第5話 安否
「うぐっ!?もごご…」
――バタッ
「――ここは、どこでありますか…」
スライムに襲われ気を失ったヘイシは目が醒めると見覚えのない部屋にいました。
「そうだ、メルセデス殿は!」
ヘイシは急いでその部屋から出ます。辺りを見回すとここは知らない町のようです。
ヴェルダの町と違い人の姿が見えます。一番近くにいた男性に話を聞きました。
「あの!私と一緒にいた女性を知らないでありますか!?」
「え、しらん……」
突然すごい気迫で話しかけてくるヘイシに男性は戸惑っている様子。
ヘイシは次に子供を連れた母親に話を聞きました。
「失礼!私と一緒にいた黒髪の気の強い女性を知らないでありますか?」
「黒髪の女性ねぇ……」
「メルお姉ちゃんのこと…?」
母親が悩んでいると連れていた子供が反応しました。
ヘイシは瞬時に理解しました。メルお姉ちゃんの“メル”とはメルセデスの“メル”であると。
「そうであります!!メルお姉ちゃんは今どこでありますか?」
「きっと、今は教会でお祈りしてると思います…」
「ありがとう、感謝であります!」
ヘイシは女児から話を聞くと、すぐに教会へ向かいました。
しかしヘイシは教会の場所がわかりません。近くを通りかかった杖を持つ老人に話を聞きます。
「お爺さん!教会の場所はどこでありますか?」
「ふぁぁ?妖怪のマンション…?」
老人は軽く震えながら耳に手を当てヘイシの話を聞きますが、うまく聞き取れない様子。
「違うであります!きょうかいの!ばしょ!」
「懲戒免職じゃとぉ…?」
「だ、だめであります…メルセデス殿を早く見つけるであります…」
「メルちゃんならあっちの教会じゃよ」
「えぇ…不思議な耳でありますね…、ともかく感謝であります!」
ヘイシは老人が指した大きな建物に向かいます。
教会につくと扉は既に開いていました。
「ここが教会でありますか…」
中に入ると祭壇に跪く人の後ろ姿が見えます。美しい黒髪の女性です。
「あれは、メルセデス殿…よかった…」
「ヘイシ…?」
女性はヘイシの声に反応して振り向きます。
間違いなくメルセデスです。無事に生きていました。
メルセデスはヘイシを見ると、走って抱きつきました。
「この馬鹿!勇者のくせに何日寝てんのよ!!…よかった…」
「い、痛いであります…」
ヘイシはその後メルセデスから話を聞きました。
ここはヤヌという集落であること、ヤヌの猟師がスライムに消化されかけているヘイシを見つけて助けた事。
「しかし、何故こんな所に集落が?地図にはなかったであります。」
「私も最初気付かなかったけど、その地図すごく古いやつみたいよ。」
「え…つまり…」
「えぇ、その地図が作られた後に出来た町とかは載ってないからあまり使い物にならないわね。」
「自慢の拾い物マップが役立たずだったでありますか…」
ヘイシはあからさまにがっくりとしています。
「完全に役立たずではないわよ。それよりこれからどうするの?」
メルセデスは真剣な面持ちで問いかけます。
「魔王を倒しに…いきたいでありますが、スライム1匹に負けた私が魔王を倒せるわけがないであります。」
2人は俯きながら数十秒黙り込みました。
改めて現実を思い知ったのです。
「メルお姉ちゃん…!」
さっき母親に連れられていた子供が走って来ました。
「……シャルちゃん!どうしたの?」
メルセデスが子供の頭を撫でながら優しく聞きます。
「えっとね…さっきお兄さんがメルお姉ちゃんのこと探してたから…」
「お兄さんってこいつのこと?」
メルセデスがヘイシに指をさします。
「うん…!見つかってよかった…」
「先ほどは感謝であります!」
「何か世話になったみたいだし、一応紹介しておくわね。この子はシャルロッテ・コールザートちゃん。今は7才だったっけ?」
「うん…!」
「シャルロッテ殿、いい名前でありますな!私はヘイシ・フツーノ!16であります!」
「ヘイシお兄ちゃん…!」
「さて、どうしましょうか。本当に魔王を倒しに行くつもりなら何かしらで鍛えないとだめね。」
メルセデスの言葉で再び真剣な空気に戻ります。
「鍛えるでありますか…といっても、魔物図鑑のNo.1に記載されるほどの雑魚モンスターであるスライムと戦うのも危険でありますから…」
「魔物図鑑云々は知らないけど、そうねぇ」
「お姉ちゃん達強くなりたいの…?ヤヌの訓練場にくる…?」
「「ヤヌの訓練場?」でありますか?」
「え、う、うん…!」
2人の食いつきにシャルロッテは少し戸惑います。
「是非!案内して欲しいであります!」
「うん…!こっち…!」
2人はシャルロッテについて行きました、案内された先にあった、それなりの重さがある門をヘイシが開けると、その先は聖堂のような場所でした。
「ここが訓練場?なんだか教会より教会らしいわね。」
「おや、シャルロッテじゃないかい、そちらの方々は見ない顔だねぇ。」
「うわっ!びっくりしたであります…」
急にヘイシ達の横からお婆さんが現れました。
「おばあちゃん…!このお姉ちゃん達が強くなりたいって…」
2人に緊張が走ります。
「ほう、なにやら訳ありのようだねぇ」