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魔王の手下〜〜裏切りの貴族〜〜  作者: まさかの
第1章 レーシュ フォン モルドレッド
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vs魔王⑤

 薄暗い部屋の中でレーシュは必死に呼吸を抑えつけしゃがみ込む。

 鼓動が早く波打つがそれを気にしてなどいられない。

 体は呼吸を求めているが、それを無視する。

 耳を澄まし音に注意を向ける。

 現状の把握に未だ思考が追いつかない。



 時間が経ち何も聞こえないことでやっと口から手をどける。

 急いで酸素を取り込み、過呼吸のように荒い呼吸をする。

 酸素が喉を通り、少しずつ息が整い始めやっと脳にも酸素が行き渡る。

 ようやく周りの景色が目に入る。

 怯えた表情で周りを見渡す。

 部屋の内装はピンク一色でぬいぐるみなどが部屋にはあった。

 本来それは可愛らしいもので、安心感を与えるものであるが、逆に恐怖心が増大した。

 なぜなら家具類が粉々になって部屋に撒き散らされており、ぬいぐるみは踏まれて泥まみている。

 可愛らしい部屋には相応しくない。



 もう少し情報を集めようと部屋の中を物色しようと腰を上げかけた時、コツン、コツン、と床を響かせる。

 それはこちらに近づく死神の音楽。

 レーシュにはそう聴こえた。

 怯えの声を上げかけ、すぐに手で口を塞ぐ。

 心の中で神に祈る。

 ここには来ないでくれと。

 一歩、一歩、と足音が近づいてくる。

 時間が無限にも感じられる。

 喉元に刃があるかのように身じろぎすらできない。

 とうとうその足音は部屋の前まできて止まる。



 心臓がビクンっと跳ね上がる。

 身体中から体液が溢れ始め、目からも零れた。嗚咽をどうにか抑える。

 大の大人がみっともなく泣いている。

 扉の前に来ている何者かはノックをしようと手を前に出し、そこで止まる。

 扉越しから伝わる威圧感。ただ怯えることしかできない。

 数秒の静寂の後にその手は降ろされ、また歩き始めた。



 死神の音色は消え、また静寂が場を支配する。安全になったと理解して言葉がひとりでに出てくる。



「なんなんだ、なんなんだここはっ!! おかしいだろ、なんでバケモノが、バケモノたちがこんなにっ」



 頭を抱え腰から先は床に擦り付けるように倒れる。身体中が小刻みに震え、悪寒が体を包む。少しずつ我に還りはじめどうにか精神が正常になる。

 震える体を叱咤し、壁に手をついてゆっくり立ち上がろうとする。

 しかし、上手く足に力が入らない。

 腰が抜ける、他人の話を聞くときには笑ってしまっていたが、自分がそれを経験してしまうとこれほど辛いものはないと知る。



 やっとのことで立ち上がり、部屋の探索など忘れて外へ関心が移る。

 いや、移ったのではなく、また別の者が来てしまうかもしれないという恐怖心から外にしか目がいかなくなったのだ。


 音を立てないように、ゆっくりと右開きのドアを前に押して開ける。

 顔を半分だけ出して、外を見る。長い廊下がロウソクのような炎で等間隔で煌めかせている。一見ロウソクに思われるが違うものだ。

 様々な材料で作り出された魔法の照明で、照度、持続性ともにロウソクを上回る。

 それによってはっきりと長い廊下が見える。人影が見えないため、次は反対側にもいないかと体を半分外に出す。

 同じ光景が見えるだけだった。



「い、いないな。 こっちはやばいのが……次はあっちへ」



 最初左に廊下を進んだ時に異形の存在をその目で見てしまった。

 先ほどの恐怖はそれを見てしまったため。

 まだ行ってないのは右の廊下。喉を鳴らし、足を恐る恐る踏み出し、壁に手を当て進む。

 恐怖心から何かにしがみついていないと進めないのだ。




 廊下を進むとバルコニーが途中にある。

 窓は開いており、半身で確認する。

 物陰はなく、敵がいないことに安堵した。

 逃げ道の一つを確認して、さらに奥へ廊下を進む。

 突き当たりが周り角になっていた。

 慎重にその角から顔を覗かせた。

 心から出る叫びが悲鳴となって零れかける。



 4mの巨体と強靭な筋肉、頭から角が二本生え、背中には翼、腕は凶悪な鋭利のナイフのような形をしており、さらにその異質さを出す下半身は獅子のようであった。

 憤怒の表情を浮かべ辺りを巡回している。



 自分の知っている魔物ではない。

 そのことが余計に恐怖心を煽る。

 つまりこれまで国土を侵略しようとする魔物の使い捨てなとではない。

