真実は何時だって先を行く
非力な人間には、真実の後を追うことしか出来ないのです。
「…何かしら、この風」
前方から、風が吹いてくる。
この先は外と繋がっているのだろうか。
進んでいくと、やがて不思議なものが見えた。
「何、これ…」
巨大な穴。上を覗き込むと、他にもここに続く通路があるのか、側面に四角形の穴が見える。
下を覗き込むと、とても深くて底が見えない。
空気中の酸素原子の流れは、上方から風が吹いてきているということを示している。
ふと、オウカはなにかの気配を感じ、下を見下ろす。
暗闇に青い点が浮かび、それがどんどん大きくなっていく。
「っ!」
反射的に体を引くと、目の前を青白い光が通り過ぎた。
「素早い素早い」
呆然としていると、声が聞こえた。上からだ。
「…あなたは」
オウカは穴に飛び込むと、浮遊する。
「…へえ、あなた飛べるのね」
黒いポニーテール、青い瞳、金属で出来ていそうなワンピースらしき服に、青く光るラインの入った太ももまであるブーツ。
身に纏う雰囲気は、ただならぬものだった。
空中に座る様にして浮かびながら、少女はにやりと笑う。
「で、あなたは誰なの?人んちに勝手に入ってきて…、あのロックは気配も消してたはずなんだけど」
「…あなた達の目的はなんなの」
「目的ぃ?なにを言っているのかわからないけど、あたしはただここでのんびりくつろいでただけ。特に何もしようとしてないわ。だから早く帰ってくれる?」
「帰るわけにはいかないわ、あなた達を止めるまで」
「帰って」
「嫌よ」
「帰れ」
「嫌」
「何でよ」
「聞き分けがないのね。あなた達の企みを食い止めるまで帰らないと言っているの」
「聞き分けがないのはどっちさ。あたしらは何もしてないって」
水中であるかのように、空中で游ぶ少女。
「まだ何もしていないにしても、危険分子を取り除くのがお仕事なの」
少女はピタリと静止した。と思うと、くるりと回転してオウカの方を向く。
「危険分子ですって…?あたしらは何もしてないじゃない?人間どもが勝手にやったことじゃないの。あたしらを勝手に利用して、勝手に人を殺して。なのになんであたしらが責められるのよ!」
思わずその気迫にたじろぐ。しかし、そんなことをしている場合ではない。
「…目的は何なの」
「…こっちとしてはあなた達の方こそ目的を言ってほしいところだけど」
「誤魔化すつもり?」
「誤魔化すも何も…ねえ、何の話をしてるのさ?」
「…良いわ、とぼけるなら力づくでも話させる!」
両手に薄ら青の透明な気体を集め、少女に向けて、刃として放つ。
「よくわからないけど…一方的な暴力は好まないよっ!」
少女は青白い光を纏い、縦横無尽に飛び回る。
刃は難なくかわされていく。
「ふーん」
何度も、
「なるほど」
何度も。
「でもねえ」
躍るように、
「足りない」
軽々と。
「こんなんじゃ」
嘲笑うように、
「あたしには」
淡々と。
「当たらないよ」
跳ねるように、
「遅い!」
軽快に。
「…くっ」
「あんたが何を求めてるかなんて知らない。でも、あたしもただただ避けてるだけは嫌」
少女は青白い光を放ちながら、上へ上へと飛んで行く。
オウカもそれを追いかけるが、少女のスピードは圧倒的だった。
「調子良好、臨界日和!」
そう叫ぶと、天井付近で振り返ってオウカを見下ろし、座るような体勢になって足を組む。
「…まあ、せいぜい死なないように頑張りな!」
片手を伸ばすと、青白い光を纏わせる。
「…まさか!」
「ニュークリアフュージョン!」
光は複数に分裂すると、色を青から橙へ変え、オウカに向かって降りそそぐ。
オウカは、体が動かなかった。ただ出来たことといえば、目をつぶること。
しかし次の瞬間、高熱に包まれるかと思った体は、冷たいものに触れていた。
「…?」
何が起こったのかわからず、ゆっくりと目を開ける。
オウカの体は、銀色の甲冑に支えられていた。
「これは…」
「る…、るっ、ルーニ!」
声は上から聞こえてきた。
オウカが入ってきたのとは別の通路に、人影があった。
「…、あなたは!?」
その姿を確認した-ルーニと呼ばれた少女は、その場に固まった。
「そ、その…オウカはっ!」
不器用そうな喋り方。
「酸素!!」
「…スイジー?」
呟いたのは、オウカではなくルーニ。
「あなた、スイジー!?それに、彼女が酸素って、まさか…」
必死に頷いているのが見えた。
(…知り合い、なの?)
「何だと…?…ああ、なるほど。お前達は敵ではないようだ」
「え?」
エヌーゼとチエは、目を丸くする。
ここにやってきた事情をご丁寧に話したと思ったら、あの台詞だ。
「Elements。そろそろ訪ねようかと思っていたが、まさかそちらから来てくれるとは」
白衣の少女は、微笑んだ。
「私の正体、教えてもいいだろう。…アクチニウムだ。名はシンシャ!」
「あ、や、やりすぎちゃったかも…。あのおー!」
スィエルは、相手の安否を確認する。
銀髪少女は、むくりと起き上がった。
「い、今の…最高に熱かったよ!!」
キランと親指でグッドサインをする。元気なようだ。
「…にしても、ふむ。先程の力…どうやら我らは仲間であると見た」
「???」
「つまりだなあ、えーこほん。我が名はタルテ。タングステンってことさ!」
「お前…私たちのことを知っているしー?」
「…」
少女は刀を鞘に収めると、恭しく頭を下げた。
「お初お目にかかります…。わたくしは元素番号九十二番、ウランです。…名前は、ヤパ」
「それと、オウカ…!彼女は、そのっ…、ぷ、プルトニウム!プルトニウムなの!!」
「え?」
本人も驚いていた。
─あの時あの島にいた者。わ、私が知っている限りでは全員…い、いずれかは元素になる存在だったから─




