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周囲の情報を得る、勉学に励む、私自身で交友関係を切り開く。
その三つの目標を立て、もちろん趣味になりつつある自分磨きも怠らない。
あっという間に7歳になった私は日々貴族間で行われるお茶会に参加しては他の貴族の令嬢や子息たちと交流の輪を広げていた。
お父様に連れていってもらったり、時にはアキトにエスコートしてもらったりしてるのだけれど、顔見知りや知人は確かに増えた。
でもお友達というものは出来なかった。
やはりラドハルク・クレスウェル両家とその他貴族の家柄には大きな差があるらしく、ごますり媚売りなどそんなのばかり。
口を開けばおべっか。
そんな人たちに心を開けと言う方が難しい。
でも今日は私が媚を売る番なのかしら、と考えるもそもそも近付ける気もしない。
だって今日は王子達が主催するお城でのティーパーティーなのだ。
貴族の子供たちはほとんど全員呼ばれているらしい。
そんな人数の中で王子に初めの挨拶くらいはするだろうが向こうの印象に残ることなんてないだろう。
そんなことよりもお城の料理が気になる。
家のご飯だって何でもおいしく食べてるのだが、お城の料理なんて考えただけでも涎がでそうだ。
絶対においしい。
今日はアキトのエスコートで参加するのだが、肝心のアキトはまだ来ていない。
お父様が新しく買ってくださった紺のベロア生地をメインに使ったドレスは、スカート部分に使われた柔らかい白のシフォン生地が開け放たれた窓から入る風に軽く靡く。
ピンクのドレスの比率はまだまだ高いし、この年頃の他の令嬢たちは明るい色のドレスを着ていることが多いが私にはこのくらいの色が落ちつく。
鏡の前でくるりと回ってみると腰についた大きなリボンがかわいく揺れる。
ヒールの高い靴はこの身体ではまだ慣れないが、履き方や重心の置き方など前世でばっちり履修済みなので靴擦れも足の痛みもない。
そもそも前世で履いていたハイヒールよりもずっとクッション素材も作りも良い。
そして言わずもがなお値段も段違いだ。
白いハイヒールにドレスと同色の紺のリボンがあしらわれているのは子供用のものではあるが大人っぽい印象でポイントが高い。
「上機嫌だな」
急な声掛けにどきっとする。
いつの間にかに来ていたアキトが私の部屋の扉に寄りかかってこちらを見ていた。
彼はプラチナブロンドの髪を後ろに撫でつけ、シルバーのタキシードを身にまとっている。
胸元についている赤いループタイは、彼の目の色と同じでとてもよく似合っていた。
「アキト!かっこいいわ!」
素直にそう口にする、実際彼はとてもかっこいいのだ。
7歳とは思えない程に顔が良い。
すっと切りあがったきつい印象を受ける顔立ちだが、その表情は柔らかい。
これはモテる。
「待たせてすまなかった。行こうか」
すっと腕を差し出され、自然とそこに手を伸ばす。
この二年ですっかりと慣れたその行為に、それでもいつもよりおめかししているアキトの横顔はとてもかっこよくて、何だがいつもよりちょっとだけドキドキとした。
「…それ、良く似合ってる」
ぼそりと耳を真っ赤にして言った彼は頑として此方を見ないが、少年の照れ隠しのようなその行動はあまりに微笑ましくて、愛らしかった。
豪華絢爛といった言葉がぴったりと当てはまるそこは、ざわざわと6歳から19歳までの子供たちがひしめき合っている。
それでも大勢の子供がいるにも関わらずホール内は十分なスペースがあり、王城の圧倒的な広大さを感じた。
流石国の象徴。
「クロエ、いくぞ」
ぐっと繋いだ手を引かれると急な動きに足がもつれ、倒れこみそうになる。
いやそれは痛いし恥ずかしい、ぎゅっと目を瞑るがいつまで経っても痛みも衝撃も訪れない。
それどころか謎の浮遊感と温かいものに包まれている。