後始末
「これから先は楽しい楽しい懺悔の時間よ。素直に口を割ればちょっとは楽にしてやるわよん」
そう雑な女言葉で指をポキポキ鳴らしながら一歩踏み出そうとした俺の肩に誰かが手を置き引き止める。
馬鹿な。
今の俺が触られるまで気配に気が付かなかっただと!
「るぅぎぃぃ」
同時に地の底から響いてきたようなその声に俺は思わず身をすくめる。
「僕、宿の前で待っててって言ったよね」
「ああ、たしかに言ってた。でもコレには深い訳がだな」
「しかも何かなこの惨状は」
「これはほらアレだ。コイツラが突然襲いかかってきたから仕方なく……な。正当防衛ってやつだよ正当防衛」
俺の言い訳に背中からエルモの「あれほど騒ぎは起こさないようにって言っておいたのに」という呟きと共にため息が聞こえる。
俺だって別に騒ぎを起こそうとしたわけではない。
ただずっと後をつけられては面倒だし、宿にまで忍び込んでこられては迷惑だなと思っただけだ。
「サーチっと。一応全員まだ生きてるみたいだから適当に治して縛っておくけどそれでいいかな?」
俺の横を通り過ぎながらそう告げるエルモに俺は頷いて返事をする。
失禁したまま立ち尽くしているリーダーの男を完全に無視したエルモは、そのまま男の横を通り過ぎ倒れているゴロツキたちに片手を突き出し手のひらを向ける。
俺はそんなエルモから視線を目の前の男に戻すと話を再開した。
「さて、あっちは相棒に任せるとして。お前がさっき言ってた組織とやらの事を詳しく聞かせて貰おうか?」
「言うわけねぇだろ」
「強がるなよ。少し痛い目に会わないと話せないっていうなら仕方ないな」
俺は両手を重ね、ポキポキと音を鳴らしながら男に迫りながら笑顔を浮かべる。
「なぁに安心しな殺しはしねぇよ。それに死なない程度の傷なら相棒がすぐに治してくれるからさ」
「任せといて。でも即死させたら無理だからね……多分。蘇生魔法って難しいからアンデッドになっちゃうかもしれないし」
作業を終えたらしいエルモがこちらを振り向きながらそう答える。
そのやりとりを聞いた目の前の男は最初は俺たちが冗談を言っているのだと思っていたようだが、後ろを振り向いて自分の部下の明後日の方向に向いていた手足がすっかり治っているのを目にして驚愕の表情を浮かべた。
ほぼ時間も掛からずに瀕死状態だった十人近い人々を『治療』したエルモの所業に、俺たちの言葉が嘘では無い事にやっと気がついたらしい。
「こいつら狂ってやがる」
男はそう呟くと膝を震わせ、遂に自分の小水で濡れた地面にヘタリ込んでしまった。
筋肉隆々の大柄な強面男のそんな姿はあまりに哀れに思えてくる。
「ああ、お前の言う通り俺たちは狂ってるかのしれないな」
俺は男を見下ろしながら嗤う。
「ゆ、許してくれ。なんでも話すから、命だけは……」
「どうやら理解したようだな」
「ヒイッ」
「それじゃあ洗いざらい吐いて貰おうか」
俺は男の襟首を掴んで立ち上がらせると、その目を睨み付けるのだった。




