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第九十三話



 ミノスたちがいた大木を出ると再び世界は雪化粧で白一色に染まる。

 改めて防寒具を身にまとい、呼び出したエクリプスたちに乗って無事にフリージアナへと到着した一行は、街の入り口で聞き覚えのある声に呼び止められることになる。


「――おい、お前たち止まれ!」

 声を荒らげながらずかずかと近寄ってきてヤマトたちを呼び止めたのは、以前フリージアナにやってきた時にも声をかけてきた騎士だった。その彼の後ろには部下と思しき騎士たちが駆け足でついてきている。


「はい、なんでしょうか?」

 ヤマトはエクリプスから降りて、穏やかな雰囲気で対応をする。

 その間にユイナとルクスも馬から降りてエクリプスと自身の馬に帰還命令を出しておく。


「お前たち……どこかで見たことがあると思ったが、この間街が襲われた時にここにいたな?」

 訝しげな表情の騎士の問いに対して、ヤマトは面倒臭いことになりそうな気がすると思いながらも、嘘をつくわけにはいかず、素直に頷く。


「――そうか、ならばやはり貴様らが……」

 ギリリと歯ぎしりをしながら騎士がヤマトたちをお前たちという呼び方から、貴様らと強い言い方になったことにヤマトは眉をひそめる。


「おい! 貴様らには聞きたいことがある。領主様の館に来てもらおう!」

 横暴な騎士の態度、そして領主という言葉から、ヤマトたちは碌なことにならないだろうと予想していた。


 周囲の街の人たちは騎士を白い目で見ながらも、復興に忙しく、ヤマトたちのことをご愁傷様ですというくらいにしか思っていなかった。


「……行かないとだめですか?」

 遠慮がちに聞きながらヤマトはせめてもの抵抗を試みる。

「当たり前だ! ――と言いたいところが、断ることも可能だ。……ただし、二度とこの街には現れないという条件つきだがな!」

 ふんと鼻を鳴らした騎士の言葉は強く、まるで脅すかのような言い方であり、表情もきついものだった。


「エクウス様! そ、それはいくらなんでも……」

 やりすぎではないか? 慌てたように話に入り、質問しようとする部下の騎士たちだったが、エクウスにぎろりと睨まれるとそれ以上は言葉を出せずに縮こまってしまう。


「で、どうするんだ?」

 早く決めろとエクウスが催促する。


「……わかりました。ついていきます、この街にはまた来る必要がありますし……――領主さんがまともな方であることを祈ります」

 諦めたように息を吐いたヤマトの最後の言葉を聞いて、エクウスの表情がさらに厳しくなる。


「ちっ、来るのか……」

「……えっ?」

 エクウスのそれは小さな呟きだったが、あれだけ急かしていた割には舌打ちをしたのと、ヤマトたちが来ることを残念がるように聞こえた気がしたため、疑問に思ったヤマトが聞き返す。


「っ、なんでもない! さっさと行くぞ!」

 ヤマトの質問をうやむやにするため、ふんと背を向けたエクウスは大きな声を出して先を進んでしまう。


「っていうか、今からなんだね……」

「仕方ないね、行ってみよ?」

 面倒ごとができたことにがっくりと肩を落とすヤマトの背中を励ますようにルクスを抱いたユイナが軽く叩き、元気を出させる。

「そうだね」

 こうして旅を共にする大切な人が側にいるおかげで、ヤマトはそれほど重たい気持ちにはならずに済んでいた。






 領主の館へと向かう道中、エクウスはちらちらと二人のことを見ていた。


「……なんですか?」

 それがあまりにも回数が多いので、ヤマトが疑問に思って質問するが、気付かれているとは思っていなかったようで、一瞬動揺するもすぐに元の厳しい表情に戻ったエクウスは首を振るだけだった。


