~自己紹介はハッキリと~
フォルネウス!」
フィーリアが見たのは魔猪の体長を優に超える
巨大な鈍銀の魔獣だった。
何よ…あれ…?
その魔獣は魔猪の首元に噛み付くとそのまま
喉笛を喰いちぎった。
魔猪は呻き声を上げる間もなく絶命した。
Bランクの魔獣を一撃で葬る魔獣…。
Aランクそれとも…伝説級
そこで彼女は気を失った。
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「おい!大丈夫か?しっかりしろ!」
倒れている彼女は大きな傷を負っていた。
(主よ、気をしっかり持つのだ。
小娘はまだ死んではおらん)
気づくと、
いつの間にか小さくなっていたチビ鮫が頭の上にいた。
チビ鮫の言う通り確かにまだ息はしている。
しかし出血は酷い。
「フォルネウス何とかできないか?」
(我に小娘を癒す方法は無い。)
とにかく傷口を抑えないと…。
(主よ、そのような事をせずとも
主ならば手早く小娘を救えるのではないか?)
俺なら簡単に…?そうか俺なら…!
「ソロモン王の名の下に命ずる」
呼び出すのは序列42位に座す大いなる公爵
「我が魔力を喰らい顕現せよ」
そして悪魔の名を呼ぶ
「こい"ヴェパール"」
目の前に魔力の渦が発生し、悪魔の形を成す。
現れたのは美しき人魚であった。
「命ずるヴェパール、彼女の傷を癒せ」
ヴェパールは頭を下げ命令を実行し始めた。
ヴェパールが触れた彼女の傷は黒い煙を上げて
跡形もなく消えていく。
脚の傷やその他の切り傷を治し、命令を果たすと
ヴェパールは魔力の粒子となって消えた。
双葉が安堵すると急に体から力が抜けていく
感覚に陥った。
(主よ、魔力の使いすぎだ。)
そうか、これが魔力切れと言うやつらしい。
身体に力は入らないし、視界も定まらない。
更に魔力を使うようなら命を落とすかもしれない。
(我も、そろそろ休むとしよう。)
そう言うとフォルネウスは粒子になった。
「俺も休むか…。」
双葉はちょうどいい木陰を見つけると傍に座った。
多少気分は落ち着いたが暫くは歩いての
移動は不可能だろう。
ましてや傷を治したとはいえ
気を失っている女性がいるのだ。
ここでハイさようならとはいかない。
双葉は女性が目を覚ますのを待つことにしたのだった。
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フィーリアが目を覚ましたのは夕刻になった頃だった。
「あれ私確か…」
私は魔猪に襲われてやられそうになったはず
なのに私は生きている?
ましてや足の傷や、体の傷も最初から無かった様だ。
生きていることにフィーリアは安堵すると
辺りを見渡してみる。
そこには喉笛を喰い千切られ絶命した
魔猪の亡骸があった。
強力な魔猪を一撃で葬ったあの魔物は何なんだろう?
そしてあの時聞こえた声は?
「·····ん」
近くで聞き覚えのある声がする。
探してみると奇妙な格好している男が寝ている。
なんでこんな所で寝てるのよ…?
「ちょっ、あんた起きなさいよ!」
体を数回揺さぶると男は目を覚ました。
「ん…、君は…傷は大丈夫?
ちゃんと治してるとは思うんだけど…。」
もしかしてこの男が私を助けてくれたの?
「えぇ。体は大丈夫よ。
あんたが魔猪をやったの?」
男は頷くと立ち上がり右手を差し出す。
「俺は新藤双葉
援護が間に合って良かった。」
「私は…フィーリアよ。
助けてくれてありがとう。」
私も新藤双葉の手を握る。
かくして私と奇妙な格好をした男は出会った。