 遠くにいるにも関わらず感じるプレッシャーは人間が挑んでもいいものではない。



 急いで来た道を引き返し、元いた部屋に戻る。

 呼吸を急いで落ち着かせようとする。

 へたり込んだ。

 大の大人がみっともない、第三者がいればそう思うだろう。

 雫が頬を伝わり、床の絨毯に染み込んでいく。これまでは天才や鬼才と持て囃され、挫折や敗北とは無関係だった。

 彼は生まれながらの成功者、初めて命が危ぶまれる場面に立たされ、それを乗り越える者はどれほどいるだろうか。



「どうしてこうなった。確か……そうだ、そう魔王を倒した……はずだ。なら俺はなんでこんなところにいる?」



 スイッチを押すと光るなんて、これまでの実験では一度も起きてはいなかった。



「あの光で別の場所に飛ばされた? そういえば火傷も治っている。どうなっている?」



 サタナキアに焼かれた火傷の跡は全くない。しかしその服の焦げた跡からそれは夢でないことは明白だ。

 しかし、起きたことを整理していくと次第に気持ちが落ち着く。

 お腹が鳴った。

 やっと体も恐怖以外を感じるようになったのだ。


「お腹減ってきたな。どうにかして逃げ出さないとな」



 だんだんと頭が冴えてきて、とりあえず今いる部屋を探索することにした。



「天蓋付きのベットに高級な素材を使っている絨毯、シャンデリア。王族の部屋とかか?」



 机があり、その引き出しを開けると、見覚えのある紋章を見つける。



「これはどこかで……、六芒星に緑の背景、まさかエグザ王国か?」



 魔王が誕生するまで、交流のあった北の国。だが大陸の北側は全て魔王軍に支配下にあり、ここも既に外交はない。



「敵の領土……、兵力もなく、馬もないこの状況でどうやって逃げればいい?」



 考え着いた答えに身を震わせる。自分の力量は自分が一番わかる。このままここにいればすぐに殺される。また体に震えが起きる。すぐに顔を叩いて痛みで震えを消す。



「しっかりしろ! 俺はレーシュ・フォン・モルドレッドこの程度の危機なら何度も切り抜けてきた」



 すぐに行動を開始、再び廊下に出る。足音に耳を澄ませ、今いる寝室から右の方にバルコニーがあり、すぐにそちらへ向かう。



 ほとんど魔物たちはいなく、無事に着いた。だが敵地であるため警戒だけはする。



 手で魔法陣を描き、軽い風を起こしてゆっくり一階に降りる。だがこの時、嫌な予感、殺意を感じた。


 笛のような甲高い音が聞こえ、城内が騒がしくなる。



 レーシュは急いでその場を離れる。そのまま近くの木々に姿を一旦隠す。



 先ほどいたバルコニーやその一階にぞろぞろと魔物が集まってくる。トカゲが人になったような魔物や目玉が一つだけの巨人、そして先ほど見た鋭利なナイフ腕を持つ悪魔が数体ずつ。



「ここらで魔法を使った気配を感じた」



「おそらくは人間。生き残りか、偵察だろ」



「弱い魔法か?魔力の残り香がもうほとんど残ってないな。サタナキア様のご安全のため、一度部屋の警護に戻る。昨日出てきた勇者が追ってきているのかもしれん。ここ一帯を全員で探せ」



 集まった魔物たちはバラバラに動き始めた。



「あいつら魔法の痕跡がわかるのか。下手に使えないな」



 魔法の気配などこれまで読んだ書籍には書かれていない。今後は使い所を考えないといけないと心を引き締める。



「人間発見、人間発見、木の裏に人間潜伏」



 弾かれるように動く。空からの声から敵は頭上にいると瞬時に気づき、全力で逃げる。



 顔を上へ向けると何体もの全長1mはあるだろう人面鳥がこちらをずっと睨んでいる。


 速く飛べないみたいだが、それでもレーシュが巻くことができないスピードである。



 王城の入り口には剣を持った全身を鎧で包むプレートアーマー三体から殺意が漏れる。



 レーシュ目掛けて走り剣を振るう。自分のポケットから油の試験管を出し、それを自分の足元に投げると同時に魔法を発動させる。



 それにより、威力を抑えた爆発で自分を浮かせ、続けて風の魔法でそのまま魔物の群れを避ける。



「今ので最期の触媒。くそっ! どこか逃げれるところはないのか」



 たくさんの民家はあるが己の感から危険と告げる。人間の気配がない。



 次第に四方八方から魔物が現れ、逃げ場がなくなった。数は数百を超える。



「もうこれまでか」



 レーシュはもう逃げるのを諦めた。自分の加護、戦略光芒すら匙を投げた。



 自分の腰に刺さっている短剣を首に当て、今生の別れをする。





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