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ロイヤルロード  作者: ジンギスカン
第1章 転生
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第2話 事故

「おい、桐生何もたもたしてんだ。早くパスしろ。」


 声をあらげるのはこの部活で1番怖い先輩だ。

 蓮夜はバスケ部に所属している。

 入った理由は何となくかっこよさそうだったから。


「すみません。」


 しかし、どうも体が追いついてこない。

 頭ではかっこよくドリブルして、相手を抜かし、ゴールを決める。

 そう、頭ではわかっているのだ、頭では。


 ー早くパスしないと。


 慌てて蓮夜は先輩にボールをパスした。

 しかし、慌ててしまったせいか、ボールは先輩のいる場所より大幅に右にずれてしまった。


「おまえ、やる気あんのかあ!」

「すみません。」


 恐怖で頭がパニックになる。

 実はというと蓮夜は自分の同学年の中でイチ、ニを争うほどの下手さだった。

 もう部活に入って1年半が経つ。

 同学年の中には小学生の時にミニバスをしており、入った時からバスケができた奴もいた。

 そいつは先輩に可愛いがられている。


 ーそれに比べて俺は…。


 別に太っているわけでもガリガリってわけでもない。

 背も高いわけでも引くいわけでもない。

 総括するなら見た目は地味。

 そして、なぜか上手くならない。


 ー1年間もしているのにどこで差がついたんだろう。


 後輩の目線が気になる。

 蓮夜はため息をついた。

 3対3の模擬試合。

 蓮夜のミスで攻撃が終わり、次は守る番だった。


「てめえ、次ミスったら殺す。」

「はい。」


 マークした相手は同級生の田中。

 バスケ経験者ではないが、入部当時から運動神経が抜群でかつイケメン。

 とどのつまり、チームとしても男としても敵。

 もっと、腹が立つのはこちらが嫉妬心が満載なのにもかかわらず、田中の方は蓮夜のことを気にもしていないだけでなく、蓮夜のような地味な人にも優しい。


 ー全く、完璧人間かよ。


「田中、任せた。」


 そうこうしているうちに、試合は始まっていた。

 田中は先輩からボールをもらい、蓮夜に対して1対1を仕掛ける。


 ーやばい、抜かれたらまた怒られる。


 蓮夜は一生懸命田中の動きを見る。

 人生で1番集中しているんじゃないかってぐらいした。

 田中は巧みにボールをさばき、蓮夜から見て左方向へ突っ込んだ。


 ーよし、左か。


 蓮夜はすかさず左へ体を寄せた。

 しかし、それはフェイントだった。

 鮮やかにドリブルで抜かれ、点数を入れられた。


 ーやば。


 抜かれた悔しさなどない。

 こんな、イケメンで運動神経抜群の人に勝てるわけない。

 だが、蓮夜の全身は一気に恐怖が駆け巡った。


 ー怒られる。


「おまえ、ちょっとこっち来い。」


 先輩に胸ぐらを掴まれる。

 蓮夜の目はウルウルし、今にも水滴が頬をつたりそうだった。

 そのまま先輩に引きづられ、壁に叩きつけられる。

 そして、壁ドン。

 生まれて初めての壁ドン。

 ドキドキなんかしない、あるのは恐怖。

 ただそれだけだった。


「おまえ、マジで殺されてえのか?なあ。」

 ドスの効いた低い声が蓮夜の全身を震え上がらせる。


「なあって言ってんだろう!」


 低い声からの怒号のような声。


「すみません。」

「チッ。」


 先輩は舌打ちをし、そのまま練習に戻っていった。


 ー部活やめよっかな。


 今まで1年生としてやってきたが、今では2年生。

 やはり、桐生自身も尊敬される先輩になりたかった。

 しかし、現状は舐められている。


「今日は暗くなって来たからここまでだ。」


 部長の合図で部員は片付けに入った。

 ほとんどの片付けは1年生がする。

 蓮夜は誰とも話したくなかったため、急いで制服に着替え学校から出た。


 ーはあ。何もいいことがない。


 学校の帰り道でため息をつく。

 思えばいつから下を向いて歩くようになったのだろか?

