29,デート回②
「あっ……」
ちょうど自分のクレープを食べ終えたところでネロの声が聞こえ見るとジャンボパフェクレープの具材がいくつも落ちていくのが見えた。
「あっ……」
そして落ちたものが全て地面に触れいくつか落下の衝撃で潰れたものもあった。ネロはそれらの落ちたものを見て精神ダメージが大きすぎたのか声も無く項垂れている。
「ネロ……もう1個買う?さすがにジャンボパフェクレープはやめといた方がいいと思うけど」
「……はい」
それじゃあさっき買ったクレープ屋さんに行って新しいのを買わないとね。でもその前に落ちたヤツを処理しないとね。
「『燃えろ』」
陛下から魔術を教わる中で基礎の基礎として教わった任意の場所に火種を出す魔術。
クレープ屋さんに着くとさっきとは違ってかなり空いていた。ピーク時間がちょうどさっきだったのかな?とりあえず頼めるうちにさっさと頼もうか。
「ネロは何にするか決まった?」
「えっと……」
あのジャンボパフェクレープ以外から選ぼうとしているネロは見たところイチゴかバナナの二択で迷っているみたいだ。
まぁ解決するのは簡単だよ。だって1人1つなんて言っていないんだから。
「その2つで迷ってる?」
「はい、マオさんの食べたのも美味しそうだったんですがこっちも気になるので」
うん、それじゃあ両方とも頼めば解決だね。元々あのジャンボパフェクレープを食べるつもりだったんだから通常サイズ2つなら余裕で入るだろうし。それにもしも食べきれなくて余ったらその時は僕が貰えばいいしね。
というわけで2つとも注文しよう。
「すみません、イチゴとバナナをください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
レジ近くの椅子に座ってゆっくり待つとしよう。さっき来た時は座れる余裕なんてなかったしね……ってこの椅子っていうかソファめっちゃふかふかだな。地球に帰るときに1台欲しい。
そしてバナナの方をネロに渡してイチゴの方を僕が持って椅子に座ったところでネロから質問された。
「マオさん、なんで2つも買ったんですか?!」
「だってネロどっちも食べたそうにしてたじゃん。だからシェアすればどっちも食べられるって思って」
僕がそう答えるとネロが一転して顔を真っ赤に染めた。そして小さくて聞き取りづらいがなにか呟いた。
えーっと、なになに・・・かんせつきすっていった……あ、間接キスか。一瞬単語だってことがわからなかった。
・・・ん?間接……キスぅ?
えっと……ネロは受け取ったバナナクレープで顔を隠してるな。だけど完全に隠しきれてないから真っ赤になってる耳が見える。
そして僕自身もなんか顔が熱い。僕とネロが互いに赤くなってるのを見て店員さんがニコニコしてるのが視界の端に映る。
なんだかいたたまれなくなってネロの手を掴んで店から出た。そしてネロは買ったバナナクレープをちびちび食べてる。ジャンボパフェと違って片手で持てるから見てる方も安心できる。イチゴクレープを食べながら少し横目で見たりしてるけど落とす心配はなさそうだ。
「んむっ、あっ……これ美味しい」
んー、可愛い。今もクレープをもぐもぐしてるけどそれが頬に詰まってなんかハムスターとかリスみたいな小動物感ある。
いつの間にかネロがバナナクレープを半分食べ終えていたからイチゴクレープを渡す。万が一ネロがバナナクレープ1つで満腹になったら2つ買った意味が無いからね。
「はいネロ、イチゴクレープ。バナナクレープだけでお腹いっぱいになったらもったいないからね」
「はい。それじゃあマオさんバナナクレェプどうぞ」
そう言ってネロと互いのクレープを交換した。
やっぱりバナナクレープ美味しい。まぁバナナって言っても実際に使われてるのはバナナもどきとか異世界版バナナとか言われるやつなんだけどね。使われてるのはバナナもどきなのに商品名はバナナクレェプなのはこれをこの世界に広めた人のガバかは分からないけどそれもどうでもいいくらい美味しい。
「マオさんマオさん」
「んー?どうした?」
クレープの残りを食べているとネロから呼ばれた。
「マオさんは行きたいところないんですか?」
んー、僕が行きたいところねぇ……あるにはある。この街っていうかこの世界にラノベとかによくある冒険者ギルドみたいな組織があるのか気になるからもしこの街にあるなら行ってみたい。
「んー、この街に冒険者組合みたいな所ってある?」
「それは冒険者ギルドですね、なんでも異世界から来た方がそれまでバラバラに仕事を受けていた冒険者を統括してより仕事を受けやすくするように作った組織だと言われています」
ほほぅ、冒険者ギルドって言うのはあるのね。
「今では有事の際に騎士団が動けない時などは国からの依頼を受けて魔物の討伐をしたりしていますよ」
「へぇ、他国からの冒険者もこの国にいるの?」
「はいっ、まず冒険者は身一つでお金を稼ぐ職業な上国も騎士団の代わりに使える戦力として傭兵より組織化している冒険者の方が使いやすいのでいくつか特権があります」
ほう、割と国との関係は上手くいってるのか。正規の騎士団より圧倒的に強い冒険者がいたり騎士相手に好き勝手してたりする冒険者もいるイメージがあったけどヤクザっていうより用心棒の方が近いかな?
