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15. 二人の召喚少女

<地図>を頼りに第三階層の隠し通路を抜け、北方街道に出たのは東の空が白み始めた頃だった。


「もう朝だったんだね」

「そだナ。」


ようやくミロは時間の感覚を取り戻した。隠し通路を抜けるのに数時間かかったから、第三階層でジジ達に出会ったのは深夜、日が変わる頃。逆算するとサラコナーテについた昼頃からその時間までダンジョンに潜っていたことになる。


「プトラ、疲れてない?」

「全然!スキルになったからかナ、疲れるとか眠いとかの感覚が全くなくなってサ。こんなに長時間、本気で走ってられるなんテ、こんな幸せなのオイラ生まれて初めてだゼ!」


走り好きなラプトラルが本気というだけあって、プトラの俊足は馬車の二、三倍はありそうなほど速い。御者台は<安全運搬>の効果で快適そのものなのだが、周りの景色が驚異の速さで流れていく。


「ミロ!ハッチがお水塗ってきたぞ」


そこに、未だ目覚めないジジ達を回復薬入りの水で清めたハッチが戻ってきた。


「ありがとうハッチ。みんなまだ意識戻らない?」

「みーんな朝寝坊をしていた」

「そっか。ハッチも、疲れてたら寝ていいんだからね?」

「ハッチは眠くもかゆくもない!」


と言ったのが数分前。ハッチは今、鼻ちょうちんを膨らませている。


通りがかった街でプトラ念願の小麦粉を仕入れ、ハッチ用の服や靴を、替えも含めて数点購入した。

護衛戦士というからには、剣の一本でも持たせた方がいいだろうかと思ったが、鼻ちょうちんによだれまで加わった幼い寝顔を見ると、さすがにためらわれた。


「む」

「あ、ハッチ起きた?服と靴買ってきたよ。髪留めもあるよ」


寝ぼけたままのハッチを着替えさせ、髪留めで長い髪を束ねる。

そこにいつものように突然、声が響いた。


《護衛戦士に「革の靴」が装備されました。装備品を消費してスペックを変換しますか?》

「スペックを変換・・・って?」


いつものレベルアップとは違う内容に、当人のハッチをはじめ、ミロとプトラも首をかしげる。


「わかんねぇけド、この声がマスターの害になることを言うはずないシ、やってみればいんじゃネ?」

「まあ、そうだけど。どうする?ハッチ」

「・・・ハッチ、する!」


何か確信めいた表情で言う。


「ハッチ、強めになる!」

「よし、じゃあ声さん、お願いします!」

《「革の靴」を消費しました。護衛戦士の基礎値に「守り+1」「俊敏+1」が追加されました》

「基礎値、ってまさか」


声とともにハッチの履いていた靴が光り輝き、瞬きの間にすっ、と消え去った。

ミロは急いで<ステータスボード>確認する。


----


護衛戦士

荷台を護衛する戦士を召喚します。


ハッチ スキル・女

状態/召喚中、正常


<基礎値>

力:16

守り:3(+1)

器用:5

敏捷:12(+1)

魔力:0


<スキル>


-----


「装備品が持つ防御力なんかを自分のものにできるってことカ!いいなそレ!」

「ハッチ、いー!」

「装備品を消費すればするだけハッチが強くなるってこと?」

「だナ。もうマスターがガキんちょに追いつくこともねェ」

「イイジャナイ、護衛ガ強クナルンダカラ」


そうしてミロは泣きながら、試しに「布のワンピース」「黄色の髪留め」も消費して、ハッチに替えの服を着せてやる。


「ハッチは剣があるべき!」

「でも、危ないよ」

「危ないよ、くない!ハッチはいつも護衛戦士をはらんでいる!」

「持たせてやりなヨ、マスター。オイラだって走るなって言われたら辛ェ」


性、と言いたいのだろう。運ぶために存在する騎獣、守るために存在する護衛。スキルである二人にも使命がある。ミロがそうであるように。


「・・・よし。わかったよ、ハッチ」


根負けして荷台から適当に剣を呼び出す。


「ダンジョンに落ちてたやつだけど、ハッチにはちょっと長いみたいだね」


黒い長剣を腰に差したハッチは、鞘から剣を抜くことすらできない。

スペックに変換して新たに<荷物リスト>を漁る。


「これは?双剣なんだって」


<収納>で呼び出したのは雌雄一対の剣。長い短剣といった見かけだが、幼いハッチが持てばちょうどいい長さだった。


「よい」


短く感想を述べ、ハッチは凛としたような、怒っているような顔になる。どうやらこれは、機嫌がいい時の表情らしい。


「さすがダンジョン深部産の武器だナ。基礎値もごっそり上がったゾ?」

「え、嘘。ちょっと見たくない」


----


護衛戦士

荷台を護衛する戦士を召喚します。


ハッチ スキル・女

状態/召喚中、正常


<基礎値>

力:16(+150)

守り:3(+3)

器用:5

敏捷:12(+1)

魔力:0(+137)


