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ジークの誕生日パーティー4

 大広間に戻る途中、アンネが貴族の子息達に捕まってしまった為、一人広間に戻った私はミモザ達を探すことにした。しかし、皆バラバラになり、そろぞれ贔屓の貴族と談笑していた。他に知り合いといえばワグナーくらいだが、ワグナーも女性達に囲まれていて近寄れない。


 さて……本当に場違いなんですけど。


 しばらく壁の華をしていると、そんな私の周りにあの三人組が現れた。ジークの婚約者候補とかいう、貴族の三人娘である。


 静かに壁の華してるんだから、かまわないでほしいな……。


 下の身分の者から話しかけてはならないというこの世界の常識を盾に、私は心置きなく三人娘と視線を合わさずに無視する。

 そんな私をチラチラ見ながら、明らかに私に聞かせるように、三人娘は私の真っ正面で話し出した。


「やはり、ジーク様は見る目をお持ちよね」

「全くだわ。娼婦になんか目もくれずに、一言二言しかお話しにならなかったじゃない」

「ええ、噂等当てにならないものよね」


 そりゃ、そうでしょうよ。イライザ達とはたいして面識もないんだから。で、ジークの側から撤退してきたあなた達は、どれだけ話しができたのかしらね?


「見た? 異国の王女様がいらしていたの」

「見たわ。銀髪のそれは美しい姫よね」


 ウスラのことね。確かに、彼女(いまだに性別不詳だと思っているが)はこの中の誰より美しいわね。


「さっき、たいそう長くジーク様とお話しになっていたわね」

「そうね。悔しいけれど、やはり正妃はあのような方が相応しいと思う」

「ええ、《《娼婦》》なんかじゃなくね」


 その娼婦と同レベルで選ばれてないということをお忘れなく。


「でも、第一愛妾は私よ」

「あら、あなたは第五くらいじゃない? 」

「そういうあなたは第六くらいかしらね」

「止めなさいよ。何番目かなんか意味ないわ。子供を、男子を生めばいいだけよ。誰よりも早くね」


 ううーん、気位が高そうに見えて、妾志願なんて……残念な娘達過ぎる。


 私は聞こえていないかのようにそっぽを向き、心の中でツッコミを入れて溜飲を下げていた。

 何せ小娘達の戯言など、脳内三十路の私からしたら、「ケッ! 」の一言に過ぎたから。


 しかし、周りからしたらグチグチネチネチと貴族の娘達にいたぶられて、何も言えずに耐える可哀想な少女にうつったようで……。

 助けてはくれないまでも、私の知らないところで私の株は上がっていたようだ。


 しばらくそっぽを向いて三人娘の攻撃をスルーしていると、広間のど真ん中で人混みに囲まれたジークとばっちり目があった。

 ジークは満面の笑みを浮かべたかと思うと、話しかけてくる令嬢達をかきわけるように、一直線に私の方へ足を向けた。


 まさか、まさか、こっちにきて話しかけるなんてバカなことしないわよね? いつもの調子でこられたら、礼をとる余裕なんてありませんけど?!


 そうこうしているうちにその距離は近づいてきて……。


「やだ、ジーク様が私を見て手を振ったわ」

「何よ! 図々しいわね。私よ!」

「きっと、先ほど挨拶も満足にできなかったから、ジーク様から来てくださったのね」


 自分がより前にと出ようとする三人娘は見るからにあさましく、衣類が重いせいかモタモタとしか動けていない。


 やっぱり一言も話していなかったのかとほくそ笑む私の目の前に、ジークが膝をついた。

 目の前で方向転換され、ガン無視された三人娘は、意味がわからないという顔でポカーンとしている。


「今日は来てくれてありがとう」


 ジークは、優雅に私の手をとると、手の甲にキスをした。

 騒がしかった広間が、一瞬にして静まった。

 全視線が私とジークに注目しているのをひしひしと感じ、背中に嫌な汗がつたう。


 やりやがった! この残念エロロリコン王子!!

 TPOをわきまえるとかないわけ?!

 マジあり得ない!


 周り以上に硬直している私は、背後から衝撃を受けて硬直状態から解放される。

 凄い勢いでアンネが飛び付いてきたのだ。

 貴族の子息達を言葉通り振り切ってきたアンネ(全力疾走で逃げ回ったようだ)が、まるでゴールテープに飛び込んでくるように私に体当たりして抱きついた。


「やっと戻れた~。兄様、何してるの? 」

「そりゃ、僕もやっと愛しのディタを見つけたばかりだよ」


 《《愛しの》》とか言うなーッ!


 ジークは、立ち上がると私の腰に手を回した。


「ディタ、こんなとこにいても暇でしょ? 私の部屋でお茶しましょうよ。もう顔も出したし、別にいなくてもいいわよね? ジーク兄様? 」

「僕の誕生日パーティーなのに、こんなところ扱いは酷いな」

「あら、兄様だってうんざりしている癖に」

「そんなことないよ、だって、今年は愛しのディタにお祝いしてもらっているからね」

「そうだ、お祝い……。こんなんで悪いけど」


 私はポケットの中にしまっていた小さな紙袋を取り出した。可愛くラッピングしようかとも思ったが、勘違いされても困るからあえての地味な紙袋だ。


「何それ? 」


 アンネが興味津々覗き込む。


「石鹸よ。ジーク王子の為に作ったの。あとフレグランスオイル。アロマポットは作ってもらってるんだけど間に合わなかったから、できたら届けるわ」

「アロマポット? 」

「陶器の器みたいなのよ。上の皿に水をはってオイルをたらすの。下から蝋燭で炙ると、水が温まって匂いが部屋中に広がるのよ」

「へぇ。これで、温室に逃げる必要がなくなるね」

「僕はいつも横にディタがいれば温室に行く必要はなくなるんだけれど」


 人を芳香剤扱いするな!


 ジークは紙袋を受けとると、袋の口を開けて中の匂いを吸い込んだ。ユルリと頬が弛み、幸せそうな表情になる。

 なんか、妙に色気のある表情に見えて、私は顔を少し赤くして視線をそらした。アンネはそんな私を見てニヤニヤしながら、私の腕に腕をからめる。


 そこへ、前にもジークの側に控えていた初老の侍従がやってきて頭を下げた。


「ジーク様、国王陛下がお呼びです。ディタ様もご一緒にお願いいたします」


 国王からの呼び出しと聞いて、私は悪い予感しかしなかった。


 この残念エロロリコン王子を惑わしたとか、身に覚えのない罪を言及されるのではないだろうか……。


 シンと静まった広場で沢山の視線を浴びながら、私はジークにエスコートされながら広間を退出する羽目に陥った。


 そんなに密着するな!

 腰に手を回すな!

 頭にスリスリするな!


 私は脳内でひたすらジークをボコボコにした。

 現実的には、手を振り払うことも、拒絶の言葉を浴びせることもできなかったけれど。


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