 ほどなくして領主の館へと到着する。ここも冒険者ギルドと同じく大きな被害はなかったようで、割と立派な門構えの屋敷があった。

 来訪者の確認をとっている入り口の衛兵たちはエクウスから事情を聴かされる。すると、彼らもエクウス同様にあまり良い顔はしなかった。


「……僕たちはあんまり歓迎されていないみたいですね」

 ヤマトが困ったような表情でそう呟くと、後ろにいた騎士たちが苦笑しながら言う。

「いや、多分その反対だからあんな反応になるんだと思うよ」

 それは騎士たちの一瞬の軽口だったが、エクウスが戻って来るのが見えるとすぐに口のチャックを閉じた。


「――さあ、入ってもらおう」

 ぶっきらぼうにそれだけ言うと、エクウスは再び先行して案内役を務める。






 家の中に入ると、部下の騎士たちはそれぞれの持ち場に戻り、エクウスとヤマトたちだけが廊下を歩いていた。


「――気を許すな、そして誘いは断れ」

 領主のいる部屋に向かう廊下の途中で一度だけ立ち止まったエクウスは、突然振り返るとヤマトたちに短いアドバイスをする。

 急に話し出したそれがあまりに一方的過ぎてなんのことかよくわからなかったため、反応に困るヤマトたちだったが、話し終えた途端また歩き出した彼はもう止まることはなく、そのまま領主が待つ部屋まで向かった。


 そして立派な扉の前で立ち止まると、軽くノックをする。

「エクウスです、件の冒険者を連れてまいりました」

 扉の前のエクウスは、これまでの態度とはうって変わり、落ち着いた声で中にいるはずの領主に呼びかける。


「……あぁ、入ってくれ」

 中から聞こえてきた返事は、ヤマトがイメージする領主のそれよりも若い声だった。


 扉を開けたエクウスに視線で促されたヤマトたちは、中に入って再び驚くこととなる。


「やあ、君たちが街を救ってくれたという冒険者だね。ギルドマスターが情報をくれないから君たちだと突き止めるまでにだいぶ時間がかかってしまったよ。街のみんなに代わってお礼を言いたい――本当にありがとう」

 椅子から立ち上がって人懐こそうな笑顔を浮かべるの領主はヒューマン族であり、年齢は二十代半ばといったところの青年。そして、物腰柔らかで礼儀正しく、冒険者であるヤマトたちが相手でもなんの抵抗もなく、頭を下げられる人物のようだった。


 ヤマトの視界のわきでは領主の青年に見えない角度で、エクウスが不満そうな表情をしている。


「あ、えぇ、どうも。そんなに大したことはしてないと思いますが……」

 慌てて視線を戻したヤマトは想像と違っていたため、少しどもってしまう。

 エウクスに強引に連れてこられたため、勝手に性格の悪い年の大きな領主をイメージしていた。


 しかし、彼は若く、穏やかで優しそうな表情で、しかも真摯に頭を下げている。

 それによって戸惑いが強くなり、おかしな返事をすることとなってしまう。


「いやいや、聞きましたよ。魔族を倒したという話も……いやあ、お二人ともお強いようだ!」 

 ニコニコと表情を崩しながら領主は両手を広げて、おおげさにヤマトたちを称賛する。


「そうそう、申し遅れました。私の名前はカルテーロと申します。よろしくお願いします」

 名前を名乗られたので、ヤマトたちも挨拶することにする。


「俺の名前はヤマトです」

「私はユイナです」

「ルクスと申します」

 三人がそれぞれ名前を告げるが、カルテーロはルクスには視線を送らない。そのことにユイナは分かりにくくはあったが顔をしかめる。


 どうやら彼が用事があるのは、あくまで街を救ってくれた英雄であるヤマトとユイナだけであった。


「――それでは戦いのことをお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」

 人の良さそうな笑顔を浮かべながらカルテーロはどうぞ座って下さいと、ソファを指し示す。どうやら話すまでは帰らせないつもりであるらしい。


「……わかりました。それは俺から話しましょう」

 物腰柔らかに見えたカルテーロも領主をしているだけあって一筋縄ではいかないようだ。もし彼と余計なやりとりをしてユイナが不機嫌になってしまうことを避けるため、ヤマトが話をすることにした。



ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV10

ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67、銃士LV17、森の巫女LV20

エクリプス:聖馬LV133

ルクス:聖槍士LV13、サモナーLV21


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


本年もよろしくお願いいたします。

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