<スキル>



-----


「ま、魔力まで!・・・恐ろしい子」





ハッチがレッドボアを一刀両断したり、久しぶりのニニララ団子鍋にプトラが発狂するなどして、夜を迎えた。

ジジ達は外傷こそ癒えたが、まだ意識を取り戻さない。


「プトラ、本当に寝ないでワロワーデンに向かうの?大丈夫?」

「スキルになってから疲れるとか眠いとかがなくなったって言ったロ?眠くもねえのにじっとしてるの嫌だシ、心配しなくても気が向いたら休憩するかラ。いいだロ?」

「そういうことならまあ、就寝時間はプトラの好きにしていいよ。じゃあ僕達はもう寝るね」


達、とは言うが、ハッチはすでに夢の中である。

ミロはハッチの頭を一撫でして、魔物の羽毛を詰めたクッションに頭を沈めた。


昨日今日とよく鳴り響く声に起こされたのは、日が変わった深夜のことだった。


《運搬物の総数が1000に達しました。職業レベルが11に上がりました》

「ふわぁっ!」「ア、やべ」

《ユニット数が512から1024に増加しました》

《ユニット数が1000に達しました。スキル<ユニット操作>が開放されました》

《スキル<ユニット操作>が開放されました。一部<ユニットタイプ>が開放されました》

《<ユニットタイプ:荷台>が開放されました》

《<ユニットタイプ:倉庫>が開放されました》

《スキル<コンシェルジュ>が開放されました》


「びっくりした。すごく長かったし。なんで今頃レベルアップしたんだろ」

「ごめン、オイラのせいダ。就寝の間は好きにしていいって言ったかラ・・・」


プトラは街道沿いに自生する果物を採取しながら走っていたのだと言う。


「ジジ達が起きたら食うかと思っテ」

「そっか、ありがとう。僕も食べていい?」

「もちろン!」


口にした果実の甘酸っぱさに目が覚める。


「そういやまたスキル増えてたナ」

「コンシェルジュと、なんとかって言ってたね。どんなスキルだろ」


なむなむ、と唱えかけた時だった。

リリリ、と鐘を鳴らすような音が荷台の中を駆け抜けた。

まだ余韻も消えないうちに、宙に光が咲く。


「私が<コンシェルジュ>でございます、マスター」


声とともに光の中から現れたのは、手のひら程の大きさしかない少女だった。

かっちりとした執事服を身に纏い、下半身はベルのように広がった花柄のスカートを履いている。ふわりと宙を泳ぎ、よく磨かれた、少し踵の高い靴でスカートの裾を蹴り上げると、リーンと鐘の音がした。


「君が<コンシェルジュ>さん?えっと、名前は・・・」


<ステータスボード>で確認する。


----


コンシェルジュ

御者をサポートします。


名前なし スキル・女

状態/召喚中、正常


-----


ハッチに続き、召喚系のスキルのようである。やはり名前はない。


「どうぞ、敬称なくお好きなように」

「じゃあ。・・・ベルベリはどう?」

「光栄にございます」

「僕はミロだよ。よろしくね、ベルベリ」

「オイラはプトラ!そこで寝てるガキんちょはハッチダ」

「プトラ、ハッチ。よろしくお願いします」

「ハッチみたいに基礎値があるわけじゃないんだね。ベルベリはどんなことができるのかな?」

「凡庸が見え透いたような身にございます。大したことはできませんが」


例えば、と言ってスカートを鳴らすベルベリの周りに<地図><ステータスボード><荷物リスト>が展開される。


「マスターのスキルを代行させていただくことができます」


それと、と<荷物リスト>だけを残し、操作する。


「恐れながら、<荷物リスト>をご覧ください」

「・・・あ、なんか見やすくなってる」

「収納物の種類ごとに並べることができる<荷物リスト>の機能です」

「<荷物リスト>にそんな機能があったんだ」

「未使用の機能でしたので、あるいはご存じないのかと思いまして」

「スキルに詳しいってこと?他のスキルについても?」


「おっしゃる通りです」と言って、今度は<地図>に赤い点を表示させる。


「マスターの現在地をマークします」

「すごい!こんな機能があったなんて知らなかった。これからスキルのことはベルベリに相談すればいいってことだね!?」

「全身全霊、マスターにお仕えいたします」


言うなり、ベルベリは「では、いつでもお召しください」と言って消えてしまった。


「あれ、消えちゃった。・・・ベルベリ?」

「お呼びでしょうか」


鐘の音とともに、すぐそばに現れる。


「召喚中、っていうのかな?出てきてる間は何かを消費したりしてるの?」

「?魔力消費のように、という意味であれば、特に消費するものはございません」

「なら、ハッチみたいにできるだけ出てきておいてくれないかな?せっかく仲間になってくれたんだし、一緒にご飯食べたりしたいし」


スカートが小さく震え、リン、と鳴った。

硬い表情が、間の抜けたようにきょとんとした顔になり、ややあって綻ぶ。


「仰せのままに、マイ・マスター」

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