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7. スキルの詳細

大陸の中央に位置するルッサンモーヲ王国。その国土は王都ルゼラを中心とした歪な十字状の形をしている。北西と南西に広がる大森林、北東の大山脈、そして南東の海、これら過酷な自然に囲まれ、その合間を縫うように発展してきた歴史に由来する形状であった。

東西南北へと細長く伸びる街道はそれぞれ、街や村を線で結びながら大陸の端にある他の国々にまで続いている。ミロがこれから向かうサラコナーテはその一つ、東へと伸びる東方街道にあった。


《運搬物の総数が200に達しました。職業レベルが4に上がりました》

「うわっ」

《ユニット数が4から8に増加しました》


東門をくぐるのとちょうど同じタイミングで、例の声がレベルアップを告げた。

ミロが驚きの声を上げるとプトラは歩みを止め、背に乗せたミロに目を向けて「グルゥ?」と一鳴きする。


「ごめんごめん。大丈夫だよ。職業レベルが上がってちょっとびっくりしただけ」

「グギャギャ!」

「ふふ、ありがとう。でも全然慣れないんだよね、これ」


端切れが百枚近くあったので、近々レベルアップするだろうとは思っていたミロだったが、突然頭の中に響く声には未だ慣れることができずにいた。

誰かが「職業初心者あるあるよね」と小声で言ったのを、門兵や通りかかった冒険者の一行がくすりと笑う。

ともあれ、幸先の良い旅の門出となった。


草原地帯を抜けて、昨日村から転移してきた丘を越える。丘陵地帯が森へと姿を変える頃には、エナに教わった端切れの掛け布団が完成していた。

余った布はプトラの手首に嵌められている腕輪に巻いてやる。運び屋の所有物だと証明するものだから外さないように、と言われていたのだが、鉄が擦れて傷が痛々しかったのだ。回復薬で傷はもうないが、また擦れることがないようしっかりと布で保護する。


「そうだ。なむなむ、<ステータスボード>!」


思い立ったように<ステータスボード>を開いてミロは「形態」を確認する。


「・・・ダメか」


騎獣に乗ることで、ひょっとすると「形態」の選択肢が増えてはいないだろうかと期待したのだが、選択肢は未だ「ミロ」一択のままだった。


「形態に選べるようになれば、プトラにも袋や荷車が出るかと思ったんだけどな」


条件が揃っていないのか、そもそも選択肢が増えることはないのか。いまいち「形態」の扱い方がわからない。これがメジャーな職業であれば同職者に聞くなりできるのだろうが、ミロの場合はそうはいかない。

「地道に試行錯誤していくしかないか」とため息混じりに吐き出して、ミロは走るプトラの背を撫でた。

王都を出発して一時間ほど経っただろうか。プトラの体は熱く、息も少し上がっている。


「そろそろ休憩にしようか」

「グガグガ!」

「でも食糧は何も買ってこなかったし、夜ご飯を調達しなきゃ」


「まだ大丈夫だ」と首を横に振るプトラを説得して、大木の木陰で荷台を外す。

騎獣は基本、単独での移動を想定している。そのため、専用の荷台は軽く、一人でも取り付け、取り外しがしやすい。


「じゃあ僕は狩りと採取に行ってくるよ。プトラはここで待っててね」


プトラをおいて、あまり休憩地点から離れ過ぎないように森を散策する。

山脈に近づくほど強い魔物が出るので注意するように、とエナは言っていたが、深くまで踏み入らずとも魔物の気配はあちこちに感じられた。


「ニイィィ!」

「おっと」


もはやツノラビ一匹程度では動じない。初手の突進をひょいと躱し、わざと噛みつかせてから仕留める。今日も謎のガジガジガードは機能してくれているようで、ミロの体には傷一つつかない。


「ハズレ職ってバカにされたけど、ガジガジガードのおかげでツノラビ狩りが随分楽になったな」


血抜きをしながら、シェシュマ神に感謝の祈りを捧げる。

あまりプトラを待たせるわけにもいかないので、野草や果物を数種類、そしてツノラビをもう一匹狩ったところで戻ることにした。


「ただいまプトラ、なかなかの収穫高だよ」

「ギャッ!」


声をかけるとプトラは短く一鳴きし、素早い動きでミロに駆け寄った。ミロを覆うように身を寄せ、尻尾をからめる体勢は、主人の帰還を喜ぶというより、むしろ主人を何かから守ろうとするそれである。

「どうしたの?」と問うミロに返事をしたのはプトラではなかった。


「すみません、僕が悪いんです・・・ってあれ?ミロ君?」


その涼やかな声には覚えがあった。プトラの背ごしに見えるローブと丸眼鏡にも。


「ルインさん!?プトラ、その人は大丈夫だよ。昨日すごくお世話になったんだ」


ミロの笑顔を見たプトラは、警戒を解いてその場に座る。

採ってきた果物を見せると上機嫌で食べ始めた。


「昨日ぶりですね。こんなところでどうしたんですか?」

「いやあ、サラコナーテという街に行くところなんだけど、街道から騎獣が見えたから、もし空きがあるなら乗せてもらおうと思ってね。でも乗り手もいないし、もしかしたら何かあったんじゃないかと思って近づいたら警戒されちゃって」

