ロマンチックだねぇ…
ロマンチックなのよぉ…
ヴィヴィチ山。エルスメノス王国中央部の山岳地帯に属している。
ミデレーリアや果実の森に近く、今はなだらかで自然豊かな山である。
「うーん、こんなになだらかなら、リチェを連れてきてもよかったかも」
ベレーは、整備された道を歩いていた。昔来たことがあったのだが、これほど歩きやすくはなかった記憶があった。
ヴィヴィチ山には、名前のない小さな集落がぽつりぽつりとあるるしい。なので、周囲の町や森に続く道が整えられたのだろう。リチェが居たとしても、そこまで危なくもなさそうだった。
「あの、そこの方!」
突然、後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこにはおさげの女の子がいた。
「あの…えっと、迷子になってしまって…果実の森に行きたいのですが」
ふむ、果実の森。確かに、ヴィヴィチ山のどこかの道が通じていたような。何となく、感覚で覚えている。
ちょうど今の時期には色鮮やかな実もなっているだろう。…絵になりそうだ。
「案内しましょうか?私もちょっとそこに用事があるところなので」
人助けのついで。何と素敵なついでだろうか。
「へえ、あなた魔術師なのね」
「は、はい!まだ修行の旅をしていますけど…」
少女の服装を見てみる。お星様のアピールが強い。特に、大きな星型の髪留め二つが。
「天体の魔術が得意?」
「ふえ!?よ、よく分かりましたね!」
スィエルでも予想ができそうだ。
スィエルの方がわかりやすい姿をしているけれど。
ほとんど水を纏っているようなものだし…。
「綺麗だよねー、お星様」
そう言うと、少女は見るからに嬉しそうに目を輝かせる。
「ですよね!幼い頃からずっと大好きだったんです!」
「ふふ、星たちは夜空に色んなものを描く。それを私たちは読み取って、星座とした。ロマンチックだわあ…」
「星の声…、星たちは、いつも私たちに語りかけている。何だかそんな気がするんですよね」
少女は頭の中でいつか見た星空を思い浮かべているのだろう、うっとりとした表情でそう言った。
「へえ、なるほどね。…あなたはきっと、いい天体魔術師になれるよ」
「…そうですか?」
「星たちはきっと応えてくれる。あなたの想いはきっと届くよ」
だって、星を浮かべるあなたの表情が、とても幸せそうだったから。
心の底から大好きなのだろう。きっと、星たちはそれを裏切らない。
「届く、想いが。あの星たちに…」
「そ。想いは距離さえ超えてってやつ」
「ロマンチックですねぇ…」
「ところで、果実の森にどんなご用事?」
「あー、えっと、私はルナノーリズに行きたいのですが、果実の森からフルチェリカに寄って、そこから列車で行こうかなーと」
月光の村ルナノーリズ。月の加護を受けているという、小さな村だ。
「へえ、ルナノーリズね。あそこ近くはもう神秘的で…」
ベレーも、一度だが訪れたことがあった。
ルナノーリズとその付近には、それこそファンタジーに出てきそうな生物が多くいる。
青白い光を放つ蛍、大きな猫、輝く尾羽根を持つ鳥。絵本の中で見た景色が、そこにはある。
「ええ。ですから、一度行ってみたくて!」
「それがいいよ、絶対損しないから…あ、ほら、果実の森が見えてきた」
曲がり道を歩いていくと、赤、黄色、鮮やかな実をつけた木々が近くに見えてきた。
「わあ…すみません、ありがとうございました!」
「いいえいいえ」
果実の森に辿り着くと、少女と別れる。お気をつけて、と言うと、丁寧にぺこりとお辞儀をして去っていく。
「…さーて、予想外のお絵描きだけど…うんうん、やっぱり期待通りの景色!」
どこか座れそうな場所を探し、画材を広げる。
まっさらな画用紙に、世界の一部を描いていく。
ああ、何と楽しい作業であろうか。
ロマンチックなんすぅ…




