根を張る怨恨
「………」
「どうしたんです、何だか落ち着きがないですね」
今、スィエル、シータス、オウカの三人が詳しい話を聞きに行っている。後ほど、話し合ったことも含めて伝えられるらしい。
そしてここは宿屋の一室。ハーミの人々が無料で貸してくれている。
エルシーが部屋に戻ると、何やらスイジーが挙動不審だったということで先程のセリフに至る。
「な…なんだか落ち着かなくて」
「…」
「…」
じーっと見つめるエルシーとたじろぐスイジー。
「話してください」
「…」
「話しなさい」
「はい…」
気迫に負けて、渋々スイジーは口を開いた。
どうやら、誰かに見られているような気がするのだという。ただ見られているのではなく、身体にまとわりつくような視線を感じるらしい。
「…はあ、そうですか」
「でも、もしかしたら気のせいかもしれないから」
「とりあえず」
スイジーの言葉を鋭く遮る。
「何があっても絶対に私の側を離れないでください。ったく、探しに行く身になってみろって話です」
「うっ…」
迫力に負けて頷く。
スイジーの孤立癖は筋金入りだ。水銀だけど。
「大して面白くないです」
「ひねりが感じられない」
うっ…。こほん、その理由も、他人を巻き込みたくないという理由ではなく、そもそも誰かに相談するという発想に至らないことが多いのだ。その点、非常に厄介だろう。
しかし、自分に対しては、何かを話そうとして躊躇っている様子をよく見せる。頼りにされていると思っても自信過剰ではないだろう。表情ひとつ変えずに、心の中で呟いた。
「…座ったらどうです?」
「…ええ」
二人は柔らかそうなソファーに腰掛ける。
いつからだったのだろうか。相当怯えているようだ。
尋ねてみると、スイジーは、
「列車に乗ってから」
と答えた。
「えーまず、敵の素性は不明。目的も不明だが、前例もあり、良くない事であると予想できる。近くの森に廃墟があるらしく、そこが怪しいとのこと。さっきの件もあるから、早めに突撃したいところだけど…一晩様子を見るわ。見張りを置く。交代でね」
オウカはスラスラと話し、次に見張りの担当について続けた。
「静かねえ…♪」
もうすぐ12時。エヌーゼとチエは見張り台の上から村中を見ていた。
誰かが見張っていると言うだけで、相手も大胆な行動はしないだろう。バレたくないとすれば。
…例の黒装束はとてもオープンで、相手から素性を明かしてくれたが。
「不気味なくらい静かだな。ハーミに来てから人間以外の動物を見ない」
「何か事情でもあるのかしら♪」
前にも襲撃を受けたと聞いた。その時から、環境が変わってしまったのかもしれない。そう言えば、家畜も一匹もいないそうだ。もはや生存すら難しいということか。
そう考えると、ハーミの人々は苦労しているだろう。何せ、辺境の里と言われているほどなのに肉類は全て他の地域から送られてくるものに頼り切りなのだから。
近くにある…と言っても遠いのだが、工業都市マーキャンデリは畜産を全く行っていない。
「今どき、食肉は全て他地域から貰ってるなんて場所は珍しくないがな」
「あらでも、それは大抵それなりの都市よ?」
「お二方」
12時。日付が変わる。交代の時間だ。
「ああ、よろしく頼んだ」
エヌーゼとチエははしごを降りていった。
「…さて」
交代したエルシーとスイジーは、見張り台の椅子に腰掛ける。
「…行きましたね」
それを確認すると、エルシーは通信機を取り出す。
「……」
少しすると、声が聞こえてくる。
『はい、…こちらも近くまで来ております。確実に圏内には入っていますが、もう少し時間がかかりそうです』
「そうですか…、気をつけてください」
「さっき、謎の集団に襲われたの。恐らく奴らでしょうね」
『 あら、そうなんですの?ええ、十分注意いたします…それでは』
プツンと通信が切れると、再び通信機をしまう。
「ふう…、どうですか?」
スイジーは目を閉じ、神経を集中させる。
「…北北西に人影一つ。その他に活動している気配なし」
つまり、今の話し相手以外は起きて活動をしていないということだ。
それなのに。
「あなたは?」
「まだ感じる」
生物ではないのだろう。だとするとまさか…。
一つの推測が頭をよぎる。しかし、それはあまりに…自意識過剰といったようなものなので、やはり言わないでいた。
「で」
「で?」
「はい」
「ここがあの教団のハウスね!」
目の前にはぽつんと建つ四角い建物。人の気配はない。
本来ここは警戒するものなのだが、
「ん?このドア立付け悪いよ」
「そりゃあ廃研究所だしな」
こいつらに緊張感なんてなかった。
いきなりドアを開けて中を探る。RPGの勇者か。
「でもこんな狭い廃墟を粗探ししたところで…何ですか?」
エルシーが突然言葉を止めたと思うと、スイジーが何か耳打ちをする。
「地下…ですか?」
「地下か?」
「地下だしー」
「地価♪」
「エヌーゼだけ何か違う気がする」
チエちゃん今日もお疲れ様っす。
「えっと、廊下の突き当たり…、霊魂に反応して開く術式がある」
「霊魂…えっと、つまりどういうことだしー?」
「その…霊魂というのは、各々の存在を表すもの。私たちにもある。決して同じものは無いし、…基本的に失われることも無い。あの術式はつまり、顔認証システムのようなもの」
さしずめ、霊魂認証システムと言ったところか。
しかし、そうだとすると問題が発生する。
「どうやって開けばよいのだろうか…」
キュオルのその言葉は、質問というよりかは零れたというようだった。一つとして同じものはないのなら、そのロックを外すことは不可能ではないか。
しかし、スイジーに困った様子はない。
「…こじ開ける」
弱く言い放つとら廊下を進んでいく。何も無い壁にしっと手をかざす。
「………」
何かを囁いたような気がしたが、聞き取れたものは誰一人いなかった。
するとなんということだろう、青色の光が浮かび上がってきて、扉が現れた。
「すごーい!」
「魔術の類だったわけね」
スィエルとエインは興味津々に眺めていた。
「まあ、よく分からないが道は開けたんだな。ありがとう」
「…いえ、構わない」
いつも冷たいチエがお礼を言った。
「何だか今失礼なことを言われた気がする」
それこそどうでもいい話だ。
「…」
扉を開くと、先は地下へ続いているであろう階段になっていた。
壁は青混じりの灰色で、青い線のような照明は近未来という感じがした。
一本の通路を歩いていくと、分岐路に辿り着いた。
「じゃあスィエルとシータスと私はこっち」
あいあいさー!と元気の良い二人。息ピッタリである。
「あたしとキュオルはこっちでいいわね」
ふんす、とやる気に満ちている二人。
「じゃあ、チエとエヌーゼはあっち」
オウカが通路のひとつを指す。エヌーゼはひらひらと手を振り歩き出し、チエも頷いて追いかける。
「スイジー、エルシーはそっちをよろしく頼むわ」
「わかりました」
通路は長く、それぞれ先の様子はわからなかった。




