第7話 魔法使い
ゴーダンに連れられて、一階の狭い一室に入った。
ーなんか空気が重い。
ー俺何か悪いことしたかなぁ。
「蓮夜。おまえ魔法使いか?」
「魔法使い?」
「あの爆発。出したのはおまえだろう?あれほどの魔法を使える人はそうそういない。もし魔法使いでないんだったら、なる気はないか?」
ー魔法使いか…
ーさっきの基本書で心折れてるからなぁ。
「でも、俺魔法なんてできないです。あの時はたまたま爆発を起こしたってだけで。」
「たまたまだろうが、なんだろうが魔法の才能が無ければあんなことはできない。それにここに来たら働くと言っただろう。魔法使いは稼ぎがいいんだ。」
蓮夜は少し考える。
「わかりました。とりあえずできる限りでやってみます。」
「おっ、よく言った。俺の知り合いに魔法使いがいるんだ。明日ここに連れてくる。そいつに教えてもらえ。」
「わかりました。」
翌日の早朝
ゴーダンの紹介された人から魔法を教えてもらうことになった。
ゴーダンに連れていかれ、ヨーリーにある広い空き地に行った。
空き地に着くと1人の若い男がいた。
男は杖を持ち、白いコートを着ていた。身長は180cmぐらいあり、筋肉もがっしりしていた。
「紹介する。こいつが知り合いの魔法使い、ロームだ。」
「よろしく、ロームだ。ローム・リーカス」
「蓮夜です。桐生蓮夜です。」
お互いに握手を交わす。
「じゃあ、後は頼んだぞ。」
「ああ」
そう言ってゴーダンは施設に戻って言った。
ロームは蓮夜に話しかける。
「魔法は初めてか?」
「はい。魔法はあまりよくわからないです。」
「わかった。まずは魔法の基本からだ。魔法は空気中の魔素を操ることで発動させる。」
「合素とか離素とかいうやつですよね?基本書に書いてありました。」
「おお知っているのか。でもな、ただ魔法使いになるためにはそこまでの知識はいらない。その基本書は多分魔法大学に入るための基本書だな。」
ー魔法大学?
ーここにも大学っていう概念があるのか
「そうなんですか?てっきり魔法ってめちゃくちゃ難しいものだと思っていました。」
「まあ、魔法を使う時はほとんど感覚だから。さっそく魔法を覚えていこうか。」
「はい。わかりました。」
ロームはまずバッグから本を取り出した。
本はとても厚く古びたものだった。
「それはなんですか?」
「魔法書だよ。魔法使いになるためにはまず自分の中の魔力をコントロールしなければいけない。でも最初はみんな魔力をコントロールできないから、魔法書の力を借りてコントロールするんだよ。ほら、魔法書に手を置いて。」
そう言って、ロームは本を開いた。
蓮夜が開いたページに手を置くと、ロームは呪文を唱えた。
「マギンッツジャランクン」
すると本が光だした。
黄色く輝いた光が蓮夜を包み込む。
ーなんだ?急に身体が重くなった。
ー大丈夫なのか、この魔法。
「これで大丈夫だ。まずは魔法の適性検査からだ。次はこのページに手をかざしてみ。」
ロームは本のページを数枚めくり、蓮夜に見せた。
ー六芒星だ。周りにある6つの模様はなんだこれ?
