第2話 冒険
「ヘイシィーーー!!達者でなーーーーーーーーー!!!!」
旅に出たヘイシは魔王討伐のため魔界にある魔王城へ向かいます。
ところがずっと王国内で暮らしてきたヘイシは魔王城は愚か、魔界への行き方すら知らないのです。
「とりあえず次の町に行くであります。」
ヘイシは貯金箱に入っていた少量の硬貨と焚き木用のマッチ、最低限の着替えを持って王国から3kmほど先にある町、ヴェルダを目指します。
「草木の向こうには注意でありますな…」
ここは平原、兵士に守られていない王国の外。いつ魔物に出会っても不思議ではありません。
ところがヘイシは、
「いや、腐っても元兵士!魔物なんて蹴散らしてやるであります!!」
このようにやる気まんまん。
1kmほど歩いた頃、ヘイシは何かを発見したようです。
「あれは、スライムでありますな…」
小さい頃から魔物図鑑を好んで読んでいたヘイシは魔物の種類に対して博識なのです。
「兵士としても魔物と戦った事はないでありますが、スライム1匹程度なら――ん?」
ぷる、ぷるる。
なんとスライムは2匹いたようです。
まだ見つかっていないようですがヘイシはどうするのでしょうか。
「に、2匹程度、勇者が負ける訳はないであります!!」
少し動揺しているようですが、ヘイシが臆する事はありません。
その場に荷物を起き、遠くから慎重に慎重にスライム達に向かって近付きます。
「スライムは感覚が鈍いのでこっそりと行けば正面からでもやれるであります……」
魔物図鑑で読んだ知識を活かして引き続き静かに忍び寄ります。
スライムを発見して10分ほどが経過しました。
ヘイシはようやくスライムに攻撃が届く距離まで近づけたようです。
「今こそ、不意打ちであります!!」
ヘイシがスライムを目掛けて鉄の剣を振り下ろすと、見事スライムに命中しました。
しかし、攻撃されたスライムが倒れる様子はなく、もう1匹もヘイシに気がつき絶対絶命となりました。
「た、退却であります!」
荷物を置いた場所に向かって必死に走ります。
ヘイシを追いかけるスライムの速度はその見た目に反して結構なものです。このままでは追いつかれるかもしれません。
それでもヘイシは走ります、命がかかっているのですから。
なんとか荷物の場所までスライムに捕まるよりも先に到着しました。勿論スライム達が追跡を止める事はありません。
突然、ヘイシはこの状況でごそごそと鞄の中身を漁り始めます。
「えっとえっと、あったであります!」
ヘイシが鞄から取り出したものは、持ってきた着替えの一部とマッチのようです。
ヘイシは着替えの一部にマッチで火を点け、スライムに投げました。
すると、スライム達は火に反応して逃げ出します。
スライムは身体の99%が水分。蒸発して死に至る恐れがあるため特に自分より大きな火を極端に嫌うのです。ヘイシはそれを知っていて咄嗟に実行したのでしょう。
「助かったであります…。もう魔物と戦うのはこりごりでありますな。」
このままで魔王討伐が果たせるのでしょうか。
一命を取り留めたヘイシは再び町を目指して歩きます。
「ヴェッ!!」
ヘイシが奇声をあげます。
背中に強烈な一撃を受けたようです。
「ま、まさか…さっきのスライムが報復にきたでありますか……」
あたりをキョロキョロと見回してもスライム達は見当たりません。
ヘイシは混乱しながらもヴェルダの町を目指します。
「いてて…なんだったのでありますか…」
痛みに苦しみながらも数十分歩いて、ようやくヴェルダに到着しました。
「…?誰もいないであります。」
ヘイシはヴェルダの町を少し探索しますが、誰も見当たりません。
並んでいる店や家を覗いても人の姿はないようです。
「まさか、魔物にやられたのでありますか?」
ヘイシは丁寧に一礼をして最後に確認した家に入りました。
中は荒らされている様子です。物が散乱していて壁や床も傷が目立ちます。
「ひどい有様であります…」
ヘイシは背中に負った傷を癒すためにその家のベッドを借りました。
薬などは持ってきていません、自然治癒力に頼るほか無いのです。
「昔、孤児院の先生が言っていたであります。怪我は万病の元と。いや風邪だったかな、まぁいいであります。」
ヘイシが少し眠り、目を覚ますと空は美しい橙色になっていました。
「よし、痛みも大分引いたであります。では再び冒険の旅へ!」
ぐぅぅぅ。
「う…」
ヘイシはお腹がすいた様子。
朝から何も食べていないのですから当然です。
「行くあてもないであります。とりあえずはこのヴェルダの町を拠点に食べ物を探すであります!」
ヘイシはその後。町に残った僅かな食料を探しだし、空腹をしのぎます。
同時に町中のたくさんの本を読んで魔界に関する情報を集めていました。
そして5日程が経過。
――パタン。
「この本が最後でありますな。どうやらこの世界と魔界は1つの大きな扉で繋がっているみたいでありますが、肝心なその扉の場所は本によってバラバラであります…」
ヘイシは結局どこへ向かえばいいのかがわからず困っているようです。
「…まだ情報不足であります。とりあえずこの本に挟んであった地図を見てここからずーっと東にあるセレネ王国に行くであります!」