第4話 迷走
蓮夜が目を開けると、そこは広い森の中だった。
木々は天高くまで伸び、根っこの部分は少し地面から出ていたが、とても太くたくましく、青々と生い茂っていた。
薄暗いと思えば、所々に日の光がまっすぐ地面まで伸びており、まるで天使でも舞い降りてくるかのような光景だった。
ー綺麗だ。
蓮夜は今まで見たことのない自然の景色に圧倒されていた。
行くあてもないのに、足が動きだす。
少し歩き、自然の景色に慣れた頃ふと我に帰る。
ーこれからどこへ行こうか?
ーまずは人を見つけなきゃ。
そして、蓮夜は適当な方向に歩き、運に身を委ねた。
ー同じような景色だ
最初は景色を見ながらあるくのも悪くないと思っていたが、だんだん飽きてくる。
「うわっ」
首の後ろに何かが突っ込んできた。
蓮夜の背筋はビクッとし、すぐさま手で追い払おうとした。
ー最悪だ… 虫かよ。
森なのだから当たり前かもしれないが、日本で虫をあまり見てこなかった蓮夜には不快であった。
しかも、見たことのない虫。蓮夜には耐えられなかった。
それでも歩くしかなかった。
あれから何時間歩いただろうか?
未だ町はおろか、人すら見つけられていない状況であった。
ーなにか食べられるものはないのか?
蓮夜は少しだけ焦っていた。
このまま誰も見つけられず、餓死してしまうのではないか?と。
辺りを見渡す。
しかし、誰も見つからない。
ー転移させるなら、もっと人がいるところにしろよ。
憤りを感じながらも、ひたすら歩いた。
足が棒のようになっていく。
「うわあああああぁぁぁ」
蓮夜は悲鳴をあげた。
急に足腰の力が抜け、地面に倒れこむ。
ー死体だ。
蓮夜の顔が一気に青ざめた。
初めて見る死体。
自分も同じようになるのではないかという恐怖感。
正気ではいられなかった。
蓮夜は逃げるようにそこから離れた。
ー誰か、誰かいないのか。
歩いた。
ひたすら歩いた。
日が暮れた。
蓮夜の体力は残っていなかった。
先の見えない旅に絶望が押し寄せてくる。
カサッ
その時左側から何かがやって来る音がした。
ーなにかこっちに来る。
蓮夜は無意識に目の前にあった巨大な木の後ろに隠れた。
そして、見つからないように、背中を木にくっつけ、音がする方向に目をやる。
ーなんだ? あの生き物は。
そこには狼には似ているが、肌が黒く、巨大な牙が2本、上の歯ぐきから下へ伸びていた。
体も大きく全長は2mほどあった。
蓮夜は息を押し殺す。
ー早く、どっかいけ
必死で耐える。
歩く音が徐々に大きくなっていく。
そして、歩く音が蓮夜のすぐ後ろで止んだ。
ー気付かれたか?
蓮夜の心臓の音が激しさを増す。
こめかみ辺りから出た汗が頰をつたり、地面に落ちる。
蓮夜は目を閉じた。
狼に似た生き物はどこかへ去っていった。
ー死ぬかと思った。
蓮夜は焦った。
この森は危険だからだ。
ーそういえば、死体の近くに…
蓮夜は死体のところまで走った。
死体があった場所に辿りつき、辺りを見渡した。
ーあった、これだ。
手にしたのは剣だった。
武術などならったことはなかった。
しかし、ないよりはマシだった。
死体から剣を腰に指すためのベルトをとり、剣を指した。
蓮夜にとって死体から物を盗むのは気が引けたが、そんなことは言ってられなかった。
蓮夜はまた歩き出した。
完全に日が暮れ、真っ暗になってしまった。
蓮夜にとって明かりがない森の中は恐怖でしかなかった。
先ほどのような見たことのない生き物に襲われたら、ひとたまりもない。
しかし、蓮夜の足は動がなかった。
いろんなことがありすぎて、精神的にも肉体的にも疲労していた。
とりあえず座り、木に寄っ掛かりながら目を閉じた。
蓮夜はいきなり我に帰り、起き上がる。
ー朝か…
転移されてから何も食べていない。
しかし、歩くしかなかった。
ーなにか食べ物は?
その時蓮夜の目に入ったのは、木ノ実だった。
ー食えるのか?
ーそういえば、前にテレビで木ノ実を割り肌に擦った時、赤くピリピリしなければ毒じゃないって誰かがいっていたな。
見よう見まねでやって見る。
木ノ実を割り、腕に擦り付けた。
ーピリピリしない。
蓮夜は疑うこともなく、木ノ実を食った。
うまかった。疲れもあるのか、そのおいしさは体中を駆け巡った。
ー俺はこんなところで何をやっているんだ?
勝手に見知らぬ世界に連れて来られ、なにもわからず、ただひたすら歩いていた蓮夜は心が折れそうだった。
それでも食べた。
蓮夜はふいに気配を感じ、右側を見た。
息が止まった。
昨日の生き物がすぐ側にいた。
ーどうして気付かなかったんだ。
木ノ実のおいしさに我を忘れていたのだ。
見たことのない狼のような生き物は蓮夜に襲いかかった。
蓮夜は剣を抜き、力いっぱい狼に剣をふった。
当たるはずもなかった。
今まで武術など習わなかった人がいきなりできるわけもなかった。
生き物は蓮夜に突進した。
蓮夜はバランスを崩し、地面に倒れこんだ。
「痛っ」
生き物の牙が蓮夜の腕を切り裂き、腕から血が出る。
生き物は蓮夜に向かって、ゆっくりと歩いていく。
ー嫌だ。死にたくない。まだなにもやっていないのに。
ー昨日まで平和に暮らしていたのに。
ー嫌だ、嫌だ、嫌だ。
「嫌だああああああぁぁぁ」
蓮夜は無意識に手を前方に向け、力を込めた。
その瞬間だった。
急激に炎が手から飛び出し、爆発を起こした。
スドドドオオオン
蓮夜は目を開けた。
森が一部なくなっていた。
「あそこだ。」
「誰かいるぞ。」
声が聞こえる。
ー助かった…