「そのうち1つが冒険者としての身分を証明するカードがあれば都市の役所が発行する手形を使わずに国境を超えるときの審査を受けられるんですよ」
え……それかなりの特権じゃない?冒険者ならほとんど自由に国境を超えてもいいってことじゃん。まぁ命の危険があったりするけど特権があるからってことでなろうとする人が多いってことかな?あと純粋に物語の英雄様に憧れてとかもありそうか。
「それじゃあ私が冒険者ギルドまで案内しますね!」
そう言ったネロはなんだか張り切ってるように見える。そしてネロに案内されて冒険者ギルドへと向かった。
「マオさん着きましたよ、ここが冒険者ギルドです!」
そうネロが言って僕が目にしたのはレンガ造りの大きな建物だった。
個人的に冒険者ギルドっていうと木造で扉とかがボロボロになってるイメージがあったからこれは以外。思いのほか綺麗でしっかりした建物だ。
「マオさん着きましたけど冒険者登録しますか?」
んー、一応冒険者組合か冒険者ギルドを見たいっていうのは叶ったけど登録はどうしようかな。学園に入学したとして学園都市内にギルドが無ければ依頼を受ける時間が無くて年単位で依頼を受けなかった結果資格剥奪とかになりそうだしそうなったら登録した意味無いよな……
「んー、どうしようかな。ネロ、学園がある街にギルドってあるんだっけ?」
「えーっと、確かあったと思いますよ。基本的にこの世界では人が多く集まる場所にギルドがあるので」
ふむ、学園に入学してからもギルドが近くにあるなら問題ないし登録しようかな。そう思ってギルドの扉を開けて中に入った。
━━━━冒険者。
魔物討伐を生業とし、魔物を討伐することによる被害の抑制、魔物を倒すことによって得られる素材の調達、あと人手を必要としている人のお手伝いなんかも行い、それに応じて依頼主から報酬が支払われるこの職業。
強者であれば強い魔物を討伐出来、相手が強ければ強いほど討伐による報酬金も高く、その素材を効果で売り払える。
そして国抱えの騎士団と比べ少数で高い戦力を保有する者もいるため有事の際には国が依頼を出して傭兵のように雇うこともある。
そして単騎で魔物の軍勢と渡り合うような規格外の冒険者ともなればそこらにいる下手な貴族より発言権が強いらしい。
そして僕自身について考えてみればレベルだけで見てもそんじゃそこらにいるやつでは全く相手にならずステータスはそのレベル帯基準ランクを出すため制限がかかっているとはいえレベルが250を超えオールAランクの僕の能力はそれこそあの学園長やこの国の国王陛下のように相手が規格外で無ければこの世界でも上位の方だと自負している。
そしてこの世界で規格外とされるほどの冒険者なら貴族とほぼ同等かそれ以上の権力を持つという時点でネロとの関係を公式発表する時に高位冒険者の肩書きは役に立つと思う。
学園に入学してからもギルドが近くにあるっていうのも聞いたしいっそこの際冒険者として正式に登録することに迷いはない。
そして扉を開けて中に入るやいなやいきなりこんなことを長々を考えたわけだけどそれは目の前の状況に対する現実逃避という側面が強い。
僕が冒険者について知ってることを思い出すことで現実逃避しようとしている今の状況というのが━━━
「ガハハハハッ!ここはてめぇみたいな乳くせぇガキが来るところじゃねぇんだよォッ!さっさとお家に帰ってママの乳でも吸ってなァ!」
その声が聞こえた方へ視線を向けるとこちらに歩いてきていたこの大柄の冒険者が放った言葉から始まるお約束展開だ。
うーん、この圧倒的テンプレセリフ。まさか異世界物でのお約束の1つ、先輩冒険者からの絡みをこんな所で経験することになるとは。この街結構治安いいほうだと思ってたけど冒険者ギルドでは大抵1人はこういう人がいるのかね?
