身の程の定め方
赤い光が尾を引く。傘の纏う光だ。
番傘を開き、相手に向ける。光は番傘の先端に集まっていき、そして一筋の光線となって真っ直ぐに放たれる。
光の線は細くなっていき、やがてふっと消える。
狼のような獣は、四肢を投げ出すように吹っ飛ばされた。
「…身の程を弁えなんし」
獣に対して発した言葉。そのはずだが、半ば自分への戒めでもあるような気がした。
かつて小さな鳥籠で鳴いていた鳥が、そこを抜け出してきてしまった。薄汚い籠の鳥が、美しく明るい世界へ。
それは、自分の願いからであった。
しかし、自分がそのようなことを願ってしまって本当によかったのか。そのせいで、Elementsの仲間たちに迷惑をかけてしまわないだろうか。奴らはここまで追ってくるかもしれない。上手く国境警備を通り抜け、優しく輝く港町へと。
考えればキリのない事だが、だからといって考えずにはいられない。気にする事はない、そんな言葉だけで解決できるならばこれほど思い詰めたりはしない。
「身の程、か」
それは、ミホの声ではない。
「そうだねぇ、逸脱するには勇気がいるものだ」
琥珀色の髪、黒く古めかしい服。
「主は…フララ」
「いかにも、その通り」
アルシャフネリーは、今はコスモスが多く咲いている。
ピアノの曲が穏やかに流れるとあるカフェに、2人は立ち寄っていた。
「…考えたことは無いかい?鶏が先か、卵が先かって」
パフェのカスタードをスプーンで掬いながら、フララは突然そう切り出した。
「…卵を見たこと自体、なきんした」
「そう…美味しいねこれ。…私はさ、別に遺伝子学とか因果関係とか、そういう話をしたいんじゃないんだ」
ミホは、話を聞きながら、初めて食べるパフェという食べ物を美味しそうに口に含んでいる。
「卵であるときから、鶏にしかなれないと決まってしまっているのかね…って」
「んぐ…ほう?」
「確かに私たちは元素以外の何モノでもない。けれど、それぞれがどんな想いを抱き、どう生きるかってのは自由じゃないか」
つまり、と、空になった器にスプーンを置きながら、フララは続ける。
「身の程を決めるのは自分ってことさ。ま、それに勇気が要るんだけどねぇ」
クスクスと笑うフララに、ミホは呆気に取られる。随分回りくどく話したなあと思うが、これはフララなりの気遣いと受け取ってもいいのだろう。
そう、受け取り方も自分の好きなように…。
「ふふっ…。簡単だけど、勇気が要ること…時には目を背けたくなりなんす」
「でも、誰に決定権があるのかだけは忘れちゃいけない」
「その通りなんす…」
どうせ死ぬこともないのだ。人間ではないのだから。
一種の諦めが、あらゆる元素たちの寛容さを生んでいる。
諦めは思考からの逃避と、一概には言えない。それも1つの考え方なのかもしれないから。
「…自分が一番楽な考え方をするのが良い」
「そうさ。それで問題があれば、変えればいいだけの事。時と場合に応じてね」
紙ナプキンをサッと引き抜き、口元を拭く。口の中には、ひんやりとした感覚が残っている。
「…仕事終わりに付き合ってもらって悪かったね」
「気にしなんし…あちきも、奢ってもらいんしたから」
それでおあいこだ。その言葉の代わりに、にっこりと笑って見せた。




