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10. 騎獣プトラ

それはいつも突然頭に鳴り響く声だった。


《「形態」に陸上生物を選択できるようになりました》

《ラプトラルの魔石を収納しました。魔石を消費して「形態」の選択肢に追加しますか?》

「え・・・っと。お、お願いします」

「ミロ君?どうかしたのかい?」

「わ、わかりません。『形態』に陸上生物が・・・」

《陸上生物「ラプトラル」の魔石を消費しました。「形態」の選択肢に「プトラ」が追加されました》

「ミロ君?」

「プトラが『形態』に追加されたって・・・」


すぐさま<ステータスボード>を呼び出し、震える指で「形態」に触れる。


「ある・・・プトラだ。ルインさん、あります!」


「プトラ」の名前に触れ、「形態/騎獣、プトラ」と選択する。


「ミロ君、荷台袋が!」


消えた、とルインが言い終える前だった。

ミロの目の前に鋭い爪を携えた下肢がずん、と着地した。


「グギャァアアア!!」


猛々しい咆哮と共に現れたのは、プトラより一回りも大きい豪壮なラプトラル。

煌めく毛並みに、金属のように鋭い爪。見開いた目は毛の色と同じく金色で、縦長の瞳孔の黒が爛々と存在感を放つ。


「プト・・・ラ?」


体毛も綺麗に生え揃い、皮膚のたるみもない。しかし、どこかプトラの面影を残している。


「なんで疑問形なんだヨ、マスター!」

「「しゃべった!!」」


ミロとルインは同時に叫んだ。


「ぷ、プトラ君なのかい!?」

「なんだヨ、ルインまデ。ずっと一緒に旅してきただロ!」

「ははは、僕の名前もわかるんだね?」

「そりゃマスターがずっとお前の名前呼んでたからナ。オイラ若い頃からヒト族と一緒にいたかラ、何となくだけど言葉は理解できてたんだヨ。これもで昔は冒険者の騎獣をやってたこともあるんだゼ?」


ふふん、とプトラは自慢げに鼻を鳴らす。


「で、でも!プトラはもっとおじいちゃんだったのに!」

「生きてた頃はナ。今はマスターのスキルになったかラ、この姿はえっト、タマシイノカタチ?に従って召喚されてるんだってヨ!」

「魂のかたち?」

「オイラもよくわかんねぇけド、オイラの全盛期の姿ってことらしイ」

「そうなんだ。でも、本当によかった。・・・プトラぁっ!!」


今になってまた涙がこみ上げてきた。ミロはプトラに飛びつき、太い首をガシッと抱きしめる。


「うワッ!やめろマスター、鼻水くっつけんじゃネー!」


感極まってプトラの毛に顔を埋める。


「ったくヨ。落ちないように気をつけろヨ?今のマスターは生身なんだかラ」

「ふえ、そうなの?」


プトラは首からずり落ちるミロを前肢で受け止め、ゆっくり地に下ろす。


「絶対防御が効くのは騎獣と荷台だケ。御者台も荷台にカウントされるかラ、乗ってれば絶対防御が効くけド、今みたいに乗ってない時は普通に怪我するからナ?」


プトラはそう言ってミロの腕を掴む。


「あたた、本当だ。久しぶりに痛い」

「ナ?特にマスターは基礎値がゼロばっかりなんだから気をつけないト」

「え、ゼロ?そうなの?ミロ君」

「た、大器晩成型なんですよ!器用はちょっと上がりましたし」


確か二くらい、とミロは口を尖らせる。


「基礎値がゼロ・・・」

「なんかしみじみ言われると悲しいです」

「あ、ごめん。でも【御者】のスキルを考えると基礎値の低さも納得できる気がするよ」

「どういうことですか?」

「例えば【剣士】は力が上がりやすい代わりに魔力が壊滅的に育たない。逆に【魔法使い】は魔力が上がる代わりに力が育たない。何かに突出すれば、他が劣る。それが基礎値のセオリーなんだ」

「でも僕、突出してるものなんてないですよ?」

「いやいやいや、それがスキルだよ!魔力もなしに無敵のプトラ君を召喚する『形態』は【召喚師】の十八番<召喚>の上位互換!<安全運搬>の影響下にある荷台は<マジックボックス>を凌駕する機能盛り沢山の上位互換!で魔力なし!<地図>は操作性抜群な上に精巧さはもはや現実世界そのもの!ほーらこれも魔力なし!」


いつになく饒舌なルイン。何かにつけ魔力なしが挙がるのは、日々魔力管理と戦わなければならない魔法系職業の性だろうか。


「ごめん。つい熱く語ってしまったけど、習得スキルが充実している分、基礎値を全体的に上がりにくくなっているんじゃないかなってことさ」

「じゃあ僕これからもゼロばっかりってことですか?」

「断言はできないけどね」

「っつうことだかラ、これからオイラを騎獣にしてる時は極力御者台を離れズ、それ以外はマスターが騎獣になっテ、いつでも絶対防御の影響下にいるようにするんだゾ?」

「そうだね、ミロ君の身の安全を考えるとそれがいいと思うよ」

「なんだかプトラ、ルインさんみたいに賢くなっちゃったね」

「スキルの知識が増えたのはオイラ自身がスキルになったからだろうナ。しかしマスターは野草とか変なことばっか詳しいけド、常識的なことは全然知らねーのナ」

「確かに。ミロ君そういうところあるよね」

「そうですか?えへへ」

「いや、褒めてないよ?」「いや、褒めてねえヨ?」


照れるミロに、ルインとプトラの声が重なった。





プトラの遺体を埋葬した一行はサラコナーテへ続く街道を爆走していた。


「こんなに走れるの久しぶりダ!グギャギャ!」


馬車の二、三倍はあろうかという速さで走るプトラは機嫌がいいことこの上ない。

プトラはこれまで、ヒトを載せる時は揺れが少なくなるよう気を使って走っていたのだが、<荷台召喚>で召喚された荷台の中は全く揺れないとわかり、気を使う必要がなくなったのだ。


