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ジークの誕生日パーティー 3

 その頃の私は……ひたすらアンネに引きずり回されていた。

 見惚れてしまう程の美少女だし、黙って座っていれば男女問わず彼女の虜になること間違いない。一ミリも動かず、喋らなければ……。


 アンネは当初のジークを探すという目的をすっかり忘れたようで、ただいま王庭を探索中だ。秘密の抜け穴だと垣根をかき分けたり、塀をよじ登ったり。あまり女の子らしい遊びとはいえないけれど、私も昔は人の家の屋根や塀を登り、いろんないろんな抜け道を探してたから、アンネの気持ちはわかる。

 王女……って思うとあれだけど、普通の子供っぽくて、親近感がもてる。まあ、若干子供っぽいかもしれないが。


「ここを抜けるとね、ジーク兄様の温室にでるの。ほら、出た! 」

「一度連れてきてもらったわ」

「凄く綺麗よね。色んな花が咲いていていい香りだし。私もここが大好きよ。そうだ、兄様、ここに入り浸りだから、ここにいるかもしれないわね」


 ジークを探すという目的を覚えていたというより、たまたま温室にでたから思い出した感じだ。

 温室の扉は開いており、確かに誰かいるようだ。


「ジーク兄様? いるの? 」


 中にズンズン入っていくと、 前にジークと座った椅子に誰か座っていた。


「誰?! 」


 アンネは歩みを止めて、警戒色をその美しい紅い瞳に浮かばせる。

 ここは王庭の中でもかなり深部、人などあまりこない場所なのだ。侍従達もここまではこない。だからこそ、鼻が敏感なジークはいつもここに入り浸っている訳なんだが。


 椅子に座っていた人物は、私達に声をかけられて、ゆっくりと立ち上がって振り向いた。

 身長はそこまで高くない。男の子ならちょい低め、女の子ならちょい高めといったところか。ストレートの銀髪を綺麗に肩のところで切り揃えており、この世界ではまだ見たことのない黒い瞳をしていた。とにかく肌が白くて、ここまで綺麗な肌も珍しい。見える限りはシミも黒子もない。顔は……もう! この世界の人、美し過ぎるから!! 形容するのもバカらしくなるくらい整った顔をしている。中性的で、クールな顔立ちだ。

 着ている衣装がこの国の物と違うようで、男物か女物かわからないから、性別不詳である。


「君達は? 」

「あなたこそ誰よ? ここは王族以外入ったらいけないんだから」


 私……王族じゃありませんが?


 アンネは私の手をしっかり握って、私を庇うように一歩前に出る。どうやら、不法侵入者(声からすると少年? ハスキーな声の少女? )から私を守るつもりらしい。

 男前な王女だ。


「それは失礼。あまりに綺麗で良い香りがしたから、思わず迷い込んでしまったんだよ」

「つまりは……迷子? 」


 迷子の彼(彼女? )はフワリと微笑み、その笑顔がクールなイメージを一掃する。


「そうだね、迷子なんだ。君たち、第三広間まで案内してもらえないかな? 」

「ああ、あなた北のアステラの方ね? アステラの民は黒い瞳をしていると聞いたことがあるわ」

「ご名答。自分はアステラを代表して来ましたウスラと申します」

「初めまして、第十王女アンネローズと申します」


 淑女の礼をとるアンネは、うっとりと見惚れてしまうくらい気品に溢れて見えた。やればできる子なんだと感心した矢先、アンネは我慢しきれないと言わんばかりに気品を投げ捨ててウスラに詰め寄った。


「ね、ウスラ! あなた男性なの女性なの?! 」


 確かに性別不詳ではあるが、面と向かって聞くのはどうだろう……。


 だが、ウスラは特に気にした様子もなく、艶然とした笑みを浮かべた。


「さて、どちらでもお好きに」


 この返事も意味不明ですが?


「じゃあ、女性ってことにしましょう! 」


 双方に突っ込みたいです。


 結局ウスラの性別は分からず、アンネに女性認定されたウスラは、では女性らしくしなくては……とつぶやきながら、歩き方から喋り方まで女性らしく変化させた。

 そうすると、さっきまでの中性的なイメージはどこぞへ、女性以外の何者にも見えない。


 この人何者?


 アンネの案内で、元来た道(道と呼べるのなら)を引き返す。ウスラは、楽しげについてきた。


「ウスラの国ではみんな銀髪に黒目だと聞いたけど、本当? 」

「本当よ。こちらはずいぶんカラフルみたいだけれど」

「そうね。でも紅い瞳は王族だけよ。ウスラの国にも、王族だけの特別ってあるの? 」

「そうねぇ。白目の端に黒い星形の黒子があるわ」

「ウスラの目にもあるわね」


 ウスラはにこりと微笑む。


 ということは、この人も王族ということで、何だってこんなにウジャウジャと王族が……。まあ、こういう場所だからか。


 私は場違いな気がして、とりあえず《《無》》になりきるよう努力した。


「あなたは? 紅い瞳じゃないなら、王族ではないのね? 」

「ディタよ。ディタは、私のお友達なの」

「それは素敵だわ。こんなに美しい方とお友達だなんて」

「そんな……」


 超絶美少女と性別不詳の麗人を目の前にして、どの面下げて美しいなんて形容詞を使えるというのだ。お世辞にしても、恥ずかし過ぎるから止めてほしい。


「そうでしょ? 私もディタとお友達になれて、嬉しくて仕方がないの」

「そのお友達に、是非混ぜて欲しいわ」

「もちろんよ! ウスラは何歳?」

「十五よ」

「まあ、じゃあ一番お姉さんね。私は十二、ディタは十一よ」

「可愛らしいお友達ができて嬉しいわ。私、しばらくこちらに逗留するからよろしくね」


 ウスラはアンネに手を差し出し、私にも手を差し出した。


 王族と握手って……アリなんだろうか?


 無視する訳にもいかず、軽く触れるだけの握手をした。指が長くてスラリとした大きめな手だった。


「ウスラ様、こちらにいらっしゃいましたか?! 」


 ウスラと同じような衣服を着た数人の男(こちらは完璧に男性)が、ウスラを見つけて走り寄ってきた。


「ちょっと迷子になっちゃって」

「ああ、だから勝手に歩き回らないようにって言ったじゃないですか! 」

「ごめん、ごめん。だって、主役がなかなか来なくて暇だったから」

「ジークフリード王子なら、先ほどいらっしゃいました。まずご挨拶を! 」

「はいはい……。アンネ、ディタ、また後でね」


 ウスラは手を振って王宮へ入って行った。


「なんか、不思議な人……」

「そう? ほら、私達も戻りましょ。ジーク兄様がいるって」


 アンネに引っ張られて、私達も王宮への道を戻る。


 うーん、素直に広間で待っていても良かったのでは?






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