第3話 転移
ー何処だここは?
蓮夜は混乱していた。
目が覚めたら真っ白で何もない空間にいたからである。
訳もわからず、自分の腕を見たり、顔を触ったりした。
ー俺は死んだのか?
蓮夜がガラスをサドルで叩き割ろうとした直後、車は大爆発を起こした。
当然巻き込まれ、目が覚めたら真っ白い空間の中にいた。
何もない、地面も空も全てが白。
辺りには地平線があるだけであった。
「気が付いたか?」
「あっ、はい。えーと。ど、どちら様?」
蓮夜の目の前に1人の老人が立っていた。
白い髪、そして長いあごひげに白い着物を着ており、右手には杖を持っていた。
その着物は死者というよりかは神々しいものであった。
「私は次元の狭間に生き管理する者である。」
ーは?
蓮夜は開いた口が塞がらなかった。
意味不明なことを言う老人にどう反応していいかわからず、ただ老人の顔を見ていることしか出来なかった。
「そういう反応するのも無理はない。しかし、そういう世界があり、そういう人もいることを知ってもらわなければいけないのだ。」
時間が経つにつれ、蓮夜の思考が元に戻る。
ーつまり、神様かなんかってことか?
「神ではない。私も元は人間である。君の世界では科学が人々の生活を豊かにしてきたな。だが、私の世界では魔法が人々の生活を豊かにしてきたのだ。魔法もようは使いようである。君とこうして話せているのも魔法のおかげである。」
蓮夜は意味不明な説明を、納得せざるを得なかった。
爆発に巻き込まれ死んだにもかかわらず、
この空間で老人と話している奇跡。
魔法という言葉を使わなければ、蓮夜の人生経験だけでは、この事象を説明することが出来なかった。
「君は何か勘違いをしていないか?」
「何がですか?」
「君は死んではおらん。確かに爆発に巻き込まれ、死んだと思ってもおかしくはないが。」
ー死んでない? どういうことだ?
「爆発に巻き込まれる寸前に、私が君の身体をこの空間に転移させたからだ。」
「何のためにですか?」
「私の世界に危機が迫っているからだ。故に力を貸して欲しい。」
ー力と言われても…
「すいません。俺、魔法とか使えないですし、力と言われても何も出来ません。」
「確かに今は出来ない。だが君は魔法の潜在能力がとても高い。」
「そうなんですか?」
蓮夜は半信半疑だった。
使ったことのない魔法の潜在能力が高いと言われても、信じることが出来なかった。
「じゃあ、そっちの世界にいったらものすごい魔法使えるんですか?」
「潜在能力を最大限に引き出せるのは、君の努力次第だ。」
ーすぐに使える訳でもないのか。あんまりメリットが感じられないなぁ。
「もしこの話を断わったら、どうなるんですか?」
「君はもうあちらの世界では死んだことになっている。もしこの話を断わったとしても君はいくあてはない。そしたら死んでもらうしかない。」
ーまじか…
ー断わったら死ぬのか。
「わかりました。具体的になにをすればいいんですか?」
「説明するのに、少し長くなるぞ。」
そう言って老人は話し始めた。
今から1000年前のことだった。
老人の住んでいた世界は、小さな国が数え切れないほどあり領主を主として騎士がおり、農奴と呼ばれる奴隷が身の周りの世話や農業を営んでいた。
領主たちは自国の利益のために、他国を侵略したり、はたまた侵略に対抗するために複数の国が一つになったりなど、時代が流れていくにつれ、大国と呼ばれる国がいくつも出て来た。
その中でひと際目立つ国が3つあった。
その老人が住んでいたラウン王国と魔王が支配する魔王国ダンケルヘイト、そしてゼイツ魔法王国
この三大国は戦争をすることもあったが、三つの勢力はほぼ拮抗しておりバランスが取れ、この三大国が建国されてから比較的平和が続いた。
しかし、近年状況が変わってきた。
魔王国ダンケルヘイトが不可解な力をつけてきたのだ。
正体不明の力でダンケルヘイトは領土を拡大していった。
そして、侵略した国の財産を奪い、民を奴隷にしていった。
元々ダンケルヘイトは魔族が建てた国である。
そのため魔族と人族で身分がわけられており、人族は奴隷のような暮らしをおくっていた。
この動向に危機感を覚えたラウンとゼイツは互いに同盟を組み、ダンケルヘイトに対抗し始めた。しかし、ダンケルヘイトは強く二大国でも対抗出来なくなってきた。
「というわけだ。そこで、君にその魔王を撃退して欲しいのだ。」
「はぁ」
ースケールがでか過ぎだろ
「俺にそんなことが出来るんですか?」
「わからん。が、やってみなくては始まらん。」
蓮夜は言葉が出なかった。
いきなり真っ白い空間に連れて来られ、魔王を倒せなどと言われても、現実感がまるでなかった。
「誰かがやらなければならないのだ。もしこのまま放っておけば、人族は永遠に魔族の奴隷となる。」
半ば諦め、少し考えてから、
「わかりました。どうせ断わったら、死ぬんですよね?」
「ああ そうだ。感謝する。」
老人はそう言って、杖をこちらに向けた。
「言葉がわからずいきなり放り出され、なにも出来ず終わることは許されない。言語だけは不自由しない能力を授けておく。」
老人は蓮夜の頭に杖を向けた。
そして、老人が力を込めた後、淡い光が蓮夜の全身を包み込んでいった。
時間が経つと共に光はなくなっていった。
「これで大丈夫だ。」
「あと、あちらの世界に持っていけるものってないんですか?」
「すまんがそれは出来ない。君の身体は転移させることができたが、そうやすやすと物体を転移させることはできないのだ。」
ーまじか、何もない状態でいくのか。
「なに、転移させるところは比較的平和な場所だ。まず死なん。」
「そういう問題じゃないんですけど。」
ー嫌な予感がしてきたな。異世界系の物語は結構読んだが、ここで能力を授かるというのが一般的だからな。それがないとなると…
「私とて、何もランダムで決めているわけではない。何度もいうが君には、魔法の潜在能力が高く、そして何より勇気がある。」
ーなんかいける気がしてきたが、ついさっきいけると思って救助に行ったけど失敗したからな。
「決心がついたか?」
「はい、まあ。なんかやらなきゃいけないような気がするんで。」
「そう言って貰えると助かる。」
「自信ないですけどね。」
「大丈夫。きっと出来る。健闘を祈る。」
そして、ふっと身体がかるくなり、光につつまれた。
蓮夜は徐々に身体がなくなるのに気づいた。