第0話 プロローグ
これは、とある国のとある兵士のお話。
「本日もご苦労様であります!」
就業時間になり仲間たちに挨拶をする真面目な青年がいます。
彼の名は、ヘイシ・フツーノ。16歳の新米兵士です。
この世界は今、魔界の王に支配されようとしています。
魔王は強力な魔物達を使役して国々を滅ぼすのです。
兵士のお仕事は、その魔物達や悪人から国民を守る事です。
守ってばかりでは埒が開かないのでは?という声もありますが、大丈夫。
この世界には魔王を倒すべく冒険をしている勇者という救世主がいます。
なので兵士達は彼が魔王を倒し、世界が救われるその日まで国民達を守り続けるのです。
「そくほおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
別の兵士が大きな声で叫びながら、ヘイシ達をめがけて走ってきました。
「何事だ?」
兵士長が、少し心配そうな表情で走ってきた兵士に
声をかけます。
「はぁ…はぁ…勇者様が――――」
「……ごくり。」
兵士長が息を飲みます。
「…魔王サイドに寝返りました!!!!」
「「「え、ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
兵士達は驚きのあまり声をあげ動揺している様子。
――ドサッ。
一方兵士長は、声も出さずに気絶してしまいました。
「どうすんだよ!!誰が魔王を倒すんだよ!!!!」
「知るか、俺に聞くな!!」
ヘイシ、兵士長を抜いた総勢5名の兵士達が言い争っています。
「大丈夫であります!!また必ず新たな勇者が現れ世界を救ってくれるであります!!!」
ヘイシは声を張り上げて混乱する兵士達を希望を持ってなだめます。
「うるせぇ!新入りのガキは黙ってろ!!」
ヘイシの希望が通じる事はなく、先輩兵士に怒られてしまいました。
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「あの裏切り者を勇者と称し旅立たせた貴様は、この責任をどう取るつもりかね?」
「そうです、もしや貴方自身が魔王の手先なのでは?」
「それはあり得るのぅ、死した勇者はおれど裏切った事例は初じゃ。」
勇者が魔王の仲間になった事を知った各国の王達は、勇者を輩出したヘイシの国の王を責めました。
「ぐぬぬ…待っておれ。必ず世界を救う勇者を我が国から輩出する!」
その後、混乱する世界の中、ヘイシの国では勇者の募集が行われました。
募集を始めて数日が経過し今日は玉座の間にて勇者を決める日です。
ヘイシを含めた兵士達は、王様の護衛のため王様の側で任命式が始まるのを待機しています。
「さて、いよいよ新たな勇者を任命する日が来た。来たれ!真の勇者よ!!!」
ゴォォォォォォ。
王様の掛け声とともに50メートル程先の大きな扉が開きます。
――しかし扉の向こうからは誰も入ってきません。
「……どうした、勇者たちはどこに行ったのだ?」
「……こそこそこそ。」
大臣が王様に耳打ちをしています。何を話しているのでしょうか。
「なにィ!希望者が、いない…!?」
なんという事でしょうか。
魔王を倒すという途方も無い使命を自ら受けるという人はいないようです。
王様は頭を抱え、その様子を見た兵士達は混乱しています。
「よし、決めた。」
とつぜん、閃いたかのように王様は何かを決断したようです。
するとヘイシに向かって杖を指してこう言いました。
「お主、今日から勇者。さぁゆくのだ!!!」
兵士達や大臣、その場にいた人間がみんな目を見開き口を開けてヘイシを見ています。
周りをキョロキョロと見回すヘイシ。ようやく自分の事だとわかったようです。
「りょ、了解であります!勇者ヘイシ・フツーノ。魔王を倒して参ります!!」
これは、とある国のとある兵士――だった勇者ヘイシ・フツーノの冒険譚です。