加護領域と三大災厄④
町の遺体処理も終わり、出航の日となった。天気も晴天で出航に問題ない。レーシュとエステルは町で一番見晴らしのよい教会へ行き、屋根裏に乗り出す。
「よし、いってこい!」
レーシュは鳥かごに入っている伝書鳩を三羽飛ばす。帰巣本能を利用して一旦海賊のアジトに連絡が行き、サリチルに渡ってそのまま王子の元に届けてもらう手筈だ。
「無事に着きますように」
エステルの無事も書いており、フェニルに連絡がいくようにした。宿舎の管理人にお願いしているとはいえ数日会えないとなると、まだ年端もいかないフェニルは不安でいるかもしれない。
伝書鳩を飛ばし終わると、二人は港へ向かう。ウィリアムのガリオン船乗り込み、出航する。
船が動き始め、少しずつ町が小さくなっていき、エステルは船の甲板から海を眺める。
「もう町があんな小さく、これが本物の海の上」
「なんだ田舎娘は初めてだったのか、なら船酔いに気をつけろ。船で酔うと死んだほうがマシだと思えるくらいキツイからな。まあそんなものになるのは軟弱者だけだがな」
ウィリアム戦では海での戦いだったが、海にして海にあらず、湖で泳いだことはあるがやはり臭いや光景は全く違う。少しばかりウキウキしている。フェニルにいい土産話ができると。
「はいはい、やっぱり貴族様だと慣れていらっしゃるですね。ところであそこのシートで干してあるものはなんですか?」
エステルが指差したほうにはシートを覆い尽くすほどの草木が置いてある。そのほかにも試験管が大量にテーブルに置かれて、中の液体が泡立っている。
「あれは俺の魔法の触媒を作っているんだ。もう持っているものは全部使い切ったからな。特に太陽の光が必要だったり、日光で反応したりするものはああやって置いてる。何故これが必要かってのはだなーー」
レーシュは饒舌に語る始める。自分の得意分野に関しては語りたくてしょうがないのだ。途中まで頑張って聞いていたエステルだったが、すぐに内容に追いつけなくなったため、死んだ目でその話を最後まで聞く
「ーーということだ。魔法は奥が深いだろ」
「へーそうなんですね、すごいすごい」
満足気なレーシュと対照にエステルはもう理論を聞くのはやめようと心に決めた。ウィリアムが赤いドレス姿のマリータを連れてレーシュたちのもとまで来た。マリータが近づくたびにレーシュの目はドレスから伸びる足に目がいき、次第に豊満な胸へと釘付けとなる。
「お初にお目にかかります。各国の武器や道具、魔道具まで販売しているマリータと申します。噂はかねがね聞いております、レーシュ様」
「こちらこそ初めましてマドモアゼル。貴方のような綺麗な女性にお会いでき何という僥倖。まるで今日の晴天は我々の出会いを祝福しているようではありませんか。よろしければ今から二人で恋という大海原へ旅立ちませんか!」
マリータは妖艶な指使いでレーシュの顎を触り、少しづつレーシュの胸に持っていく。そのこそばゆいタッチにレーシュの頬が熱くなる。エステルは恥ずかしさから手を覆い、少しばかり隙間を開けて見る。
「ふふふ、可愛いわね。でも今はダメ。もっと大物になったら私で夢中にさせてあげるわね」
頬にキスをする。それは魔性。その大人の魅力に年下のレーシュは一発で落とされた。目からハートが飛び出んばかりに、はあ、はあと荒い息を吐く。それを汚物でも見るような目でエステルはレーシュを見る。
「あー、坊ちゃん、いいですかね。……だめだ全くきこえてねえ、おいおいマリータさんよ、あんまり坊ちゃんを誘惑してくんな。嬢ちゃんが可哀相になるだろう」
「ちょっとやめてくれませんか、私はこれぽっちもこんな男に魅力なんて感じませんので。次は切り捨てますよ」
「す、すまねえ、てっきりそうかなって思っただけで勘違いだったぜ」
エステルのマジトーンにウィリアムの肝が冷える。急いで謝罪する。マリータも十分楽しみレーシュから指を退ける。
「さて本題に入りましょう。私たちマリータ商会はレーシュ様のスポンサーにならせてくれませんか?」