言われるがままに手をかざす。
すると2つの模様が光だした。
「火と土の2つの属性持ちか。」
「これはなんです?」
「これは魔法の適性を見るページだ。星の先に模様があるだろ。上から火、水、土、風、光、氷を表す模様だ。」
「じゃあ、俺は火の魔法と土の魔法を使えるんですね。」
「あぁ、そうだ。ただ、土属性の光が弱い。土属性が使えることは使えるが、魔法を使うとなると、火属性が主になるな。」
「わかりました。」
ロームは右を向き、手のひらを上の方向に向けた状態にして右手を前に出した。
「魔法は自分の体内にある魔力を引き出すことから始める。この魔力で魔素を操って魔法を出すんだ。」
ロームはそう説明すると、ロームの手のひらの上で水のボールが形成された。
「俺には水の適性があるから、水による魔法が使える。蓮夜もこれから徐々に、魔法を使えるようになってくるから一緒に頑張ろう。」
「はい。」
「まずは基本からだ。水だろうと火だろうと基本は一緒。手のひらに魔力を込める。」
蓮夜は言われるがままに手のひらを前に出し、魔力を込める。
しかし、蓮夜はいまいち感覚を掴めることができず、炎が少しボッと出るだけであった。
「難しいですね。」
「最初はそんなものさ。魔力を込める時はただ込めるのではなく、落ち着いて一点に集中させるのがコツだ。」
蓮夜は2、3回深呼吸をし、精神を集中させる。
静かに手を前に出し、魔力を一点に集中させた。
すると火が発生し、少しづつボール状になっていった。
ーよし。うまくいった。
しかし、蓮夜はすぐに魔力を込めるのをやめてしまった。
集中が続かなかったのだ。
「魔法って結構大変ですね。」
ーやばい、結構しどい。
ー部活で十分しごかれたから体力には自信あったのに
蓮夜は少し息切れをしていた。
「すごいなぁ。2回目でここまで操るか。」
「でも、全然長くもたないですし。それにめちゃくちゃきついです。」
「いやいや、自信もったほうがいい。普通、魔法というのは素質を持った人が幼少期から大変な努力を重ねてやっと習得するものだからな。」
「素質を持った人ってどれくらいいるんですか?」
「そうだなぁ。10,000人に1人位じゃないか。」
ー結構少ないのか。
「少し休もう。ほら水だ。」
ロームはバッグから水筒を出し、蓮夜に渡した。
「ありがとうございます。」
蓮夜は浴びるように水を飲んだ。
その後、二人は近くの長椅子に腰をかけた。
ふとロームがの横にある魔法書が蓮夜の目に入った。
「魔法書って他にどんなことが書かれているですか?」
蓮夜は何気なく聞き、魔法書に手を伸ばす。
その瞬間、魔法書は赤く弱い光を出した。
「触っちゃだめだ。」
蓮夜はびくっとした。
蓮夜はサッと手を引き、ロームの顔を見た。
「魔法書は素人が使える代物ではないんだ。注意してくれ。」
「すみません。」
ーびっくりした
ーあの光はなんだったんだ。
「今からお昼にしよう。近くにうまいお店があるんだ。案内するよ。」
ロームが話していることに気がつき、蓮夜は我に返った。
「いや、でも俺お金持ってないです。」
「今日は俺の奢りだ。」
「ありがとうございます。」
「言っておくが今回だけだ。」
「はい」
蓮夜はロームに連れていかれ、早朝にゴーダンと歩いた大通りに来ていた。
「ここが俺のおすすめの店だ。」
蓮夜はロームが指差した方向なち目をやった。
見たことがない文字であるのに、自然に読み方が頭に入り込んでくる。
しかし、その単語の意味までは理解できなかった。文化の違いまでは修正されなかった。
「テナーンカル?」
「この町の名物だ。ものすごいうまいからな。」
ロームはうきうきした表情で店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ。」
左奥にカウンターがあり、店員がこちらに向かって笑顔で挨拶をした。
お店の壁は綺麗な木目と渋い茶色が絶妙な折り合いをなしていて、壁の角には鉢植えが置いてあり、自然の匂いを漂わせている。
「テナーンカル二つ」
「かしこまりました。」
二人はテーブル席に腰をかけた。
「ずっと気になっていたんたが、お前はどこからきたんだ?見かけない顔だが。」
「とても遠いところからです。言ってもわからないです。」
「そうか。ん?あれは。」
ロームは外を見るなり、真剣な表情をする。
外には赤いコートを着た4人の武装集団が歩いていた。コートの後ろには斜めに傾いた剣に龍が巻きついたようなマークがあった。
「あの人たちはなんです?」
「犯罪集団だよ。レギンとかいう名前だったか。」
「犯罪って?」
「人を誘拐したり、殺したり、とにかくやばいやつらだ。関わらないほうがいい。」
「わかりました。」
ー犯罪集団がうろつくのか、この町は。
「恐ろしい集団だからな。騎士団も迂闊に手を出せないんだ。」
「騎士団?」
「騎士団も知らないのか。騎士団っていうのは、要は治安部隊だ。本当にどっから来たんだ?」
蓮夜は苦笑いをした。
「お待たせいたしました。」
「おっ、来たな。」
固ゆでの麺に肉と野菜がのっており、スープがなかった。
ー担々麺みたいだな。
横にあるフォークを取り、自分の口の中に食べ物を持っていく。
「美味しいですね。」
「だろ。」
二人は無言で食べ続けた。