第6話 光と影
2人は外に出た。
ー連れて来られた時はあまり気付かなかったけど、綺麗な町だな。
自然の薫りが漂ってくる。
東京では見られない光景だった。
草花は鮮やかに彩られ、所狭しと列を作り、蓮夜を迎えた。
所々から聞こえてくる鳥のさえずりは自然が奏でるクラシックのようだった。
ーこれは、桜か?
蓮夜は一本の木に近づく。
太く固い幹から自然界のたくましさを感じた蓮夜は感慨に耽ながら、頭上にある花に目をやった。
四方八方に伸びた茎からピンク色の花が数多く咲き、風に吹かれるとザワザワと音を出し
蓮夜の上に花びらが落ちる。
「それの花はねぇ、シリンって言う花だよ。」
蓮夜は意味もなく、シリンの幹を数回叩いた。
「ここはいい町だね。草木は綺麗だし、空気はおいしいし。」
「本当にその通りだよ。私ここに来てよかったと思ってるもん。」
ふと蓮夜は写真のことを思い出す。
「そういえば、施設の玄関に写真があったよね。」
「あー。あれね。あれは二年ぐらい前にとった集合写真。」
「そっか。じゃあ、さっきいた人たち以外にもいるんだ。」
「いないよ。あの写真に写っている人たちのほとんどはもうあの施設を卒業しちゃったからね。」
「卒業?」
「うん。私たちはね、引き取ってくれる人が見つかるとこの施設を卒業しなくちゃいけないんだよ。」
「引き取るって、よくあんな大勢の行き先が決まったね。」
「そこはよくわからないんだよね。引き取った後はその子たちとはもう会えないし。でもここは町の公認施設だから大丈夫なんじゃない?」
ー本当に大丈夫か?
ーあんな短期間で多くの引き取り先が決まるとは思えない。
蓮夜は納得出来なかった。
しかし、疑ってもなにも始まらなかった。
「そんなことより早く行こう。こっちだよ。」
言われるがままについていく。
歩いていると、車ではなく馬車だったり、地面はコンクリートではなくただの土だったり、と日本とはやはり圧倒的に別世界だった。
しばらく歩くと、あるところに人集りが出来ていた。
「すごい人集りだね。」
「うん。ちょっと付いて来て。」
言われた通り付いて行くと、人集りの先に火をふく人がいた。
「すごい…」
男は空中で火を作り、それを食べたと思いきや、前方に向かって激しく吹き出した。
ーサーカスだ。
初めて見るサーカスに胸を打たれる。
次に女性が現れた。
女性は白虎を連れていた。
ーこの世界にも白虎がいるんだ。
女性は鮮やかに白虎を操る。
白虎は炎の輪っかをくぐり、一回転をする。
ー飛び込み前転だ。
驚きと疑問が交差する。
ー白虎って火の輪っかをくぐりながら、飛び込み前転ってできたっけ?
さらに白虎は玉乗り、縄跳びなどを難なくこなしていく。
そして、白虎による曲芸が終わると、サーカス団員が全員出てくる。
男が両腕を広げ、空中で水を作り、球状にさせた。
そして、もう片方にいたもう1人の男が水の球を割った。
そして、割れた音とともに虹ができる。
「虹が消えない」
虹が固まっているのだ。
ーすごい。魔法ってこんなこともできるのか。
蓮夜は心を打たれた。
「蓮夜は運がいいよ。たまたま今日はサーカスの日だったんだ。私、ずっとこれが見たかったの。」
「もしかして、これが見たくて俺を案内したの?」
「えーと、ばれた?」
2人で笑い合った。
そして、サーカスも終わり、また別の場所へ移動する。
「ここが学校だよ。」
蓮夜はシャーナが指した方向に目をやる。
木造の二階建の学舎は戦前の日本を思い出させた。
「じゃあシャーナはこの学校にかよってるの?」
「ううん。昔は通ってたけど、ちょっとした事情でね。」
「施設は行かせてくれないの?」
「そんな、わがまま言えないよ。でもね、貯金していつか学校に行くの。」
「そっか…大変だね。」
「私学校の先生になりたいんだ。だから今は少し辛くても大丈夫。」
ーこの世界では学校に通えない人がいるのか…
日本では特殊な事情がない限り、全ての人が学校にいける。
蓮夜は複雑な気分になり、2人の間に沈黙が流れた。
「他にはないの?」
蓮夜は沈黙に耐えられなくなり、シャーナに質問を投げかける。
「じゃあ、違うところ行こっか。」
そう言ってシャーナは歩きだす。
町を歩きながら、蓮夜はあることに気がつく。
「あの人たちは?」
蓮夜が指差したさきには、首を鎖で繋がれた少女が頭の上に重い荷物をのせ歩いていた。
「あれは奴隷よ。」
少女は生きる希望を無くしたような顔をしていた。
服はやつれ、ところどころに穴が空いており、髪の毛も無造作だった。
ドォォン
奴隷の少女が荷物を落とす。
荷物からは大量のりんごが流れてきた。
「てめぇ、大事な商品になにやってんだー」
鎖を持っていた男がいきなり怒号を飛ばす。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ああああ」
男が少女に対して何回も鞭を叩きつける。
少女は涙を流しながら一切の抵抗する姿をみせず、体を縮こませていた。
細い足を震えながら立とうとする。
よくよく見れば細い足には真っ赤な血がところどころについており、膿んでいるところもあった。
少女は一生懸命落ちたりんごを拾おうとした。
「落ちたものが商品になると思ってんのかあ。」
少女の顔を本気で蹴り飛ばす。
2メートルぐらいふっとび、鼻からは鼻血が垂れた。
少女はヒクヒクと泣いた。
大声で泣けず、かと言って涙も我慢出来ず、ただ従うしかなかった。
「早く立て!遅れんてんだよ。」
主人に言われがままに一生懸命荷物を持ち立とうとする。
が、上手くいかない。
少女はよろめきまたその場で倒れこんだ。
「酷い」
蓮夜は見ておれず、顔を背けた。
「早くここから離れましょ。」
「助けないと。」
「だめよ!そんなことしたら、次は私たちがああなるのよ。」
シャーナいわく、他人の奴隷を助けたら窃盗にあたるらしい。
ー奴隷を助けたら犯罪なのか?
蓮夜は絶句した。
「ほら、離れよ。」
シャーナに連れて行かれ、その場から離れた。
「あんまり奴隷を見たことないみたいね。でも、助けようなんて二度と思っちゃだめよ。最悪処刑されて、晒し者にされるわ。」
「そうか」
助けを求めている人がすぐそばにいる。
でも助けられない。
蓮夜は自分の無力さに憤りを感じた。
その後、様々ところを周り施設に戻った。
「今日はありがとう。とても楽しかったよ。」
「私もサーカス見れたし、また行こうね。」
「いいよ。また行こう。」
施設に戻ると、ゴーダンが声をかけて来た。
「あーいたいた。蓮夜ちょっと来てくれ、話がある。」
「はい、わかりました。」
ーなんだろう。
蓮夜はとりあえずゴーダンに付いていった。