 下を向いたら硬く塗装された道路があるだけ、何かがあるわけではない。

 わずかにある石コロを蹴ってみる。

 蓮夜は急に虚しくなって、蹴るのやめる。

 そして、またため息をつく。

 この繰り返し。


 電車に乗れば、カップルがイチャイチャしている。

 電車の中だというのに、抱き合い愛の言葉を囁きあっている。


 ー周りの目を考えろよ。


 カップルを睨みたい気持ちを抑え席に座ろうとする。

 しかし、横から猛スピードで蓮夜に向かってくるおばさんがいた。

 蓮夜を左腕で押しのけ、ふんとした顔であたかも「私の席です。」と言わんばかりに堂々と座りこんだ。

 蓮夜はあたりを見渡すが、空いている席はどこにもない。


 ー俺が座る席だったのに。


 近頃何も上手くいかない。

 世界が俺に対して意地悪しているのか?

 何故俺だけこんなことになっているんだ?

 被害妄想は膨れるばかりである。


 イライラしながら電車を降り、近くの駐輪場に置いてあった自転車に乗った。

 そして、自転車で家に帰る途中だった。


 ー何やってんの?邪魔なんだけど?


 狭い道路に我先にと野次馬たちは群がる。

 面白がってみる者。

 不安そうにみる者。

 うろたえる者。

 そこにいる輩は思っていることは違う、違えどこれだけの人たちが群がるほどのものがそこにはある。


 ー気になる。


 蓮夜は自転車を置き、野次馬たちが群がる塊に向かって、両手で一人一人押しのけていった。

 密集したなかに無理矢理行くのは大変だった。

 押しのけていく間に、天高く舞い上がる赤と黒のモヤモヤが蓮夜の目を襲った。

 蓮夜は反射的に目を瞑る。

 蓮夜はここで初めて自分がこんなにも恐ろしい場面に出くわしたことに気づいた。

 確かめるようにゆっくりと重い瞼を開ける。


 ー車が燃えている。


 車全身から炎が燃えあがり、空に向かうにつれ黒と化す。

 車の直ぐそばには前輪が曲がっている自転車が横たわっており、少女が泣きながら声にならない音を口から発している。

 横には倒れこんでいる少女を必死で守ろうとする男性。

 蓮夜は一目散に男性の元に駆け寄った。


「消防車と警察は?」

「今さっき呼んだ。早くしないと車の中にまだ人が。」


 蓮夜は反射的に車の方に目をやった。

 すると運転席で窓ガラスを必死に何度も何度も叩いている人がいた。

 ガラス越しにしきりに叩く手の平や拳から出たくとも出れないという気持ちが瞬時に伝わってくる。


 ーこのまま放っおいたらまずい。


 蓮夜は何かに突き動かされるように、車を目掛けて走り出した。


「やめとけ。あぶねーだろ。」


 何か声が聞こえた。

 しかし、蓮夜にとってそれはどうでもいいことのように思えた。

 目の前で助けを求めている人。

 いつ車が爆発してもおかしくない。

 今助けなければこの人はどうなるのか?

 蓮夜はガラスを目一杯叩く。

 しかし、ビクともしない。


 ーそうだ。あれを使えば。


 蓮夜は急いで自転車に戻る。

 そして、サドルを外そうとした。

 手が震える。


 ー早くしないと。


 焦れば焦るほど作業が遅くなる。

 それでも蓮夜は無理矢理心を落ち着かせ、なんとかサドルを外し車に戻って来ることが出来た。

 そして、車の中で無我夢中で暴れる人に向かって大声で叫んだ。


「聞いてください。今からこれでガラスを割ります。だから離れてください。」


 ガラスを叩く音が止む。

 それを確認した蓮夜は片手で大きくサドルを降りかざし、勢いよくサドルの鉄の部分をガラスに叩きつける。

 ガラスは蜘蛛の巣をはったような模様になった。


 ーちくしょー。硬すぎんだろ。


 次は両手で持って叩きつけた。

 蜘蛛の巣はさらに複雑になり、ポロポロとガラスの破片が下に崩れていく。


 ーよしもうちょっとだ。


「危ない。離れろ。」


 声が聞こえた。

 しかし、どうしても助けると高ぶる蓮夜にその言葉は届かない。

 もし、この言葉が蓮夜に伝わっていたら。

 もう少し早くに助けられていたら。

 そもそも事故なんて起きてなかったら。

 しかし、何を言ってももう遅い。

 悪魔が人の善意をあざ笑うかの様。

 燃え滾る炎が急激に強い光と熱を放った。

 それは、蓮夜にとって一瞬すぎて何がなんだかわからなかった。

 早く助ける早く助けるそれだけが心に渦巻いていたのだから。



 後日、「自転車が爆発 死者が2名」というタイトルのニュースが日本全国を駆け巡った。

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