表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

「彼女」のことを知る


この世界で生きていくためには、まず知らなければならないことがある。


それは「彼女」について。つまり私、クロエ・クレスウェルについてだ。


クロエの家族構成やクレスウェル家について、魔術や歴史を学ぶよりもまずはこの身体について、今まで生きてきたクロエとして違和感を持たれてはいけない。


幸いなことにある程度の肉親や従者達の顔や名前は元々のクロエがもっていた知識を引き継いでいるのでその情報を間違えたことは今までなかった。


なので周りのことよりもまず、私は私について知らなければならない。


名前はクロエ・クレスウェル。

年は5歳。学園では攻略対象キャラの一人であるアキト・ラドハルクの幼馴染であり、王子であるレイス・アシャ・ランクルスを追いかけていた。


ゲーム内で感じた印象は「女狐」といったようなものだった。

優しいエメラルドの瞳に柔らかな笑みを浮かべ、その形の整った綺麗な唇から息を吐くように嘘をつく。


彼女の優しい顔に騙され、利用され、周りの人間たちは道具のように扱われる。

それでも言葉巧みに人を欺き扱い、ヒロインへの妨害行為や王子や幼馴染に近づく余計な虫を排除して回った。


クレスウェル家は王家に次ぐ権力を持っている。

王家の下にはクレスウェル家とラドハルク家が並び、その下にその他貴族、と並ぶように圧倒的な財力や権力を持っている。


彼女は狡猾で欲深く、より秀でた物を常に求めていた。


レイス王子を狙っていたのも王族という権力を欲した為である。

自分よりも劣った物は限りなく見下していた。

故に庶民の出であるヒロインを虫のように嫌っていた。


確かに、と鏡を見る。

この顔は誰からどう見ても美少女だと思う。

お人形のように整った顔は無表情でいれば恐ろしさすら感じる。


長いまつ毛もブロンドの艶やかな髪も今までの私では考えられない。

にこりと笑ってみればそれは見惚れるようなものだった。


あくびをする顔だってかわいらしい。


自分の表情なのに、何処か客観的に見ている私は思わずこの容姿をほめたたえたくなる。


ナルシストのように思うが実際私が生まれてから慣れ親しんだ顔ではないのだから仕方がない。

これは父親似の優しい顔なのだ。

母は少し釣り目気味のセクシーな方だった。


ゲームでは一切出てこなかったクロエの両親はどちらも美形という言葉がぴったりと似合う人たちで、流石恋愛シミュレーションゲームの世界に関与する人間だと、変に納得してしまった。


兄弟はなく、クレスウェル侯爵家の一人娘である彼女は優しい両親から甘やかされて育っている。


食事も嫌いなものはすべて残し、少しでも気に障った使用人はすぐに解雇といい出す。

父親がクロエを盲目的に愛しているため何でも言うことを聞く。


それが、此処一週間でわかったことだった。

母親は叱る時もあるが、愛する旦那にそっくりな娘にはやはり甘く、結果として我儘娘が出来上がった。


試しに私の為に雇ってほしい人がいるの、とオネダリしてみれば、父親はあっさりと了承し、手配してくれた。


その思い切りの良さに不安を覚えつつも、あまり無理強いはしないでくださいね、と付け足すことも忘れなかった。


そんな細かいことまでじっくり観察してみたのは、実際のゲーム内ではクロエ・クレスウェルの素性といったものは一切描かれていなかったのだ。


王子の追っかけで圧倒的権力のある家の生まれで、アキト・ラドハルクの幼馴染として出てきて、平民の出であるヒロインを気に食わないから苛め倒す、という比較的中身がないキャラクターなのだ。


スペックでいうとヒロインより劣っている、という情報のみで学園に入学してからの成績や能力についてほぼ何も描かれていない。

つまり政策陣にもそう愛されていない悪役中の悪役なのだ。


そのエンディングは9割死、というなんとも悲しい運命。

それも身から出た錆だとゲームプレイ中は死の運命に対してなんとも思っていなかったが、私がそのクロエ・クレスウェルとなった今はまた話が違う。

死ぬなんて絶対に嫌だ。


しかし素性が分からない故にどのタイミングで彼女が破滅へのルートを解除してしまうか分からないのだ。


ある程度分かっているならそのイベントを消化しないよう動けばいいし、回避する手は複数ある。

分からないからこそ、出会いすべてに警戒しなければならない。


そしてゲームについても覚えてる限りを書き出す。

ヒロインが14歳になり学園に入学してからの1年間。


庶民の出ということもあり周りのクロエ・クレスウェルともう一人の悪役令嬢を筆頭にした貴族様方に嫌味や嫌がらせをされ傷心する。


しかし学校側は権力には逆らえず見てみぬふり。

友達も出来ないまま、庶民だった彼女は魔力の才能だけは秀でているものの、貴族の子供のように幼い頃から基礎知識を積んできた訳ではないので授業についていけなくなってしまう。


そんな中で学園側がとった対処が学園で決められている四大属性それぞれの成績上位者の誰かに彼女の面倒を見てもらうというものだった。


幸いなことに彼女が持つ精霊の属性は4つ。

四大属性すべてを保持しているのだから学園側も家柄を考えずに「四大属性のトップの誰かに」という選択が取れたのだ。


そうでもなければ国にとって大きな力を持つヒロインの力を何処かの家に庇護下においてしまうことになる。


中立を謳っている学園としてはそれだけは避けたいことなのだ。

例えその四大属性のトップが王族や王族に次ぐ権力を持った名門貴族だったとしても。


思い出したゲームのシナリオナレーションに自分の考察を重ねてノートに記していく。


そこでふと思い出したのが友人曰く「全員が不幸にならない大円団エンディング」の存在だ。


必須の条件として5人の攻略対象キャラを全て落としパラメーター育成の面でもどの成績においても上位をとり続けなければならない。


成績面だけでいえば、それが例えば自分のことであったならば努力を怠らなければ実現できるかもしれない。


けれどこの世界の私はヒロインじゃない。

ならば男を全員落とす為、さらに成績で上位をとれるようヒロインを影からアシストしていけばいいのでは?


しかしそれはあまりにも非現実的すぎる考えである。

そしてあまりにも面倒くさい。

何が悲しくて自分が生きるために他の女がちやほやされるのをアシストしなければならないのか。


それならおとなしくフラグを立てないように、なるべく目立たないように生きよう。

そう心に誓った私が、この容姿と家柄からそんなことは不可能だと思い知るのはそう遠くない未来だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