霧の向こうの虚ろ
怪しげな霧が視界を塞いだ。驚いたまま動けずにいると、何か嫌な気配を感じた。底知れぬ闇のように、おぞましい何かの気配を。
「あなたは誰?」
自分の声ではない。別の誰かの声。
どこだ。どこにいる?
「ヴァージン、この霧ではあちらから見えないでしょう」
別の声。
「おっと、そうだね」
「お待ちくださいね、今霧をはらいますから…」
誰かがそう言うと、その通りに霧が晴れていく。
目の前にいたのは、二人の…妖精?
「失礼致しました…突然のご無礼、どうかお許し下さいまし」
そう言いながら頭を下げたのは、緑の、絵本でよく見るような妖精の羽を持った少女。
「ごめんなさいねー」
真似をするように、青い羽の少女も頭を下げた。
辺りを見回してみる。真っ暗だった。いや、真っ暗というようなものでは無い、闇だ。上下左右全てを闇が覆い尽くしている。
異様な気配は消えていた。
「あの、ここは…」
「ああ、突然飛ばされてきたからわかんないよね」
「ここは…どこでもない場所ですわ」
「どこでもない場所?」
「ええ。ここを埋め尽くすのは虚無のみ─虚無が在る─そんな場所」
何を言っているのか、その言葉だけは理解出来ている。
しかし内容に頭はついていけていない。
「理解しようとしなくても良いのですよ。さほど重要でもありませんし」
「それよりそれより、あなたはどの世界からやってきたの?」
「世界?」
どの世界、と言われても、どのように表わせというのだろうか。そもそもここは、先程まていたところとは別の世界なのか。
「ええと、世界は…例えるならば細胞のようなものです。同じような世界が複製されることもあれば、分裂することもある。自滅することもある。…そしてここは、その隙間、とでも言いましょうか」
「はあ…」
「あなたはきっと現族だよね。うーん、どこから来たかわかれば帰してあげられるかもしれないんだけど…」
「…現族、あなたがもといた世界で暮らす者のことです。その理解で十分でしょう」
情報があまりにも多すぎて、追いつかない。ただ、別の場所に飛ばされたのだなあということだけはわかった。
その様子を察してか、緑の妖精は青い妖精に小声で何かを囁いた。
「仕方ないか…ねえ、それじゃあ、あなたの世界のことを聞かせて?」
「私の世界のこと?」
「ええ。些細なことでも構いませんわ」
世界。まず、人間がいて…。至って普通の世界だが…。国があって、魔術を使う人間がいて、妖精なんかも存在して、あとは…。
「私たち…」
元素が暮らしている。
そこまで話すと、二人は顔を見合わせた。
「あなたの世界が特定出来ました」
「これで、案内できるね!」
「ほ、本当…ですか?」
「うん!あなたの世界は、『明るくて真っ暗』なセカイ!」




