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彼女はコーヒーに溶ける

作者: 孫上

「ブクブクブクブク」

静寂の中沸騰間近のお湯が8畳半の部屋に響き渡る

「カチッ」

この一音は、お湯の状態のみならず、私の鼓動にも影響を与える。

目にも止まらぬ速さで私の右腕はT-falへと伸び、左手でカップを手元に引き寄せながら、脳裏には靄がかかっていた。

気づけば、カップには並々のお湯が注がれ、すんだ透明色から澱んだ茶褐色へと変貌を遂げていた。

朝4時。新聞を配達するバイク音も聞こえないこの時間。私は築32年の古びたアパートの一室にて、活動を始める。

無造作といえば褒め言葉のボサボサ髪を気持ち整え、髭を撫で、カップと共に、薄暗いの外へと足を運ぶ。

私はこの時間、この空気が好きだ。

この時間だけは私はこの世界の主役。そう錯覚することができるからだ。ひとっこひとりいない、いつもの路地に、家屋の窓に、光などは存在しない。存在するのは、実年齢プラス5歳に見間違える私とい惰性を具現化した者だけだ。

いつからだろうか。私が私という年齢で生きづらくなったのは。世間体でいう、大人っぽいは褒め言葉ではないと私は考える。私の何をあなたが知っているのだろうか。私の何をみて、大人っぽいなどと判断しているのだろうか。年齢、外見、行動、思考...。あなたの思う大人っぽいはあなたのイメージしていた私と、実際の私とのギャップからその様な言葉が生まれている。あなたの期待に応えられなかったからか、あなたの思考に私がそぐわなかったからか。乖離を年齢の話で埋め合わせをするなんて。都合のいい言葉だ。

私はその言葉を聞くたびに、見えない壁に塗装を施し、窓を設置するにしてもすりガラスにして、全貌を見せない様にするなど、私が私でいるために費用を投資しなければいけない。そうでなければ、生きていけない状況を誘発してしまう。


こうも物思いに耽っているうちに、いつもの公園に足を踏み入れる。時間は有限であると教えてくれるかのように、辺りは先ほどよりも少し明るくなっている。それでも、未だ薄暗く辺りがよく見えない中、私は慣れた様子で、ノールックで、ベンチに座り、足を組む。右手には先ほど入れたコーヒーカップ。

右手が口元へと近づくにつれて、私の1日も始まりを迎えようとしている。

「こんにちわー」

私より1オクターブ高いだろうか。絶対音感のない私は、心の中でそう確信し、声のする方へと顔を向ける。

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