アクチノイドに触れる者はいない
ちょいと、その子。アクチノイドっすよ。
「…あの」
「ああ…あのトロリとした黄色いふわふわ卵…トゥルンと咥えたスプーンから滑り落ちれば広がるやわらかなお味…」
「ちょ、あの…聞いてください」
「そしてほのかな酸味のあるお米に絡んで…じゅるるるる」
「ぴぃ…」
スズは、ある依頼を受けた後にフィスプに寄っていた。
すると、明らかに異質な者がいたのだ。
緑っぽい青色のお団子ふわふわロングだけならまだしも、なんと矛と盾まで持っている。
ここら辺では珍しい武器である。
まあ、そうとはいえ、倒れているところを放っておくわけにはいかない。(社会地位的に)
「オムライスが食べたいんですか?」
「それ!それネ!オムライスネ!」
オムライスに反応して、がばぁっと勢いよく顔を起こした。目はキラキラ。
「…どうでしょう、ビアンカでならご馳走できますよ」
「ホント!?嬉しいヨ~!」
(身元を詳しく調べましょう…)
「ワタシはリン、ネ。よろしくなのネ」
(名前紛らわしい…)
なんとなんと、元素名と被っている。
「スズと申すのです。こちらこそよろしくです」
そういえばこの名前も他の元素と
「被ってるのネ…」
そうそう、被ってる。被って…、
「さあ早くビアンカへ善は急げです」
「ン?わからないけどわかったネ!」
「ということでれんこ…連れてきました」
「おーおー、ここがElementsなのネー」
急がずとも、元々リンはここへ来るつもりだったらしい。北東の国から、北を回って来ようとしたところ迷子になっていたらしい。
北東の国では、名前は「鈴」という表記だったという。リンともスズとも読める。うむ、紛らわしい。
「承知致しました。オムライスでしたらすぐご用意できるのでございます」
事の顛末をフェルニーに話すと、そう言って台所へと入っていく。
「良かったノネ…」
「…そんなにオムライスが食べたかったんですか」
こくりと深く頷く。
凄まじい熱意だ。一体何が彼女をそこまで突き動かすのか。
「今日もにぎやかですねー…」
ワイワイとはしゃぐ元素たちの間をすたすた歩き、椅子に案内する。
「今は数人が小規模な遠征に行っていますが、それなのに十分騒がしいです」
「この騒がしさなら良いことネ。ワタシの住んでた国は、音が大きなだけで命の騒がしさを感じないネ」
苛立ちや悲しみはなく、ただただどうでも良さそうにいう。
国はどのようなところか聞いたところ、昔は活力に溢れる国だったという。いつの間にか人と人との関わりは薄れ、利己的な感情は個人で完結してしまっていたのだとか。
礼儀作法やマナーも知らない者が増え、その時代の遷移についていこうとは思えなかったそうだ。
「頭の堅い懐古主義と言われるかもしれないネ」
「なるほど…しかし、確かに私達は時代の移り変わりを見ることができますから、昔のこれがよかったと比較してしまうのはあってもおかしくありませんよ。思い出補正もあるでしょうし」
「フフ、思い出補正ネ…」
「たっだいま帰りました~!!」
戸を思い切り開け、元気良く声を響かせたのは…。
「マグ!遠征お疲れ様マグ!」
遠征組たちだ。…どうやら、3人ほど増えてるが。
「あらあら、たくさん連れておいでですね」
お皿を持ったフェルニーが笑顔で歩いてくる。
目を輝かすリンの前に、とろとろしていそうな卵が覆いかぶさったオムライスが置かれる。
「ありがとネー!それじゃあ冷めないうちにいただくヨ!」
パクパクと、幸せそうな顔をしてオムライスを口に運ぶリンはそっとしておいて、フェルニーは遠征組たちの元へと向かう。
「わたくしはフェルニーと申します…、ふつつか者ながらElementsの事務その他諸々を担当しております」
礼儀正しく頭を下げる。
新しく仲間が加わった。それも一気に4人。なんとも喜ばしいことだ。
「さて、とりあえず報告書をいただくマグ」
「あ、はーい!」
マグナは紙の束を受け取り、奥へ入っていく。
「そういえば、聞いた?新しい女王様のこと」
スィエルがパタパタと鳥のように手を振りながら話し出す。
「ああ、確かクリス様でございましたよね。わたくしはてっきり妹様が…」
「そう!その妹さん!その、聞いた話によると…行方不明なんだって」
「行方不明…?しかし、それならば…妹様を探しませんか…?」
「やっぱりアレですよ…陰謀渦巻く悪事に巻き込まれて…」
ズモモモモと後ろに文字が浮かび上がりそうな顔をしてホウコが言う。
「それお前が好きなだけだろ」
チエちゃんお守りお疲れ様…。
「まあ、お土産話は座ってからに致しましょう。立ち話もなんですし」
はーいと元気よく返事をして、テーブルを囲む。
「ごちそうさまネー!私はスズのリン、ヨ!」
「そしてこちらリンのスズですが何か」
「うわ紛らわしいの来た!!」
リンもさっそく雰囲気に馴染みそうな様子だ。
「マンマ…、楽しそう?」
「そうだな…お前もきっとすぐ馴染めよう」
「…ここは賑やかなんだなー」
「でも、これからはもっと賑やかになりそうだしー」
「ふふ、そうでございますわね」
まさかこの後、ルルがもう一人連れてくるだなんて、夢にも思わなかっただろう。