そしてそう言った大柄の冒険者は僕の方へ詰め寄ってきた。
うん、冒険者のイメージそのままな荒くれ者って感じの人だな。そして顔が真っ赤になってる。真昼間からお酒でも飲んでたのかな?まぁ酔っ払いでもなければ横にいるネロを見てそんな対応しないと思うけどさ。現に奥の受付にいる人が僕達の方を見て「あっやべ」って顔して階段を上がっていくのが見えたしね。
んー、どうしよう。こういう相手は基本的に話し合いも交渉も不可能だから脅すか物理的に黙らせるかこっちから距離を離すかくらいの選択肢がないんだよな。
「おいコラ、てめぇ無視してんじゃえねぇぞ!俺様が誰だかわかってんのかァ?帝国出身Cランク冒険者、『打剣のクード』たぁ俺様のことだ!」
ふーん、Cランクって言われてもそれがギルド内でどれくらい立ち位置かなのかが分からないから何も言えない。それにCランクとだけ言われてもパーティー組んでCランクなのかソロでCランクなのかでも違うだろうし━━━━━って酒臭ッ、酔っ払いだとは思ってたけど予想より臭いがキツい。おかげでネロが鼻と口元抑えて後ろに隠れてるんだが?
この人にはとっとと残りのテンプレゼリフを吐いて貰ってから冒険者登録して帰りたい……
そんなことを思っていると酔っ払いがまた口を開いた。
「なぁ、兄ちゃんよォ、そんなに威勢がいいならこの俺様が先輩としてちょいと手ほどきしてやんよ!もちろん授業料は貰うぜ?そこまで調子こいてんだァ、どうなっても知らねえがもちろん問題ねえよなァ?」
おぉ、手ほどき、授業料、どうなっても知らねぇと来たか。速攻でテンプレ踏んでいってるな。
「おいお前らァ!このガキに冒険者としての心構えってやつを教えてやるぞ!」
き……き……キター!最後に未成年を大勢で囲ってリンチしようとする心構えまで。まさかここまで完璧にテンプレを体験させてくれるとは。
と、ちょっとばかりハイテンションになっていたけど落ち着くためにここまでの状況を整理するとしよう。テンプレ展開が待っている。そして目の前の酔っ払いはまだ酔いから覚める気配はない。そして呼ばれたおそらくパーティーメンバーであろう3人組も似たり寄ったりで酔っ払っている。
ここまで僕はテンプレ、お約束展開が実際に体験出来たことで若干喜んでた感があるけど実際は酔っ払いのオッサン━━━って言っても30代くらいか、にいきなり難癖つけられた上延々絡まれてるだけなんだよな。しかも完全に酔っ払うほど酒を飲んだせいで近寄られるとただただ酒臭い。
こんなお約束を体験するのは1回だけで十分だ。
あとお約束と言えば盗賊とか魔物に襲われている王女様を助けてそこからなんやかんやあって仲良くなって恋人にみたいなお約束とかだけどこれは既に体験してるしね。
うん、結局何が言いたいかというとこんなこと二度と体験したくないわけさ。近いから息は酒臭いわその息と一緒に同じくらい酒臭い唾が飛んでくるわ……そういうのはもう二度とゴメンなんだよ。
だからこれから僕がすることは━━━
「とりあえず物理で黙らせる」
━━━拳を握る。
さて彼らには生贄……いや見せしめ?まぁとにかく公衆の面前でボコらせてもらおう。ここでCランクパーティーを単身ボコるのを見せればまともなCランク以下に喧嘩売られることはないだろ。冒険者ってそういう情報広まりやすそうだし。
「あぁ?お前、今なんつった?」
そう言った酔っ払いの残りパーティーメンバーも下卑た笑みを浮かべてこっちに歩いてきた。全員こっちに来たならちょうどいい、受付の人に聞いてもしあれば地下訓練所、無ければギルド前で決闘もどきをするとしよう。




