vs魔王⑥
一陣の風が吹く。遅れて衝撃波となってレーシュを取り囲む魔物を吹き飛ばす。
レーシュ一人では決して倒せない魔物たちを何百と吹き飛ばすそれはレーシュですら目を疑う。
その魔物たちがいなくなったことでその風を起こした張本人が視界に入る。それは人間で、剣を上段で振り切っており、優雅に腰を上げ、レーシュを見る。
「ご無事で何よりです、レーシュ様」
「い、田舎娘……」
エステルがどうやってここまで来たのか、その力は何なのかなど思うことはあるが、逃げ切れるかもしれない安心感で満たされる。
「他にも人間がいたか!」
「おいしそうだ!」
「コロス……コロス」
「逃げろ、田舎娘!」
魔物数十匹が一斉に襲う。どれも屈強な肉弾戦を得意としそうな魔物たち。どれも雑魚とは違う。魔物を倒す冒険者を除けば、一小隊で一体倒せるかといれるような魔物たち。
「舐められたものね」
エステルの目が光ったのか感じるほどの殺意の波動。一瞬にして全員を斬り伏せ、返り血すら浴びない。
「私に挑むなら心してかかってきなさい」
エステルのオーラに全ての魔物たちが動きを止める。本能が呼び止めているのだ。
今の隙にレーシュはエステルのもとへ行く。
「お前は一体何者なんだ、いや、それよりも逃げるぞ。ここにはまだ化け物がいる。あの王城だ。おそらくサタナキアもあそこにいる。何か足はあるか?」
エステルは後ろを振り返ると白馬の見るからに上等な馬がこちらを見ている
「あの馬が乗れと言っています。行きましょう」
二人は白馬のもとへ走る。魔物たちも我に帰り、レーシュたちを追いかける。白馬に二人で乗り、手綱はエステルが握ると白馬は嘶き、出口へと駆けて行く。
すぐに加速して城下町を走り抜けて行く。
「なんて速さだ、普通の馬じゃないな」
「この子はどうやら、国馬みたいです」
「国と共に歩む神の化身か。噂通り風のような速さで走る馬だな。……そういえばどこに向かうのだ?」
「先ほどの城下町で見つけた地図によるとここから南に行くと町があるみたいでダメもとで行こうかと思います。もしかしたら食料等あるかもしれません」
エステルから受け取った地図を眺め、苦い顔をする。
「おい、田舎娘。町は西だ。そして今進んでる方向は北だ。よくここまで追えたものだ」
レーシュは道に関してはあてにするのはやめようと心に決め、国馬は走り続ける。
ーーーー
南側の大陸側から北側の大陸の西側の海を渡る一隻のガレオン船がある。
魔王が出現してからは海はさらに危険が増し、魔物も出現するようになった。だがこの者たちには関係ない。
船首から腕を組んで、海の機嫌を聞く男、名をウィリアムという。荒くれ者のような男は、腕にはかなりの筋肉を付け、頭には装飾を付けた三角帽子を被っている。その帽子の中央にはドクロのマークが付いている。
「どうだい、船長さん? そろそろ西の海域でしょ?」
ウィリアムが振り返ると、キセルを加えた女性がいた。顔は可愛いというより綺麗であり、肌の露出が多い服装である。だがそれでいて、上品さがある。彼女はウィリアムと協力関係にある、商人のマリータ。本来商人が海賊と手を組んでいるとバレればすぐに絞首台で処刑される。だがそんなリスクがあろうとも彼女はこの海賊にメリットを感じている。
「ああ、どういうわけか今日は静かだな。いつもならここ一帯にも魔物が沢山いるはずだが、全然姿を見せねえ。何かあったのかもしれんな」
「なら今回の航海は中止かい?」
「いいや、俺たち海賊に逃げるなんて言葉は役人に対してだけだ。それに宝の山があるかもしれないのに向かわねえなんてことができるか」
今回は長い間準備した遠征である。危険はいつでも承知。
「さて野郎どもに言っておくか、立ち寄る村では人間でも容赦するなと。これからは完全な敵地だ。人間に化ける奴もいるらしいからな」
海賊、ウィリアム。彼は伝説の海賊。通り名は海の暴君。