怒りと悲しみ?
「カッケー!なにあれ!?竜が血をちょっとかかって倒れてるとか、どこのマンガの世界だ?!ーーあ、異世界だった!
よし!もっと近くで見よ!」
アホはなんの準備もせずに無闇に近づいて行く。
クレーターを下りてその中心で倒れているドラゴンの顔を巨大な体の隙間からこっそりと覗く。
そこに見えたのは片方の角が半ばで折れており、苦しそうに荒く息をするだドラゴンの頭だった。ちゃんと首は繋がっている。
「おおぉ、近くで見ると迫力があるなぁ。ん?まだ生きてんのか?大丈夫か!?」
シンキョウがこのドラゴン(因みにこのドラゴンは魔龍ウシュムガルである)が生きていることに気づいた時にはもう 助けない という選択肢はないらしい。
迷うことなく魔龍の頭に近づいて行く。残り十メートルを切る時に魔龍は気づいたのか目を見開いてシンキョウをギロッと睨み、静かに威嚇の声をあげる。
その瞬間、シンキョウの体が止まり、ガタガタと震える。クズと戦った時とは比べ物にならないくらいだ。本当の恐怖を、なにも出来ず死ぬ恐ろしさを感じたのかもしれない。
しかし、
「グルルルルゥゥゥ」
その威嚇を聴き、何故か胸が熱くなった。
その体ではもうすぐ死ぬだろうに、さっさと去れと言っているように聞こえて。それはここで死のうと考えているように見えて。その言葉には自嘲や悔しさ、悲しみなどの様々な感情が感じられて。それはまるで昨日の俺のようで……。まるで情けない自分を見ているようで。まるで何も守れなかった自分を見ているようで。
怒りで頭がどうにかなりそうだった。そして、、、
………何故か、涙が止まらない。