ったが意味はわからないだろう。まだ食べようとしているノアの前に手を出す。


「無理しなくていいって」


手の中のブリトーを指さし、よこせと手を動かす。ノアは意味が分からないままにそろっとブリトーを差し出した。その手から受け取って残りを俺が片付ける。うん、チキンか。あとトマトとレタスと…なんか物足りない味だな。辛くないんだ。タコスも全然辛くないやつだったし。お子様味だ。


「もうお腹いっぱいかな。フルーツあるけど。」


そう言うとエドは席をたった。冷蔵庫に行ってブドウを出してくる。ブリトーを食い終わって俺もテーブルに置かれたブドウに手を伸ばす。昨日食わせてもらえなかったからな。ノアは一粒とって口にいれ、もう一粒を手に取るとそのまま動きを止めた。


ブドウを手に持ったまま俺とエドに視線を向ける。もどかしそうな顔をして何か言いたげに少し口を開いたが、思い直したようにまた口を閉じた。


「どした?あんまり美味くなかったか?」


俺が聞いてもノアは何も反応せず、諦めたようにブドウを口に入れた。その様子を見てエドが腕を組む。


「うーん。どうしたんだろ。」

「なんだろ。まだ2日目だし、落ち着かないのか慣れてないのか。」

「言いたいことがあるのか…といってもまだ無理だけど。もうちょっと後にしようと思ってたけど、ノアが言葉を覚えたいと思ってるなら明日から始めようか。」

「ああ、それはいいな。じゃあ最初に『はい』と『いいえ』だけ教えとくか。」


ノアの名前を呼び、目の前でおおげさにうなずいて笑顔で「はい」と言ってみせる。それから思いっきり嫌そうな顔をして、首と両手を振って「いいえ」と言う。それを見たノアは笑ったが、もう一度同じ動作をしてみせるとわかったというようにうなずいた。


「覚えたかな?じゃあテストだノア。『いいえ』」


そう言うとノアは首を振った。


「よし、じゃあ『はい』」


そう言うとノアはうなずいた。


「うん、意味分かってるな。賢い賢い。」

「ヴィンス、君は研究所を首になっても保父さんで食っていけるね。」

「ああ、子供は好きだよ。弟が赤ん坊のときから面倒見てたしな。」

「弟、ね…」


エドは含みがある物言いをした。俺も自分がうっかり口を滑らせたことに気づいた。なんとなく2人とも黙ってしまって、ノアが怪訝な顔をしながらブドウをとって口に入れるのをしばらく見ていた。


エドが帰った後、少し早いが風呂の用意をする。シャワージェルで泡だった風呂を見て、ノアは俺の顔と風呂を見比べた。


「どした?」


ノアは俺を指さし、風呂を指さした。俺に風呂に入れって?いやいいけど。服を脱いで風呂に入ると、同じようにノアを服を脱いで後からバスタブに入ってきた。


えーっと、これはもしかしてノアさん間違って覚えた?風呂は2人ではいるもんじゃないんだが…最初に一緒に入ったからそういうもんだと覚えてしまった?それとも古代アラダは風呂は人と一緒に入るものだったんだろうか。人前で肌を出すのはNGでも風呂はいいのか?異文化ってわからないな。わからんが…まあいいか泡で遊んで楽しそうだし。


夜は今度はベッドで寝てもらった。俺が先にベッドに入って横を叩くと、わかったというようにノアがうなずく。だが思いついたように「はい」と言った。


「お、覚えたか。偉いぞ。」


そう言うとノアは自慢げな顔をしてベッドに上がった。しかも俺の腕にぴったりとくっついてきた。昼間の様子からすると男同士で寝るのは嫌がるかと思ったが。やっぱり異文化はわからない。


そして目を閉じたと思うと、すぐに寝息を立て始めた。昼寝もしたくせによく寝る。知らないことだらけで疲れるのか、疲れやすいのか。それとも体が弱っているんだろうか。そうだな、縛られてたってのは普通じゃない。今日は仕方なかったが、しばらく無理させない方がいいかもしれない。そんなことを思いながらベッドサイドの明かりを消した。

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