ワチャワチャ?1周年記念パーティー(※メタネタあり)
プロトタイプ版のお話の前に、まずは1周年記念の短編をお送りいたします。本当は収録する予定はなかったのですが、せっかくの1stアニバーサリーだから……ということで、急遽書き下ろしました。
※注意!
メタネタだらけです。劇中で作品名も出てしまいます……本当にごめんなさい(;´Д`)
半年前以来の、その日、その時間帯、その場所。空から見て、2つの【0】の字が連なった外観を持つ建物の中。彼女たちはその中に設営された、大規模なパーティー会場に集まっていた。並べられたテーブルや飾り付けはいずれも白を基調とし、パーティー料理も潤沢に用意され、この会場をより華やかに彩っている。以前と同じように、誰もがこれからはじまる事に胸を躍らせていた。
「皆様お集まりいただきまして、誠に感謝いたします。本日の【1周年記念パーティー】の司会進行を務めさせていただきます、アデリーン・クラリティアナです」
設営された舞台の壇上にて、金髪碧眼で蒼色を基調とするお淑やかなドレスに身を包んだ高身長の美女――もとい、アデリーンが、「ぺこり」と、まずは頭を下げて会場全体にあいさつをする。背景のスクリーンには何らかのロゴが記されているだけでなく、そのロゴの付近に【1st Anniversary】と、金色をベースとする豪華な字体で書かれていた。
「イキナリでなんですが、こちらの方は……プロトタイプ版の私です」
そんなアデリーンの左隣には青を基調とする衣装を着た金髪の長身女性が立っている。やはり彼女も、会場にいた誰もが息を呑むほどの美貌の持ち主だった。
「はじめまして! 私は、【アデリーン・ザ・アブソリュートゼロ】のプロトタイプ版、つまり作品の初期構想の世界からやってきたアデリーンです。プロリーンとお呼びしていただいても構いません」
「……と、初期案のほうの私が言いましたが、本日は四次元の壁を取っ払って、プロトタイプ版の世界からゲストの皆様をお呼びしております。皆様どうぞお入りくださいませ!」
当然ながら髪型など細部に違いはあるものの、どうやら一応は同一人物に当たるようだ。2人の主役からのあいさつに参加者全員が惜しみない拍手を送り、手が止んでから【現行版の世界】のほうのアデリーンが咳払いをした後、合図を送る。扉を開けて、初期構想の世界の人々が大勢押しかけ――というより、この記念すべきパーティーに参加した。
「お手数かけますが、本編の皆様は該当するプロトタイプ版の方々とご一緒にお並びください。……えー、改めまして。本日は【アデリーン・ザ・アブソリュートゼロ】が連載開始から1周年を迎えた、記念すべき日。ここまでやって来られたのも、すべては応援してくださった皆様のおかげです」
アドリブも交えて原稿を読み上げている途中に、少しだけ涙を流してから、彼女は司会を続行する。隣に立つ初期案のアデリーンは、まるで妹を見守る姉のように誇らしげに、感慨深そうにしていた。
「本当にありがとうございます、これからも応援――……よろしくお願いいたします。今日はここから、無礼講です。どうか存分にお楽しみください」
そこでアデリーンが感謝の言葉を告げたと同時にスピーチは終わり、会場中の参加者からは万雷の拍手が送られた。そして、食事会と交流会がはじまった。
「へぇ~、あなたがそっちの世界のワタシ? なんだかワタシよりかっこよくない? ずるっこめぇ」
「うわ。こっちのワタシはこんなのか、ウザ絡みしやがって……」
「うっせ~わ! ちょっとは、あなたの代わりに頑張って来たワタシを労わんかいッ。ね~ね~、あなたの下の名前も【みつげつ】って書いて【みづき】?」
「そもそも設定されてない!」
紫がかった黒髪で蜂蜜色の瞳を持つ女性・蜂須賀蜜月が、後輩に絡むノリでシャンパングラスを持ったまま、もう1人の自分と肩を組んで盛り上げようとする。初期構想の世界、というより、パラレルワールドの蜂須賀とも言うべきなのか――、そちらのほうの彼女は、瞳が赤いことと目つきが悪いことを除けば、ほぼ現行版と変わらぬ姿をしていた。