「こんな速度で走ってるのに、全然揺れませんね」

「<安全運搬:状態保全>は運搬物の状態維持に最適な環境をつくる。運搬物が生物なら、その精神状態も最適に保つって解釈でいいのかな」


ルインは独り言を言いながら荷台内の現象を検証している。


「それにちょっと涼しい気がするし、快適ですよね」

「ははは、快適が過ぎて逆に怖いよ」


プトラに召喚された荷台は、<安全運搬:状態保全>の影響でルインが苦笑いを浮かべるほど快適な空間だった。揺れや振動は一切なく、温度や湿度も快適に調整されている。


「水や野草の鮮度が落ちにくいと思ってたのも『状態保全』のおかげだったんだね。こんなにすごいスキルを体験するのは初めてだよ」


ルインは荷台の中を見まわし、しみじみと言う。


「マスター、あっち甘い匂いがすル」

「やった、果物かな。行ってみようか」

「ねえ、君達。こんなに快適で馬車の数倍速い移動手段の存在がどれだけすごいか理解してる?」

「え?・・・あ、これからは宿代が浮きますね!」

「いや、そこじゃなくて」

「あ、そこにあのしょっぱい草もあるゼ」

「わあ、シオナ草の群生地だ!」

「ブレないな・・・」


プトラの目と鼻が加わり採取の精度も格段に上がった。健脚に任せて森に分け入り、遭遇した魔物はその強靭な尻尾の鞭が打ち倒す。多少街道を逸れても<地図>があるので何の問題もない。ハズレ職とバカにされた【御者】は、ここにきてその真価を発揮し始めていた。


閉門には間に合うだろうと予想していたサラコナーテだったが、大幅に寄り道したにも関わらず、到着したのはまだ昼をまわってすぐのことだった。

王都ほど大きくはないが、ダンジョン攻略に冒険者が訪れるため、多様な種族で街は大いに賑わっている。

だというのに、その町並みを眺めるミロの顔は浮かない。


「お別れですね、ルインさん」

「ミロ君とプトラ君のおかげで楽しかったよ。貴重な体験もできたしね」

「数日間、本当にありがとうございました」


目を潤ませるミロに、ルインは大銀貨を数枚差し出す。


「ミロ君、これを」

「?何のお金ですか?」

「王都からサラコナーテまで、護衛なしの運賃の相場だよ」

「え、もらえませんよ、そんな」

「受け取ってほしい。数日君と過ごして思ったよ。君はこれから人や物を運ぶ仕事をするべきだ」


それはシェシュマ神も言っていたことだった。


「でも・・・」

「僕は未知の職業やスキルが好きで、普段から個人的に研究しているんだけど、その僕の勘が囁くんだ。君の【御者】は世界を動かす力を秘めている、ってね」

「そんな力・・・大げさですよ」


ハズレ職だと罵られたミロは、どうしても【御者】にそんな大それた力があるとは思えなかった。

ルインはミロの手を取り、銀貨を握らせる。


「探しているおじさんが見つかるまででもいいんだ。少し考えてみてほしい」

「うーん。・・・わかりました。ルインさんがそこまで言うなら、ダンジョン攻略が終わったら少し考えてみますね」

「うん、よろしく頼ん、え?」

「え?」

「ミロ君、ダンジョンに潜る気なのかい?」

「はい、そうですよ。そのためにサラコナーテに来たんですもん」

「てっきりサラコナーテにはおじさん関係で来たのかとばかり思ってたよ」

「ナックおじさんはルッサンモーヲにはいないって言われたんですよ。で、ナックおじさんを探してまわるならC級に上がった方がいいって職員さんに言われて、今はランクアップを目指してるんです」

「でもC級への条件は確かギルドの指定依頼だろう?」

「はい、その指定依頼がダンジョン攻略なんです」


討伐対象の指定はない。とにかくダンジョンで狩りや採取をして報告するように、とギルマスのダガートは言っていた。


「指定依頼がサラコナーテのダンジョン攻略?・・・いや、【御者】のスキルを考えれば、あり得る、のか?」


ルインは眉を寄せてぶつぶつ呟く。


「ルインさん?」

「ミロ君、ダンジョンについてはどのくらい知ってる?」

「えっと、きのこが採れるんですよね」


一日目の野営で『竜の庭』が提供してくれたきのこは、サラコナーテダンジョンで採れるものだと教えてもらった。


「うん、さすがミロ君。いいかい?ダンジョンはとても危険な場所なんだ。冒険者でも命を落とすようなね。ミロ君には<安全運搬>があるから大丈夫だとは思うけど、三階層より下には絶対行かないこと。いいね?」


三階層までなら人も多いだろうし、魔物もそれほど強くないからね、とルインは言う。


「三階層ですね?わかりました」

「プトラ君も気をつけて。ミロ君のこと頼んだよ」

「オイラの鼻に任せとケ!」

「おー!」

「ねえ、それきのこの話だよね?」

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