みおさんはひそかに隣を狙っている。
日差しをたっぷりと浴びながら街中を一人で歩いていた休日の午後、僕は彼女に初めて出会った。出会った時、彼女は何故か僕の隣に立っていた。立っていただけなのに、妙に惹かれた。
「……何か?」
「な、何でもないです」
惹かれるような外見だったのは否めない……目鼻立ちがハッキリしていて、すれ違う男たち……この場合は僕もだけど、みんな彼女に注目をしている。どこから見ても綺麗なお姉さんといった感じだ。思わず見つめていたのを気づかれたのは頂けなかった。
誰が見ても声をかけてはいけないオーラが彼女にはあり、全身から放たれているくらいの美しさがあった。あんな彼女と一緒に歩けたらな……もちろんこれは、僕だけの妄想と願望だ。その思いが始まりであり、後々に続いていくことになるだなんて予期せぬことだった。
一人暮らしを謳歌しまくっている僕には、付き合っている女性なんていない。欲しい欲しいと思えば思うほど、何故かその縁は遠ざかっている、というのが最大にして最低の理由だ。
「正雪が近くにいるだけで幸運が降って来るのは何でだろうな?」
「僕には分からないけど、そうなの?」
「まあな。本人だけがその効果を得られないってのは悲しい現実だよな」
これは高校の時、いつもつるんでいた友達が言っていた言葉だ。僕は僕以外の誰かを幸せにするというよく分からないラッキー野郎として有名だった。自分には全く恩恵がないだけに、得をしないで損をしまくりの学生生活を過ごしていた。
学校を卒業後は、フリーターとしてアルバイトを転々としていたこともあり、そうしたことを言って来る人はいなかった。それが再び言われることになろうとは思わなかった。それも街で見かけた彼女から。
「どこかで会いましたっけ? あ、初めまして。星加みおって言います。これから、一緒に頑張りますかね」
「あ、僕、日月正雪です。そ、そうですね、一緒に」
星加みおさんとの出会いは僕と彼女の人生を大きく変える。変わるのは彼女で、変わらないのは僕だけ。そう思っていたのはどうやら、僕だけだったらしい。
後々のこと、彼女は僕を雪くんと呼び、いつも密かに隣の場所を狙ってくるようになる。その狙いは、恋か幸運なのか、あるいは?
出来れば僕自身にも、恋という名の幸運が降って来ることを信じて頑張ってみよう。
短く終わりましたがお読みいただきありがとうございました。