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お相手は?

「こんのエロ親父! 」


 私がワグナーの股関に膝蹴りを入れようとしたのと、ドアが開いてカシスとミモザが飛び込んできたのと同時だった。


「ディタ、ダメ! 」


 カシスの叫び声で、寸での所で私の膝の動きが止まった。


「ワグナー様、どうぞご勘弁を!」


 ミモザが床に膝をつき、懇願するように頭を下げた。その後ろでカシスも震えながら膝をついた。


「失礼ながら、それはまだ子供です。手違いでここにいるだけなのです」


 ワグナーは興がそがれたように私の上から下りると、ベッドに胡座をかいた。


「誰が喋って良いと言った」


 ミモザはただただ頭を下げる。


「何よ、偉そうに……」


 私がボソッつぶやくと、真っ青な顔をしたカシスが私の元に飛んで来た。


「すみません、すみません、すみません! まだ、口のきき方も知らないんです」

「何よ、カシス。あなたに言われたくないわ。いつも乱暴な口ばっかきく癖に。第一、男爵か何か知らないけど、襲われたのはこっちでしょ。何で頭を下げる必要があるのよ」


 カシスは私の口を力付くで押さえつけようとする。私はその手をはらいのけ、ワグナーの前に正座して人差し指を突きつけた。


「だいたいね、あなた! 無理やりやろうとするなんて、相手が娼婦だからってなめすぎよ! こういうのは合意のうえでやらないと犯罪なの! しかも未成年相手なんか、言語道断だわ」

「変態の次は犯罪者か……」


 ワグナーの口調は淡々としていたが、その目元は可笑しそうに笑っていた。

 しかし、床に平伏していたミモザにも、私に抱きつくようにしていたカシスにも、その表情は見えていなかった。


「まあ、未遂だから犯罪者にはならずにすんだわね」

「ディタ!! お黙り! ワグナー様、お話ししたいことがございます」

「ああ、話すといい」


 この尊大な態度ムカつく。この国の王子だってもっとフレンドリーだったのに!


 ワグナーのおかげか、ロリコン王子と呼んでいたジークの株が上がった。


「ありがとう存じます。この娘のことにございます。ここではなんなんで、私の部屋にどうかいらっしゃっていただけないでしょうか? 」

「ああ、それなら俺も話しがある。行こう」

「カシス、ディタ、ついておいで」


 ミモザの部屋につくと、ワグナーは当たり前のように、いつもミモザが座っている正面の一番立派な椅子に腰掛けた。なぜか私の腕を引っ張り、私を膝の上に乗せながらである。

 一見、父親が娘を抱いているようなほのぼのとした光景に見えるが、さりげなくウエストを撫でているのだから、ただのエロ親父である。その手をおもいきりつねりあげた。


「遠慮ないな、おい」

「それはこっちのセリフ。下ろしてちょうだい」


 ワグナーは私のウエストに回していた手を素直に外した。

 椅子から飛び降りると、立ったまま私達を見ていたミモザ達の元に行く。


「で? 」


 ワグナーの鋭い眼光がミモザに注がれる中、私はカシスの腕を引き、ソファーに座ろうと促した。


「座ろうよ」

「ダメだって。勝手に動くなって! 」


 私とカシスがボソボソやっていると、ワグナーが座れと言わんばかりに手を振った。


「ほら、座っていいって」


 しかし座ったのは私だけで、カシスは困ったように突っ立っていた。


「で、おまえの話しとは? 」

「はい。ディタの……この娘の失礼をお許しいただきたいのです。もちろん、それ相応のお礼はさせていただきます」

「ほう……」

「今日のお代はけっこうでございます。今晩はご随意にお楽しみください」


 ワグナーはうなづき、先を促すように言葉を発せずにミモザを見つめる。


「今晩のお相手ですが……、こちらのカシスはいかがでしょうか?」

「はあ?! 」


 カシスは蒼白でうつむき、私は怒りで思わず立ち上がった。


 そりゃ、早い子は中学生で経験してる友達もいたけど、いくらなんでもあんまりだ! しかも、相手がこんなエロ親父(ディタからしたら二十歳過ぎはみなおじさんだ)だなんて!


「この娘は、まだ御披露目前で、誰の手垢もついておりません。どうか、ワグナー様のお好きな様に」

「ダメダメダメ!! 」


 いきなり何を言い出すのやら。私はミモザの前に立ち塞がり、両手をいっぱいに広げた。そんな私の肩にカシスが手をかける。


「いいんだ、ディタ。あたしが一晩我慢して、あんたが処罰されないなら……」


 初めて聞くカシスの優しい声音に、私は驚いて振り返る。


「ほら、遅かれ早かれだしさ。あんたの面倒は、姉ちゃんのあたしが見ないと」

「何言ってんのよ! 遅かれ早かれじゃないし! 私はカシスの御披露目までに私達を買い戻すもん! ミモザとも約束したし! 」

「約束? 」


 ワグナーが、面白そうに私を見て聞き返す。


「そうよ! この館の売上を上げることで、三年半後、私達を自分の手で見受けするの。だから、カシスの御披露目は三年半後! 早めるなんて許さないから! 」


 ワグナーを睨み付け、私は噛みつかんばかりの勢いで回りを威嚇した。


「まあ、約束があるなら仕方ないだろう。俺も、初物が好きな訳じゃないしな」

「え? 」

「好き勝手できる、熟練した女の方が抱き甲斐もある」

「なら……カシスは勘弁してくれる? 」


 ワグナー男爵は両手を上に向けて肩をすくめた。


「あなた、思った以上に話しがわかるじゃない」

「その代わり……」

「代わり? 」


 ワグナーは私を手招きした。

 警戒せずに近寄って行くと、ワグナーの手が私を捕まえて抱き寄せ、肩に担ぎ上げた。


 イヤイヤ、この抱き方は人間に対してというより荷物扱いだから。


「そっちの娘はいらないが、張本人に責任を取ってもらおうか」

「はあ?! 」


 あまりに力強いその腕を振りほどくことができずにジタバタもがく。


「妹は勘弁してください! この子は身体が弱いんだ! あなた様のお相手なんかしたら死んでしまう」

「身体が弱い? この娘が? 」


 元気に暴れている私を、信じられないように見る。


「身体が弱いようには見えないが……確かに小ぶりかもしれないな。おまえいくつだ? 」

「十一よ! そういうあなたはいくつなのよ」

「俺? 俺か? 二十四だが」


 若者らしくない威圧感があるから、てっきりもっと上だとばかり思っていたが、とんだ青二才だ!

 私(楠木絢)より六つも年下じゃない?!


「このド変態! 一回り以上違う子供に手をだそうとするなんて、恥を知りなさい!! 」


 ミモザは青ざめ、カシスは腹をくくったのか、ワグナーから私を取り返そうとジャンプしていた。


「離して! 離して!! ディタが死んじゃう! 」

「人聞きが悪いな。別に体力の限界を超えるくらい無理強いするつもりはないし、俺は比較的優しい愛人になると思うがな。身体が弱いなら、それなりにいたわってやろう」

「それなりにじゃダメだな」


 扉が開き、フワリと穏やかな雰囲気が流れ込んできた。


 この声は……?!

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