第4話 窮地
「もう仕方ないわね。私より頑固な人がいたなんてね!じゃあセレネ王国を目指すわよ!!」
「了解であります!!」
「おぉ地図!あんた良い物持ってるじゃない!」
メルセデスはヘイシの肩をばちんと叩きます。
「痛いであります!メルセデス殿は何か旅に役立ちそうな物はないのでありますか?」
「うーん、ないわね。非常食くらい?」
そう言ってメルセデスは背負った鞄を開いて缶詰を数本と1キロ程のお米を見せました。
「これは、すごいでありますよ!この状況でこれ以上のお宝はないであります!」
「ふふん、国に着いてからも困らないわよ?私には硬貨がたくさ……」
メルセデスは鎧中のポケットをポンポンと叩き、鞄の中も入念に確認しています。
「忘れてきちゃった…硬貨。」
「な、なんとかなるでありますよ!」
「そ、そうね!!これから稼げばいいもの!」
先行き不安な2人ですが、大丈夫なのでしょうか。
2人はこれまでの旅で何があったかや、自分の国や身近な人の愚痴を零しながらセレネ王国に進みます。
「それにしても結構歩いたわね…」
「この地図を見る限りまだまだ先でありますよ、ようやく10分の1という所であります…」
歩き続けて4時間、辺りは真っ暗。
2人は疲弊している様子です。
「この辺りでひと休みするでありますか…」
「そうね、魔物が現れないか心配だけど」
2人は近くに落ちていた草木をかき集め、ヘイシが持っていたマッチで燃やしました。
「火は点けれたけど、お米は炊けないし、とりあえず缶詰でも食べるしかないわね…」
メルセデスは鞄から2つ缶詰を取り出し、1つをヘイシにポイっと投げました。
「おっとと、感謝でありますメルセデス殿!」
「困った時はお互い様よ、仲間なんだから。」
ヘイシは缶詰を開けると美味しそうにそれを平らげました。
「ごちそうさまであります!」
「空腹の時に食べるとやっぱり美味しいわね」
「そうでありますな!ふぅ〜今日は疲れたであります…」
カサカサッ
「えっ、なんの音…?」
メルセデスは謎の物音にいち早く気付きました。
鞄を枕にして寝転がっているヘイシを放って物音がした方向に少しずつ近付きます。
「この辺りかしら…」
片手で剣を構えながらそーっと草むらに手を伸ばします。
「メルセデス殿ぉ!!何をしてるのでありますかぁー?」
少し遠くから聞こえるヘイシの声に驚きメルセデスの身体がビクッと反応します。
「もう!驚かさないでよぉー!!…え?なに、これ…」
メルセデスが再び顔を草むらに向けると、そこに伸ばした手を謎の液体が包んでいました。
「す、スライム!?」
時すでに遅し、かなりの速度でメルセデスの身体を包んで行きます。
スライムは相手の口などを自らの肉体で塞ぎ、窒息死させるのです。
もう剣を振るうことは出来ません。
「きゃっ、ヘイシぃうぷっ…」
メルセデスの顔はスライムに包まれてしまいました。
一方ヘイシは、
「追加する草木を集めてくれてるのでありますかね?」
暗くてメルセデスの姿がよく見えていない様子。
「メルセデス殿ォー!私も手伝うでありますよ!!」
勿論、口を塞がれているメルセデスは返事など出来ません。
「なにか怒っているのでありますか…?謝りに行くであります」
ヘイシは起き上がり、メルセデスの方へ近づいていきます。
「メルセデス殿ー、何かお気に障っ…メルセデス殿ォ!?」
木々に倒れかかって全く動いていないメルセデスを見てようやく気がついたようです。
メルセデスの元に急いで駆け寄ります。全身を薄水色の液体が包んでいるのを確認しました。
「これは…スライム!絶対に許さないであります…!!」
ヘイシはメルセデスを抱え炎の元へ走ります。
スライムは徐々にヘイシの身体も包もうとしますがそれには見向きもせずただただ走ります。
息を切らしながら炎の元へ着いたヘイシは力を振り絞ってメルセデスが火傷をしない程度に炎に近づけます。
ぷるっ、しゅるる
炎に反応したスライムは2人の身体から離れ、一目散に逃げ出しました。
「メルセデス殿、メルセデス殿!!」
ヘイシはメルセデスを降ろすと、身体を揺さぶり名前を呼びますが反応はありません。
「脈拍は――」
ドクン、ドクン。
「――まだあるであります!人口呼吸はたしか…」
メルセデスの顎を上げ鼻を塞ぎ、口から酸素を送り込みます。
何度か繰り返しますがこれも反応はありません。
「はぁ、はぁ…メルセデス殿!どうしたら…」
ヘイシはもうどうする事も出来ず、ただ名前を呼ぶことしか出来ませんでした。
「うぅ、メルセデス殿…」
ぷるるっ
逃げ出したはずのスライムは2人の様子を見ていました。
襲う機会を伺っているのです。
「あのスライムまだいたでありますか…!!」
ヘイシはスライムを発見すると鉄の剣を取りスライムに向かって走り出しました。
メルセデスを窒息させた恨みを込めて雄叫びをあげます。
「スライムゥ!!お前だけは、絶対に!!」
兵士時代、訓練において槍しか扱ってこなかったヘイシは剣の構え方すら知りません。
そして今は怒りに身を任せた状態、全力でスライムに剣を叩き込む事しか頭にないヘイシは顔ががら空きなのです。
もちろんスライムはこれを逃しません。スライムはヘイシの顔を目掛けて飛びました。
「うぐっ!?もごご…」
スライムの行動に反応しきれず、顔へ吸着されてしまいます。
ヘイシは剣を手離し、スライムを顔から離そうとしますが、無駄な抵抗。
2分程この状態が続くと、ヘイシも限界を迎えます。
――バタッ