ふわりと浮かぶ不可思議の蕾
「失礼します」
開いた扉の先には、少女の姿。
「ご指示の通りに、全て致しました」
ごめんなさいね、と少女は言う。
「いいえ、構いません。私も驚きはしましたが…」
少女は座ったまま振り返り、言った。
本当は自分が行くべきだったのだけれど、それでは怪しまれてしまう。誰かにバレてしまっていたかもしれない。
「…お気になさらずとも良いのですよ、あなたのために、この身を捧げる覚悟をしたのですから」
ごめんなさい、と謝ったあと間を置いて、はにかむと、ありがとうと付け足した。
そして、翌日。バー店主のネオラを通じて、依頼主と再び落ち合った。
「さすが、お早いお仕事ですね」
「いいえ。多人数の強みってやつです」
この前とは変わって、今回ミデレーリアへやってきたのは、エイン。
「…穏やかに暮らしているのですね」
「はい、みたいです」
「それなら良かった」
そう言いながら、メアはコップに注がれた透明な紫色の液体を一口、飲み込む。ブドウジュースだろうか。
「…彼女にとってはとても煩わしい世から逃げ出せる、あまりにも突然舞い降りてきたチャンスだったのでしょう」
女王だからと身内とさえ騙し合い、欲望まみれの大臣に囲まれて。顔色を伺って生きなければ待つのは陰謀の刃。…こう考えると、庶民の生活にも似たようなものがあるのでしょうか。
彼女にとっては、今の方が幸せなのかもしれない…いいえ、そうに違いない。
そう語るメアだが、果たして彼女は王家となんの繋がりがあるのだろう。ミリスの遣いなのか…もちろん、公のものでなく。もしかすると非常に高貴なお方だったり…?
「…お礼はギルドに送らせてもらいます。本当に有難うございました」
「あ、いえいえ!ご依頼には最善を尽くすってのがウチのギルドなので!」
昨日は神樹の森で迷子になっていた奴がよく言うものである。
「それじゃあまた、何かあったら遠慮なくどうぞ!」
「はい、有難うございます」
「お疲れ様~、バーにはまた来てもいいのよ?」
「そうですね、いつかお邪魔させてもらうかもしれません」
ぺこりと軽く礼をして、店を後にする。
「…ふう。まだ朝の七時か」
店を出ると、明るい空が細いビルの隙間から覗けた。
他には用事はないことだし、真っ直ぐギルドに帰ろう。
そう思い、大通りへ出た。
「あ…」
壁際に、一人の少女が立っていた。
「あら、スイジーじゃない。付いてきてたの?」
「あっ…、その、依頼主が気になっただけ…」
あわあわしながら、絞り出すように言った。
…さては誰にも言わずに来たのか?
「依頼主?ああ、まだ中にいると思うけど…会う?」
「…いえ、…やっぱりいい」
「そ、そう?」
ここまで来たのに結局会わずに帰るのは無駄足であると思うのだが…。本人がそう言うのならそれでも良いだろう。
「そ、それと…」
「ん?」
「あ、あなたが出発してすぐ、依頼があって…。その件で、お呼び出しがかかっているの…」
「あたしに?」
「そう、あなたも…」
「あたしも!?」
…きっとフェルニーの指名に違いない。なんと銀使いの荒い鉄だろう。




