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はじめまして

「クロエ?お客様がいらっしゃるわよ」


モルディエネ先生のお手製らしい資料を読み直しているとお母様が私の部屋まで来た。


髪を綺麗に巻いてアップしているお母様は本当に綺麗で、その上質ながらシンプルなドレスも、お母様の整った容姿を引き立てている。


「お母様!今日はお母様とお父様のお友達がいらっしゃるのよね?」


「そうよ、とても良い方だからクロエもしっかりとご挨拶なさいね?お友達も出来るわよ」


お母様と長い廊下を歩いて玄関ホールに出るとお父様がもうそこで待っていた。


私と目が合うと優し気な目元に笑みを浮かべて、早くおいでと腕を広げる。

そこに飛び込むとお父様は嬉しそうに笑みを深めた。


丁度その時、玄関の扉が大きく開き、お客様が入ってくる。


「やあ、久しぶり。クロエ嬢は甘えたさんだね」


綺麗な黒髪にきりりとした目元のスマートな男性が、そのままお父様に話しかける。


横に立つ小さな子供は凡そ私と同じ年頃の男の子。

お父様に抱っこされたままだった私は、早く下ろすようにとお父様の袖を引っ張り地面に足をつける。


お母様が優雅にスカートをつまみお辞儀をするのに習い、私も慌ててそのまま同じようにお辞儀をする。


「お久しぶりですわね、ラドハルク様」


「は、初めまして、娘のクロエ・クレスウェルと申します!」


少し焦って口籠ってしまった。

そんな私を見て目の前のラドハルク侯爵は私に目線を合わせるようにしゃがみ、その端正な顔に笑みを浮かべる。


「初めましてだね、クロエ嬢。ご両親に似てとてもかわいらしいな。俺はレオナルド・ラドハルクだ。よろしくな。こっちは息子のアキトだ。ほら、挨拶しな」


ラドハルク侯爵は自分の後ろにいた少年にほら、と促し私の目の前に少年を誘導する。


「…アキト・ラドハルクです。よろしく」


もう一度私も名乗ってからスカートをつまんでお辞儀をする。

顔の整った人間しか出てこない世界だな、とかそんなことを呑気に考えてる間にふと、その名前を思い出す。


ラドハルク侯爵家はクレスウェル家と並ぶ大きな家だ。


そしてアキト・ラドハルク。

彼はロズクラの二大人気キャラの内の一人で、その端正でクールな容姿と人を近づけない冷たい態度が、ヒロイン相手には次第に溶けていく様子にとてもときめいたのを記憶している。


イケメンの幼少期はやはり美少年なようだ。


プラチナの髪に気の強そうな赤い瞳が印象的な彼は確かそのルートで幼馴染の少女に裏切られたことにより重度な女嫌い、引いては人間嫌いになってしまった。


そしてその原因をつくった幼馴染とは、この状況からして言わずもがなこのクロエ・クレスウェルなのだ。

つまり此処で対応を間違えれば彼は女嫌い&人間嫌いの重度な人間不信に陥ってしまう。


私の将来的にも、彼の将来的にもその未来は宜しくない。


幼少期の彼のことは知らないが、光源氏宜しく上手いこと対応していけば彼がヒロインにずっぷり依存し、それを邪魔しようとした当て馬クロエをその強力な魔力で殺すなんてことは起こらないかもしれない。


「どうかした?」


いつの間にか思考の渦の中で黙ってしまった私を怪訝そうな顔でアキトは此方を見つめる。


何を隠そう私は彼の顔がドストライクに好きだったのだ。

最推しといっても過言ではない程に。


そんな彼が目の前で息をして、動いている。

そして私の方を見つめている。

そんな状況に思わずにやけてしまいそうになる表情筋をぐっとこらえて笑顔を作る。


「失礼いたしました。宜しければ温室でお茶でもしませんか?ご案内いたします」


お見合いか、と突っ込みを入れたくなるような後は若いお二人で、といって移動していった両親とラドハルク侯爵。


アキトと何をしよう、と考えて子供の遊びとは?と悩むことになる。

この世界の子供たちは何をしているんだろう。


鬼ごっこやかくれんぼ、おままごととかそんなことをするんだろうか。

どれにしたって走り回れば淑女としてはしたないと言われそうだし、おままごとに関してはどうしたってやっている内に羞恥が勝ちそうでたまらない。


そうなったらお茶会しか思いつかった為、恐る恐る誘ってみたが、彼は普通にこくりと頷いたので少しほっとした。

近くにいた使用人にお茶とお菓子を用意して、と伝えてからアキトを温室へと案内する。


貴族の家にはだいたいある温室は、その家がどれだけ裕福かを象徴するためにある。


多くの花の維持にはそれこそ手間や金がかかる。

それ故にこの世界では温室が豪華絢爛なほどその家は生活に余裕がある、という主張になる。


中には見得を張り温室を広く豪華に作り邸宅は質素な作り、なんてこともあるそうだ。

しかし処は名家クレスウェル。邸宅も温室も豪華すぎると言う程に豪華だ。


アキトと花のアーチをくぐり、これまた豪華なガーデンテーブルへと腰をかける。


するとすぐに後ろについて来ていたメイド服の女性がテーブルの上へとティーセットとおいしそうなケーキやマドレーヌなどの焼き菓子を置く。


焼き菓子たちはふんわりとバターの良い香りを漂わせ、私の空腹を刺激する。

此処の料理人が作るお菓子はおいしいのだ。


それを舌で覚えてしまっている私にとって、目の前のご馳走を早く食べたい気持ちでいっぱいになるが目の前のお客様を放ってむしゃむしゃと頬張るわけにはいかない。


「アキト様もどうぞ、このマドレーヌ、とってもおいしいんですよ」


にこりと笑って進めるとアキトはマドレーヌを一つ手にし、そのまま口に放り込む。

もぐもぐと咀嚼する様もかわいらしい。


「人が菓子食ってんの見て、なんで嬉しそうにしてんの?」


思わずにこにこしてしまっていると、アキトはマドレーヌから目をあげ、こちらを見ている。


推しがかわいくお菓子食べている姿があまりにもかわいくて!なんて言えるわけもなくて。


「マドレーヌがおいしいのが幸せで」


そんな苦しい言い訳をしてしまう。

食いしん坊か、と自分でも突っ込みたくなる咄嗟の言葉だったが、アキトはそれにクスクスと笑っている。


それは嫌味などといったものではなく純粋に予想外で面白かった、というもので、やはりその姿もかわいらしく私もつられて笑ってしまう。


出会いは好調なのではないだろうか。


「アキト様はどのお菓子がお好きですか?」


「…アキトでいい。これ、好き」


これ、といって指さしたのはサクサクの生地に包まれたチョコレートパイ。


層になった生地は脆く崩れやすい。

アキトの形の良い薄い唇にパイ生地の食べかすが付着しているのを見て、ああ本当にかわいいなぁと微笑ましい気持ちになり、手を伸ばす。


「それでは私のことはクロエと、そうお呼びください」


あんなにゲーム内ではつんつんとした態度をしていた彼も、今はまだ子供なのだ。

唇についたパイの生地を持っていたハンカチで拭う。

彼はかっと顔を赤くして、ありがと、とごにょごにょと言った。


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