「サラコナーテ!偶然ですね、僕もそこに行くところですよ。荷台を空けるので、よかったら一緒に行きませんか?」

「ありがたいけど、荷台を空けるって、その水樽はどうするんだい?」


いつでも水分補給できるように水樽は荷台に置くことにしたのだが、都度取り出せばいいだけの話なので、ミロは「大丈夫です」と言って水樽を荷台袋に仕舞った。


「それ、もしかして<マジックボックス>?」

「<マジックボックス>?・・・って何ですか?」


<マジックボックス>は【商人】等の職業で習得が確認されている希少なスキルである。魔力を消費することで指定した入れ物の収納空間を拡張させるというものなのだが。


「その反応だと違うみたいだね」

「うーん、ちょっと違うみたいです。僕のは<荷台召喚>っていうスキルです」


ミロには魔力がないので、魔力を消費しているわけではない。それに、入れ物を指定するのではなく、「形態」を選択することで背負い袋や荷車自体が召喚される。


「<荷台召喚>か。聞いたことないスキルだね。ちなみにだけど、どんな職業を授かったのか聞いてもいいかな?」

「はい。僕が授かったのは【御者】です」

「【御者】?」

「あ、馬車とかに乗るあの御者です」

「あはは、もしかしてそれ、いろんな人に聞かれた?」

「はい。なんだか新種の職業みたいで」

「そうだろうね、僕も初めて聞いたよ」

「他にもスキルあるんですけど、よくわからないことが多くて」


そうだ、とミロは地面に「輓獣」と書いてルインに見せる。


「ルインさん、これなんて読むかわかります?」

「これは、ばんじゅう、だね」

輓獣(ばんじゅう)?」

「プトラ君みたいに人や荷物を背負って運ぶのが騎獣。対して荷車を引いて運ぶのが輓獣だよ。馬車で言うと、馬が輓獣だね」

「なるほど。騎獣と輓獣。荷物を運ぶスタイルの違いってことですね」

「それとミロ君、スキルの詳細は見たかい?」

「スキルの詳細?」

「ふふ、やっぱりか。<ステータスボード>を開いてごらん」

「はい!なむなむ、<ステータスボード>!」


ちなみに口に出さなくても念じるだけで開けるからね、とルインは笑う。ミロはこれにも元気よく返事をする。


「スキルに触れてごらん。詳細がわかるよ」


ルインの言う通りに<荷台召喚>に触れると、スキル名に重なるように小さな光の板が現れた。


----


荷台召喚

騎獣あるいは輓獣に最適な荷台を召喚します。


-----


「最適な荷台、そういうことか・・・」


ようやく読み方と意味がわかった輓獣。そして騎獣や輓獣に最適の荷台を召喚するという<荷台召喚>。何度か反芻するうちに点在していた謎がようやく一つの線に繋がった。もやが晴れるような気分だった。


「『形態』で僕が騎獣になる。<荷台召喚>は騎獣である僕に最適の荷台を召喚する。騎獣は荷物を背負うスタイルだから、僕に最適の荷台、背負い袋が召喚される・・・」


一方、輓獣は荷物を引くスタイルだから、ミロには手で引けるリアカーに幌が付いたような荷車が出る。


「すごいです!ルインさんありがとうございます!!」

「よくわからないけど、お役に立てて光栄だよ」

「あ、じゃあガジガジガードは?」

「ガジガジガード?」

「<荷物リスト>は使い方がはっきりしてるし、可能性があるとしたら<安全運搬>の方かな」


ミロはもはやルインそっちのけでスキルの詳細を確認する。


----


安全運搬

運搬物の安全に努めます。

絶対防御:荷台と、騎獣または輓獣に対するあらゆるダメージを無効化します。

状態保全:荷台内にある運搬物の状態維持に最適な環境をつくります。

衛生管理:一定時間ごとにゴミ、汚れを自動排除します。


-----


「これだったのか」


ツノラビの攻撃が効かなかったのは絶対防御、血の汚れや土埃が綺麗になっていたのは衛生管理の機能。荷台袋の機能だと思っていたのは、この<安全運搬>スキルによるものだった。


「謎は解けたかな?ミロ君」

「あ、ルインさん、すみません。夢中になってしまって」

「いいんだよ。それよりプトラ君がツノラビを二匹とも食べちゃったけど、大丈夫だったかな?」


見ればプトラは口のまわりを血まみれにして上機嫌である。

ルインは「お金になるから一応とっておいたよ」とツノラビの角を差し出す。


「ありがとうございます。プトラは果物もお肉も好きみたいです」

「ラプトラルは雑食だからね。なんでも食べると思うよ」

「グギャァ!」

「はは、プトラ君は何だか言葉がわかっているみたいだね。もしかして【御者】のスキルでテイムしたのかい?」

「いえ、プトラはレンタルですよ」

「そうなんだ。ねえミロ君。教えてもいい範囲でいいから、よければ僕にも【御者】のスキルを教えてくれないかな?」

「もちろんですよ!ルインさんのおかげで謎だったことがほとんどわかったんですから。まずは形態っていう」

「話は移動しながらでいいかな?」

「あ、それもそうですね」


すっかり元気になったプトラが「早く行こうぜ」と鳴いた。

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