チェレンコフ光と臨界時の青い光は別物らしい
さて、忘れてはなかろうか。
「うぅ…落とし穴なんて酷いよ…」
涙目の少女にスポットライトを移そう。
「…あ、あれ?オウカ?シータス?」
スィエルは周りを見回した。しかし、薄暗くてよく見えない。
「ま、まさか私だけ落された…?」
一応まとめると、三人で歩いていたはずなのに、いつの間にか自分の足元にだけ穴が空いて落ちてきたというわけだ。…少なくとも、スィエルの認識では。
あたふたしていると、突然目の前が光った。
…と思ったのだが、どうやら部屋の明かりがついたようだった。
「グーテンターク、お嬢ちゃん?」
その声は後ろから。厳密には、真後ろから。
「ひええええ!!」
普段以上の跳躍力で前にジャンプして後ろを振り返る。
そこに居たのは、灰色のタンクトップに迷彩ズボン、渋い緑のベレー帽のようなものを被った銀眼の少女だった。
少女がくるりと後ろを向くと、灰色の髪がまう。
「まあ、そんなに怯えることは無いさ」
少女の視線の先には、出口らしき穴。
ポケットから何かのスイッチを取り出すと、それが何なのかを聞ける間もなく押す。
身構えたが、どうやら出口らしき穴のシャッターを下ろすだけだったようだ。
「この部屋は、特別製なんだ。物理法則じゃ説明出来ないようなね」
スイッチを再びポケットにしまいながら、ドヤ顔でいう。
「なんと、徹甲弾が直撃しても傷一つ付かないのさっ!!」
少女が両手を広げたと思うと、徹甲弾が現れる。
「ななななんてもの使おうとしてるの!?私、生身なんだよ!?」
もっともである。スィエルにもわかることだ。
「こんなところに来るようなやつが何を言う。どうせろくでもない決まってる!」
ご名答である。
「こ、こんな狭い空間じゃ避けれなぶふっ」
徹甲弾の一つが命中する。
しかし、血飛沫などはない。スィエルの姿が消え、代わりに無色の液体が飛び散った。
「…何が起こった?」
飛び散った液体は一人でに動き、一つの場所に集まったかと思うと、少女の姿を作る。
その形通りに、スィエルが現れる。
「もう、危ないなぁ…生身だって言ってるでしょ!」
「いや効いてないくせに何言ってんだ!?」
もっともである。スィエルはスィエルなのである。
「こ、こっちだって反撃するもん!」
水の塊が、銀髪少女に向かっていく。
しかし、銀髪少女は素早い。
銀色の壁を生み出し、水を弾く。
「うぐ!なんて奴だ…私の弱点を見抜くとは」
「いやいやいや…」
言葉にこそしていないがきっともっともである。
「これじゃ攻撃出来ないよ…」
銀髪少女は、徹甲弾の代わりに砲弾を放つ。
ぴょんぴょこかわすと、それは着弾した瞬間、炎をあげる。
「ひえっ!ううー…もうあれしかない!!」
スィエルは、仕方ないなと呟いて浮遊する。
「すっごい久し振りだから、威力調節出来ないけど…許してね?」
無邪気に微笑み、高い天井目掛けて飛び上がる。
銀髪少女は防御の準備をして、攻撃に備える。
「何をするつもり…?」
スィエルは、両手を広げた。
その手に青白い光が集まっていく。
今度は両手を重ね、銀髪少女に向けて手のひらを突き出す。
「……」
警戒する銀髪少女。
「行っくよー…」
青白い光の粒が、急速に凝縮される。
「にゅーくりあふゅーじょんっ!!」
幼さの残る掛け声とは裏腹に、凶悪な光線が銀髪少女に向かっていく。
「なっ…!?」
厚い壁を作り、防ごうとするが、それらはいとも容易く貫かれた。
それこそ生身の少女にする攻撃ではない。
少女は、閃光に包まれた。
一方、とある通路でも、少女が火花を散らしていた。
「行かせませんっ!」
「おおっと」
白いスカート軍服の少女は、刀を握りしめて…、シータスに飛びかかった。
黒い短髪はなびき、鮮やかな黄色の目は敵を真っ直ぐ見据えている。
「オウカ。スィエルを探すしー」
ひらりとかわすと、オウカの方は向かずに言う。
「…ええ。ここは任せたわ、シータス」
「…待てっ!」
まさにその刀が振り落とされようとしていた。
しかし、二人に焦った様子はない。
シータスはオウカを庇うように道を阻む。
手を前に伸ばすと、シータスを中心に、正四面体の青透明なシールドが現れる。
「私のバリアは…すっごいしー!」
刃が触れる。シールドは変形し、刃を滑らせるように受け流す。
「っく…!」
軍服少女は青白い光の粒を散らしながら、超速で後ろに下がり、再び剣を構える。
「私の剣を受け流すだなんて…」
「ふっふん、靱性が弱いなら、無理矢理にでも硬度を使えばいいんだしー!」
そう言いながら、シータスは右手に宝石を生み出す。
「…ダイヤモンド。知ってると思うしー」
真っ直ぐに叩かれればすぐに壊れてしまうが、擦り合いが加われば勝ち目はある。
最初は訝しげな顔をする少女であったが、ハッとしたような顔をすると、構えていた刀を下ろした。
「あ、あなた!」
「あ、あい!しー!」
「あなたまさか、それを自在に操れるんですか…?」
質問の意図は分からなかったが、頷いてみせる。
「ダイヤモンドだけではない…まさか、炭素原子を操れたり…」
そこで、ようやく何が言いたいのかに気がつく。
「お前…私たちのことを知っているしー?」
スペクトルだってね。




