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第九十六話

 フリージアナにこのままいては領主に追われる可能性があるため、ヤマトたちは早々に街をたつことにする。

 船上で今後の進む道について相談することとなった。


「ヤマトー、次はどこに行こうか? 装備と職業は手に入ったからー、次はアレだと思うんだけど」

 潮風に吹かれながら振り返ったユイナの言葉に操縦していたヤマトは頷く。

「アレ、とは一体なんでしょうか……?」

 ルクスにはわからないようで、申し訳なさそうに質問をする。


「「レベル上げ」」

 それはMMORPGプレイヤーなら誰もが経験することであり、好きな者はこのレベル上げの最中が一番楽しいといい、嫌いな者は早く終わらせたいと思う辛い作業である。


 しかし、二人にとってのレベル上げとは前者のソレだった。

 声を揃えてそう言った二人の顔はニコニコと明るい。


「レベルが上がってる時ってやっぱ楽しいよねー! 数字が上がっていくのもいいんだけど、徐々に強くなるのを実感できるのが嬉しいんだよねえ」

 ユイナは当初、ヤマトに誘われてゲームを始めたが、最初にはまったのが何よりレベル上げだった。

 使える技の種類が多くなり、威力が強くなり、動きが軽くなり――レベルが上がっていくごとに戦いの幅が広がっていくことに快感を覚えていた。


「わかる。加えて経験値とかお金とかアイテムとか、そういうのが増えていくけど、数値が増えていくだけで楽しくなるよ」

 ヤマトは、レベルだけでなく他の数値も副次的に上がっていくことが好きだった。

 目に見える数字は裏切らない。レベルに限らず、とにかく色々な数値が増えていくことが彼がプレイするなかで面白いと思える部分であった。


「ほほー、なるほどなるほど。確かに力を強化するのは大事ですからね」

 二人の意見を聞いたルクスも合点が言った。

 思い出したように自分のステータスを確認してみると、ヤマトやユイナに比べてまだまだだなと厳しい表情になっている。


「ルクス、大丈夫だよ。強力な職業が手に入ったわけだし、焦らず少しずつレベルを上げていこう。あとは精霊との契約もしていかないと」

 励ますようにヤマトは優しくルクスに笑いかける。

 レベルももちろんだが、サモナーはたくさんの精霊と契約することで、呼び出すことのできる手札が増えていくからだ。


「はいっ、楽しみです!」

 そのためには強力な精霊と戦い倒す必要があるが、夢抱いているルクスに今は言わずともいいだろうと二人は判断する。





「ところで、レベル上げということですが……どこに向かうのでしょうか?」

 海を進む船の航行速度は遅く、どこかに向かっている様子がなかったため、ルクスが質問する。


「あぁ、うん。ちょっとどこに行こうか悩んでてね。このあたりでレベル上げにちょうどいい場所があったかなあ、と思って」

 早くフリージアナの街から出ることを考えていたヤマトは目的地を決めていたわけではないようだ。船で行けるエリアの中でどこがいいか思案していた。


「あっ、ねえねえヤマト! だったらさー、この近海から外海に出て、北東の谷に行くのはどうかな?」

 北東の谷のモンスターは別段、経験値効率のいいわけではなかったが、ユイナは別の目的があった。


「――なるほど、移動手段の確保か」

 ヤマトはすぐに彼女の狙いに気づく。

 その谷に向かうことで、新たな移動手段を手にすることができるのだ。


「うんうん、あそこにいけば空を移動できると思うんだよねえ」

 そう言ってユイナは遠くの空を見上げる。


 ヤマトのフライングバードで飛行移動もできるが、それは地上のみの移動であり、海上の移動には向いていない。また気流にも弱く、高度もそれほど高い場所を移動することは難しい。


 しかし、今回のユイナが提案した場所にいけば、それらの問題を乗り越えられるほどの強力な移動手段が手に入る。


「ほー、空ですか。いいですねえ、私も空を飛んでの移動には憧れがあります……一体どのようなものなのでしょうか?」

 ユイナの隣で同じく空を見上げているルクスは空を飛んだ時のことを空想する。

 空に飛ぶ鳥ではないのなら、何で移動するのか――不思議そうな顔で問いかけるルクスのそれは、明言していない二人への当然の質問だった。


 しかし、ヤマトはやや考え込み、ユイナはいじわるな笑顔を浮かべている。


「あー、あれは……」

「なーいしょっ!」

 ヤマトが何か言おうとしたのに、それを遮るようにユイナが言葉をかぶせていく。


「え、えぇええっ」

 期待していただけに、内緒と言われてしまい、ルクスは大きく驚いてしまう。


「ふふーん! ……でもね、せっかくだから直接見て驚いてほしいなあと思って」

 意地悪そうな笑顔から一変、ふわりと優しく微笑んだユイナは、答えを全て教えるのではなく、自分の目で見てどう思うのか感じてほしかったのだと言う。


「あー、知らずに見た方がビックリするか。それじゃあネタバレはなしということで」

 ふふっと笑ったヤマトもその考えに同調して、正体を口にしないことにする。

 初見の楽しみはヤマトも大事にしている部分であるため、ルクスにもその感覚を知って欲しいと思った。


「むむむむ……ですが、お二人に揃ってそう言われてはこれ以上は聞けませんね。気にはなりますが、私も質問するのはやめておきましょう」

 このあたり、二人の意見を尊重してくれるが、完全なイエスマンにならないところがルクスの良いところでもあった。




「さて、それじゃあ面舵いっぱーい! えーっと……どっちかわからないけど、とにかく北東に出発だ!」

 よく船乗りがいう面舵、取り舵という言葉を思い出して使ってみたが、それがどういう動きをさしているのかイメージできず、ヤマトはなんとなくの雰囲気で使う。こういうのは盛り上がりが大事だろうと思ったのだ。


「おーっ! 面舵いっぱーい!」

 元気よく声を上げたユイナもよくわかってはいないが、ヤマトの言葉にのっかることにする。


「いやあ……楽しいですね。おうちでご主人様の帰りを待っているのも楽しかったですが、こうやってお二人と旅に出るのは……本当に楽しいですね!」

 心からそう思っていると伝わるような眩しい笑顔で言ってくれるルクスに、ヤマトもユイナもつられて弾けるような笑顔になっていた。


「ルクス、この先、色々難しい戦いもあるかもしれないし、その分楽しいこともあるだろうけど――全部三人で乗り切っていこう!」

 辛い時も楽しい時も一緒に時を過ごす大事な仲間である――それがヤマトの思いだった。力強く頷いて熱く語る。


「っ、ご主人様……はい! がんばっていきましょう!」

 感激いっぱいに頷くルクスを、ユイナは温かな表情で見守っていた。


 互いの絆の強さを感じ取ることができた一行は、ユイナの提案のとおりに北東に向かって行く……。

ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25

ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35

エクリプス:聖馬LV133

ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36


お読みいただきありがとうございます。

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