春夏秋冬
台詞オンリー・1400字程度の簡潔な話になっています。
一般的な小説とはかけ離れていますので、絵本を読むような気楽さで読んで下さいませ。
「『春。僕(私)達が出会った季節』」
「隣の席になった君に、僕は話しかけた。きっかけは些細で、君が落とした消しゴムに、気付いていなかったからだ」
『消しゴム、君のだよね。そう言って渡してくれた貴方は、どこかオドオドとしていて、なんだか少し頼りない。ありがとう、と受け取ったその時の私は、貴方の名前すら、まだ知らなかった』
『夏。貴方と友達になった季節』
『教科書を忘れた時も、黒板が見えない時も、周りの女子に助けてもらっていた。わざわざ男子の貴方に助けてもらうのは変な気がして、関わることはしないでいた』
「でも偶然にも僕達は、同じ陸上部に入った。短距離の僕とは違い、長距離を走る君は少し憧れで。次第に会話をすることが多くなった」
『部活終わりに、貴方はよく話しかけてくれた。部活内で他に親しい人がいなかった私は、それが少し楽しみで。話すことなんて他愛もない、日常の話ばっかりだけど、貴方の話はいつだって面白かった』
「『秋。僕(私)の想いに気付いた季節』」
『いつしか、話しかけてくれることを待つようになった。もっと話したいと思うようになった。これが恋だと気付いたとき、私は余命を宣告されていた』
「君は部活に来なくなった。誰よりも真面目に、一生懸命取り組んでいたのに。最初は週に1回、そのうち週に4回、5回など休むようになって、部活で君の姿を見ることは減った」
『教室で貴方が心配そうに訪ねてきた。どうして部活に来ないのか、を。私はただ一言、無愛想に、飽きてきちゃったの、とだけ答えた。……嘘だった。私は走れなくなっていた。日に日に体が弱くなっていくのを感じていた』
「抵抗があったものの、僕は教室でも話しかけるようにした。やっぱり周りの目が恥ずかしかった。それでも、面白そうに笑う君を見ると、周りなんて気にならなかった。僕の話で笑ってくれることが、幸せだった」
「冬。君がいなくなった季節」
「冬休みが明けて、君は学校にさえ来なくなった。先生に聞いても訳は教えてくれず、君に送ったメッセージに、返信が来ることはなかった」
「何かあったのか、どうしようもなく不安で、心配で。でも確認する術なんてない。過ぎ行く毎日に、君の存在がゆっくりと薄れていく」
『貴方からのメッセージが届くたびに、胸が締め付けられた。返信することのできない、自分の心の弱さを。体の弱さを、恨んだ。私はゆっくりと、死へと進んでいく』
「たった一言でもいい。何か理由があるなら言ってほしかった」
『何も伝えられなかった。私は誰よりも、貴方に “大丈夫”って言ってほしかったのに』
「離れたくなかった」
『離れるしかなかった』
「君に会いたい」
『二度と会うことはできない』
「また一緒に話したい」
『もう話すことさえ叶わない!』
『…………私が、貴方に伝えていれば。きっと貴方は隣にいたのだろう。心の何処かで、そうと知りながら、衰弱していく私を、見せないことを選んだ』
「――春。僕は学年が上がった。君と会わないまま季節が過ぎていく。先生は全校集会で君の名前を出し、短い一生を全うした、と言っていた」
「君と最後に交わした言葉は、何の面白味もない。冬休み明けに、また話そう……だった。その時の君は優しい笑顔を浮かべていた。僕は笑顔の裏に、気付くことが、……できなかった」
最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。
とても簡単で短い話ではありますが、2人の想いをとことん詰め込みました。台詞オンリーということで好き嫌いが分かれると思います。もしアドバイスや感想、ございましたらコメントやレビューをして頂けると非常に嬉しいです。
それでは改めて、ここまで読んで下さったことに深く感謝申し上げます。ありがとうございました!