「さすが、キリッとしてんねぇ。今日は1日よろしく頼むぜ、もう1人のわたし!」
「ははは、そっちのわたしは、なんだか蜂須賀さんみたいなノリだね。よろしくお願いします」
虎姫もまた、もう1人の自分とシャンパンを交わして楽しんでいる。容姿はほとんど変わらないものの、性格や全体的な雰囲気は豪放磊落な姐御肌であった。いわゆる、麗人的な女性である現行版の世界の虎姫とは正反対。
「えっ! そっちの世界のあたしと若干生まれが違うんですか!?」
「しーっ! 頼むから、それはまだ言わないで。本編のあたし!」
もう1人の自分から口止めするように懇願されたのはロザリアだ。やはり姿形に違いは無いものの、初期案の彼女のほうがどこか暗く、重たいムードを漂わせていた。なお、未成年であるためアルコールではなくオレンジジュースを飲んでいる。
「そっか、私と葵ちゃんは……」
「立ち位置も性格もまるで違ったんだね。おっとり屋さんでビックリだぁ」
「まさか、本編に採用された方の竜平君のお姉さんになるとは思いませんでした!」
「しかも、ひょっとしたら出られなかったかもしれないって、ライブ感もいいところじゃないですか、それ! 綾女お姉さんが出られてよかった……」
「ありがとね。初期プロットのほうのあやめちゃんと葵ちゃん」
「わたしも、お姉さんのようなかっこいい女性になってみたいな……」
「なれるわよ。がんばんなさい、もう1人の私」
竜平の姉で赤髪の女子大生・浦和綾女と、竜平のガールフレンドである青髪の女子高生・梶原葵、2人はどちらも初期構想の世界の自分たちとジュースでも飲みながらじっくり話していた。
「本編の世界の僕がこいつか! 随分情けなそうじゃないか!」
「お前みたいなナル男と一緒にしてんじゃねーよ! 出てけホラ! 出てけ!」
「はんッ!! 君が変身したバットガイストは僕と違ってナーフされてるから、吸血能力とか使えないらしいじゃないか。僕より弱っちいくせに偉そうにしてさ!」
「うっ……そ、そんな、そんなに言わなくたっていいじゃないか……」
交流を楽しむどころか、逆にケンカをはじめてしまったのはドリュー・デリンジャーである。容姿も性格もほぼほぼ同じで、初期案の世界から来た方が、比較的大物っぽく見えるが――。実際はどんぐりの背比べだ。
「ふーむ、俺たちのプロトタイプ版は……」
「いないらしいな……つれぇわ」
「がっくり」と、ビールが注がれたジョッキを持ったまま落ち込んでいるのは、長髪でジャケット姿の伊達男・兜円次と、茶髪で赤黒いレザーファッションを着こなす目つきの悪い男性・禍津蠍典だ。
「そりゃつれぇでしょうね。ところで円次さんに禍津さん、あたくしの前身にあたるこの人は、アンバー・アングイスというだそうだけれど……」
豊満すぎる体をくねらせている茶髪の女性はキュイジーネであるが、その隣に立つ瓜二つの女性は名前がまったく違っており、顔つきも美しいながらどこか荒んでいた。
「ショゲてんじゃないよ。石にされたいの?」
「ごめんちゃい」
「もう言いません……ひっぐ、ずびびびびぃ」
ヘリックスの幹部たちも羽目を外した様子を見せており、ほかにもそれぞれの違いに驚く者たちが多数存在した。でもどこか楽しげだ。
「えへへへ……。さて、私たちも楽しみますか!」
「そう、その意気よ!」
前髪の形もパーソナリティもまったく違うが、背が高く足も長いこと、胸が人一倍大きいこと、そして、氷を操る特殊な異能力を持ちながらも熱いハートを秘めていることは同じ。舞台を降りて、2人のアデリーンもそれぞれの世界の違いを語らいながら、パーティーを楽しむことにした。
「今回も来ちゃった」
「お待たせ、カタリナお姉ちゃん。妹が2人もいたら、手がかかっちゃうかな?」
「ご安心を。お姉ちゃんたちも2人いるから、平気平気」
鏡映しか、双子のように同じハニーブロンドの髪と瑠璃色の瞳の女性――義姉のカタリナたちがアデリーンたちを迎える。そして――。
「せっかく、今日だけ生き返らせてもらったもの。かんぱーい!」
「ありがとう、カタリナお姉ちゃん。……皆様、これからもよろしくお願いします!」