チエちゃんに胃薬を…
このあたりは古い方の小説とあまり変わらないですね。
「か、海底の洞窟?」
「そうでございます。小規模ながら久しぶりの遠征でございますわ」
ギルドの会議部屋に集められた元素たちは、フェルニーの説明を受けていた。
「なんかオカルティックね!」
目を輝かせて言うのはスィエル。
「全く、遊びじゃないのよ?」
なだめるように言うのはオウカ。
「でもロマンを感じるしー!」
笑いながら言うのはシータス。
「ほ、本当に私がここにいてよいのでしょうか」
言葉とは裏腹にやる気に満ちた顔をしているのはホウコ。
「…子守り?」
光を失った目をフェルニーに向けているのはチエ。いや、元々無かっげほんごほん。
「さて、詳細を説明させていただきます」
そう言うとフェルニーは壁掛けパネルにエルスメノス西部の地図を浮かべる。中心はビアンカで、フィスプやアルシャフネリーなども見えている。
「皆様に向かっていただくのはエルスメノス王国南部に位置する珊瑚海でございます。珊瑚礁がとても美しい海ですね」
パネルを操作すると、地図がそれにしたがって写す範囲を変える。
「近くの村、アンダンサの方々も協力してくれるようです。なにしろ王国直々のお願いでございますからね」
指で場所を示しながら言う。
今回の目的というのは、ビアンカからみればずっと南西に位置する、珊瑚海にて発見された海底洞窟の調査だ。場所の問題もあり、人間が調査するのはあまりにも大変であるため、ここへ依頼が来たのだ。
「はあー、ドキドキする」
「突然奇行に走り出すのは止めてね、ただのホラーだから」
「さ、さすがにそんなことはしないよ!?」
無自覚というのは、時に底知れぬ恐怖を生み出す。
まあ、自覚しているのもそれはそれで怖いこともあるだろうが。
「良識的な行動を心掛けてくださいね」
「こいつらにはそんなもの無い」
真顔でチエは断言する。経験者は語る。
「大体、このメンバーなのは何故だ?」
フェルニーは笑顔を崩さず、
「気分で非金属から。錆びなきゃ誰でもいいのでございます」
ああ、惜しい。もう少しで常識元素になれただろうに。いったい何が彼女を3度ぐらい曲げてしまったのだろうか。
「おいひいでひゅ」
「わかったまず飲み込め」
ホウコがフェルニーからもらったパンを頬張る。
前にも言ったように必要ではないのだが、美味しいものを食べても嬉しくならないのはあり得ない。って偉い人が言ってた。
「さすがに反対側の海となると遠いわね…」
この汽車の団体席は四人掛けで、五人で座っているのだが、もともとゆとりをもって作られているのか綺麗におさまった。
「植民地は返したっていうのに、十分広いよね。なんでそんなにたくさん奪う必要があったのやら」
「多ければ多いほど力を誇示できたんだろう。攻める気をなくさせるほどの力を」
「でも実際、管理行き届かなさそうだしー」
「管理する必要はない。そこが領土であることだけが重要なんだ、恐らくな。昔は繁殖の殖の字で、殖民地としていたらしいじゃないか」
「…人を繁殖させる土地でもあったのかあ。なんか、家畜みたい」
「ま、当時の人々の思考なんてわからないけどね。その場にいたわけでもないのだから」
そんな何でもないような話をしながら、時間を潰す。
やがて、ずっと森や山に埋め尽くされていた景色に変化が訪れる。
遠くに、四角柱や円柱のものが見えた。
「あれがミデレーリア?」
それらは高層ビル。見えているのは大都会ミデレーリア。最先端の科学や技術が取り入れられ、近未来的に発展した大きな町だ。
「随分と違うのね、ビアンカやフィスプ、アルシャフネリーとは」
「北部の方は…なんか、街並みの美しさに重きをおいているというか…昔ながらのものを慈しむ懐古主義の傾向が強い?」
「文化の違いってやつだしー?同じ国なのに随分と変わるしー」
「エルスメノス王国というくくりなんてあってないようなものよ。法とかが同じだけで」
「もともと、南のルージャ。北のダーキル。西のアクシア。東のゴーデ。中央のフォレントの五か国からなる連合国家…というかダーキルが従属させたみたいな感じだし…」
「じゃあエルスメノスの王家はダーキル出身ってことね」
「そうそう。よく四桁も続いているよな」
「すごいよねー、なんか誇れる」
ミデレーリアも通りすぎ、ようやく南部エリアに差し掛かったことだろう。
「なんで急に見付かったんだろうね」
唐突にスィエルが切り出す。初めて目的についての会話がされた瞬間である。
「何が?」
「海底洞窟だよ。結構深いところにあるのかなー…」
「今まで見付からなかったのだから…技術の進歩によりやっと見付かったんでしょうね」
「なるほど。それは確かに人間じゃ調査できなさそうだな」
「でも王国直々にお願いなんて、しますかね?」
「そりゃあ…なにかわからないとなると危険度がわからないからじゃないか?その存在が平穏を脅かす存在になりえるかどうかを知っておけば対策も可能になるから」
「考えすぎじゃない?ただ単に新しい発見があるかもしれないからーとかじゃないかな?資源とかも含めて」
「どっちもかもしれないしー?」
(あの)スィエルに盲点をつかれてちょっぴりショックを受けていたチエを、シータスがそれとなくフォローする。
「どうにせよ仕事は仕事。全うするのが私たちの役目よ」
「そうですね、受け入れましょう…。これは…Elementsに訪れる前から決心していたことです。例え恐ろしい陰謀にこの身を滅ぼすとしても…今さら後戻りなんて出来ません」
「やめてよそんな大袈裟に言わないでただの仕事だよそんな悪意渦巻いてないよ」
暗いトンネルのなかに入り、目的地はどんどん近づいていく。




