美しい元素には毒がある
絹のように滑らかな、ウェーブがかった白い髪。洗いたての陶器のように、白い肌。力を込めれば折れそうな桃の枝のように、華奢な身体。洞窟の奥の泉のような、無垢な瞳。
魅せられぬ者はほとんどいないであろう、見目麗しゅうお嬢様。
そんなわけなので。
「お茶だけでも、ね?」
「そ、その…けっ、け…結構、です…」
銀のように澄み渡った声で答える。
絶賛ナンパされ中である。
「そんなこと言わずにさ~」
引き下がらない、しつこい男。嫌われるよ。
しかし、美しい金属には毒がある。
「…うぅ」
「ちぇいやー!」
涙目になっていた少女の後ろから、何かが飛んでくる。
毒ではなさそうだ。
「うちのスイジーに何してんのよ、某ハロゲンに殺されるぞ!」
銀髪ポニーテールの小柄な少女。青銀の瞳で、吹っ飛ばされて倒れたモブ男を見下ろす。
彼女はエイン、銀である。
そして、スイジーもまた元素であり、水銀。
「………あの、エイン。気絶…しちゃったみたい」
「え、嘘ぉー!ドロップキックは強すぎたかー」
てへぺろっ★と、明らかに故意であることを全面に押し出す。
「それは置いといて、スイジー!」
「ひゃいっ…!」
スイジーよりも少し背丈の低いエインは、ずいっと詰め寄って見上げる。
「あんたももう少しはっきり言うこと!ダメそうなら殴る!」
「…はい」
「で?こんな一通りの少ない住宅街で何やってたの?」
「…ひ、人の少ない道からElementsに行こうと」
「ふーん…じゃあいいわ」
エインは、しょんぼりするスイジーを引っ張って歩き出す。
「仕方ない、心の広いこのあたしが一緒に行ってあげるわ!」
得意げに言いながら、ウィンク。
カラフルな家の間を歩いていく。