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プロローグ(2)


「やあやあやあ! ようこそお越しくださいました、公国が第4公女――クロレナリアさま!」


 いきなりのハイテンションで近づいてきた男に、クロレナリアは驚いた。

 声が思いの外大きく、公女の前にしては態度がでかいと言わざるを得ないが、そんなことは人質()になった時点で織り込み済みだ。


 クロレナリアが驚いたのはそこではなく――男の外見だった。

 金髪碧眼に、人好きのしそうな優男の(かんばせ)


 にこにこした表情は確かに好感は持てるが、何というか……背が低く筋肉も足りなくてどうにも弱っちい。

 いや、それでもクロレナリアよりはよほど頼りになりそうではあるのだが……その体躯で高官っぽいのが不思議でならない。

 高官とは基本筋肉量で決まるものではないのだろうか。


 愛想笑いを浮かべつつ内心首を傾げたクロレナリアは、視界の端に映った貴族の令嬢と(おぼ)しき女性たちを見て、再度目を瞬いた。


 アカルエの貴族令嬢は、(しな)やかな筋肉がドレスコードだ。

 それが無いと馬鹿にされるどころか、社交界にすら入れて貰えない。

 何しろ開始早々に皆で舞う、『始まりの舞』に参加できないのだから。


 だが、ここの女性はどうだ。

 何というか……筋肉が無いだけでなく、腰が不自然に細い。

 その癖大きければ大きいほど邪魔で晒しを巻くのも面倒なはずの胸を、戦うのに邪魔でしかないレースで、少し強調している。


 悪趣味な仮想大会か何かでもあるのだろうか?


 仮にそれがあるとして、その時に敵に襲撃されたらどうするのだろう。

 こんなひらひらな格好では、持ち合わせている力の7割も出せないだろ――ハッ!

 クロレナリアは自分の愚考を鑑みて、泣きたくなるほどに後悔の念に襲われた。

 そうだ。何故気付かなかったのだろうか――この人達は、こんなふざけた格好をして、己に(かせ)を与えているのだ。

 日常の1分1秒が修行だと、師に言われていたのを何故忘れていたのか。


「私、もっと精進しますわ……!」

「? うん、頑張ってー」


 クロレナリアが全く聞いていないにも関わらずぺらぺらと喋っていた男は、クロレナリアの飛んだ思考をへら、と笑って流した。

 が、

 その瞬間、その笑顔は一見して分かるほどに、さあっと青くなる。


「……何をしている。ルード」

「……えっと、何って、ご挨拶を?」

「俺は早く人質を連れてこいといったはずだが」


 圧の掛かった喉の奥がぞくぞくするような低い音に、クロレナリアはぴく、と肩を震わせた。

 恐る恐る背後を振り返ると、クロレナリアの2、3倍大きな身体の男性と目が合う。


 コンマ1秒。


 たっぷり時が止まったかのように見つめ合った二人は、我を取り戻しても互いの目を反らすことができなかった。

 まるで初恋の君に会ったように初々しい、とも言えないこともないような雰囲気が、次第に目を逸らした瞬間に()られる、というような殺伐としたものへと変貌していく。


「……お前が、人質の」

「……クロレナリアと申しますわ」


 だから、第一声がこんな分かりきったことになってしまっても、しょうがないのだ。

お読みいただきありがとうございました!

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