華の楽園へ…
「………」
そして次の日、スイジーはこっそりと出かけていた。力のことを調べに、スノーゼルの森へ。
もう手がかりは残っていないかもしれないが、探す価値はある。
あの力…、あれはホープダイヤモンドから感じたものと似ていた気がする。
(勝手に出てきちゃったけど……、エルシーに言っておけばよかったかな…)
とはいえ今となっては仕方が無いので、一人で探すしかない。
ホープダイヤモンドがあったところまでやってきた。と、思われる。
(…無い)
一つも無かった。しかし、それは昨日までは犯人がここにいたことを表している。
かがみ込んで、土に触れる。僅かに痕跡がある。
(この感じ、やっぱり帰り際に感じたものと同じ)
集中して、その痕跡を辿ろうとする。
そのため、背後に近づく人影にも気が付かなかった。
「っ…!」
目を覚ますと、頭に鈍い痛みを感じた。
「う…」
手足は縛られていた。目隠しはないが、この暗さでは変わらないだろう。
地面が揺れている。いや、地面ではない。木の板…。
どうやら、車に乗せられているようだ。蹄で地面を蹴る音がするので、馬車であろう。
ここは荷台だろうか。
落ち着いて状況を確認していると、頭上あたりから、僅かに声が聞こえてきた。
「旦那、ラッキーですねえ」
前の席からだ。
「ははは、そうだな。極上のモンが手に入ったからな」
男が二人…だろうか。
体を縛っているのは縄だ。これなら、切れるかもしれない。
そう思い、魔法を使おうとした。しかし、いったいどういう訳か何も起こらない。
「抵抗はよしなんし、お嬢ちゃん」
低い女性の声がした。
「魔法も魔術も使えさんす」
「………あなたは」
「あちきはミホ。主はエルスメノスの者にありんすか」
「は、はい…そうです」
「そう…諦めなんし、帰ることは出来さんす」
落ち着いているというより、無気力な声音だった。
「あちきらはセンイーンに送られる。永遠に働かされ…囚われなんす」
「せ、センイーン…ですって…!?」
鳥籠の街センイーンは、エルスメノスの北東に位置するヴィザーパンでは、昔から有名である。
「ほう、センイーンを知ってるとな。主は博識なんす」
「…鳥籠の街。その名の通り、閉じ込められた鳥は籠の中でだけ美しく鳴く。…そして、そのまま死ぬか買ってもらうかのどちらかしかない」
「そう」
彼女の態度はあっさりとしていた。
これからとんでもない場所に行くとなど思っていない様子であった。
不思議がるスイジーを見て、彼女は微かに笑う。
「あちきはヴィザーパンに生まれ…いや、気がついた時にはセンイーンに居なんした」
「気がついた時…?」
「あちきに親は居なさんす。ただ、側にはこの傘だけがありんした」
薄らとしか見えないが、何かを持ち上げたようだ。恐らく、その傘のことなのだろう。
「この傘は不思議で…いつ片時もあちきの側より離れることはなさんした。真に…摩訶不思議なんす」
僅かな音を立て、床に置かれた。
「…」
「あちきは逃げようとしんした。されどこのざま。もう、二度と逃げることは出来さんす」
「そんな…」
「力は何も使えなさんす。鎖のせいで」
声色はずっと変わらない。
このまま大人しく送られてやるものかとは思うが、どうしようもない。
少しの間重たい沈黙が流れた。
「ぐ、ぶ…っ!」
「…どうした?まさか酔ったん」
「がはっ…」
突然のことだった。前席の方からだ。ここからは何も見えなかったが、どうも酔ったのではないようだ。まるで、口から血でも吐いたような音だった。いや、血の匂いがする。
車が急に止まり、その反動が伝わってきた。
「何事だ…おい、大丈夫か!?」
少し移動して、隙間から見える前の席を覗く。赤く染まっている。元からの色ではないだろう。
誰もいないと思ったら、どうやら男も反動でよろめいたのか、頭を抑えながらふらふらと立ち上がってきた。
しかし次の瞬間、その男も同じように血を吹き出して倒れた。
口だけではなかった。鼻血もだ。
何かの薬などだろうか。しかし、こちらには害はないようだ。
「何が起きさんす…?」
彼女の表情に、初めて変化が表れた。それは唖然としているものだったが。
「全く、勝手な事するからこうなるんですよ」
別の少女の声だった。今起こった現象を、スイジーは完全に理解した。
向かわないようです。




