第八十八話
アムスの先導の元、裏庭に行くと、そこは結構な大きさを持つ広場のようになっていた。
脇には的のような人形やら木の板など様々な種類のアイテムが置かれ、色んな仕様の練習に対応できるようだ。
「わー、広いなあ」
「すごいすごーい!」
「広大な敷地ですね」
三人はそれを見て、三様の反応をする。だが揃って感動したように広い空間を見ていた。
「はっはっは! ここは試作品を試す場所でな。威力が強いものや遠距離武器なんかもあるから、どうしてもこれくらいの広さが必要になるんだよ」
その反応が嬉しかったため、大笑いしながらアムスは裏庭を誇らしく紹介する。
「――それで、的はどんなものがあればいい?」
銃剣を使っているところを早く見たいと思うアムスはずいっと迫るようにヤマトに聞く。
特殊な武器であるため、遠距離なのか近距離なのか、強度が弱いものがいいのか、強いものがいいのか、数が多いほうがいいのか、少ないほうがいいのか――ありとあらゆる要望を聞く心づもりがアムスにはあった。
「えっと、近距離遠距離の両方あると助かります。多分、ですけど、結構威力が強いと思うので強度は強ければ強いほどいいと思います。数も、ある程度あったほうがいいですね」
「ふむふむ……わかった! 今用意する!」
引き気味の姿勢でそう言うヤマトの要望を聞くと、飛び出すように走り出したアムスはそれにあった的を次々に用意していく。
――時間にして数十分経過したころ。
「はあっ、はあっ……お、終わったぞ。これで、足りるか?」
汗だくになって息をきらしたアムスが再びヤマトたちのもとへと戻ってくる。
「え、えぇ、十分ですけど、まさか全て一人で用意するとは……」
並べられたそれらはかなり重そうな的もあったため、待つばかりでは悪いとヤマトたちは手伝いを申し出たが、アムスは、準備は自分の仕事だと言い切り、その手伝いをきっぱりと断っていた。
仕方なく三人は作業を見守るだけになってしまったのだが、最終的に彼らの目の前に並べられたのは多種多様な的たち。ヤマトが言う要望をすべて満たしたものが数多く並べられていた。これならば満足いくまで銃剣の試しができるだろう。
「そ、それはよかった……じゃあ、さっそく、うっぷ……はあはあ、すまない、少し水を飲んでくる」
銃剣を使うところを見られる期待と興奮でアドレナリンが出て夢中になって作業していたアムスだったが、明らかに一人で用意する量ではなかったため、準備が終わった頃には彼の疲労感はとても強かった。
口元を押さえながら青い顔でふらふらと広場をあとにする。
「ご、ごゆっくり……急ぎませんし、少し休んでからやりましょう」
困惑交じりの表情でヤマトは彼を見送ると、近くに置いてあった丸太でできた椅子に腰かける。
自分たちが休んでいれば、彼も休むだろうと考えた結果である。
ヤマトが腰かけるとユイナもルクスも彼の考えに気づいて、それぞれ腰かける。
広い敷地に静かに佇むたくさんの的たちと穏やかな森の風景。遠くから聞こえる街のざわめきがゆっくりとした時間を作り出した。
それから十分程度の休憩をはさんだのち、ヤマトの銃剣がどういう武器なのかを披露することとなった。
「――さて、それじゃあやってみるかな」
戻ってきたアムスと丸太に座ったままのユイナとルクスに見守られながら、ヤマトは腕を伸ばし、銃剣の先端を遠距離用の小さな的へと向ける。
銃剣という名前だが、ベースとなる本体は剣が担っている。そして、手元には銃のようなトリガーがある。聖銃剣士の職に就いた時、彼が手に入れた銃剣シュトゥークはそんな見た目の武器だった。
トリガーはあるが、普通の銃とは違い、銃口は存在しない。
ならば、そのトリガーはなんのために存在しているのか。
「いくよ!」
それはヤマトが引き金を引いた瞬間にわかった。
魔力が込められた時の反応を見せたかと思うと、剣の先端から魔法の弾丸が飛び出し、狙いすましたように全ての的に次々と命中していく。
威力は抑えた一番初級の火の玉の魔法だったが、弾丸として射出されたそれは威力が強く、鋭く的を砕いていく。
「いいね」
ヤマトはその結果に満足してニッと笑うと、次は近距離用の的へと走り寄っていく。
「――せい!」
走りぬきざまにヤマトは銃剣を振り下ろしていく。
普通に剣を使う時と同様で、片手剣の初級技スラッシュのソレだった。剣戟の跡が光の筋となって的にぶつかる。
だが、銃剣シュトゥークはそれだけで終わらない。
「今だ!」
剣が的に命中するのと同時にヤマトは素早く引き金を引く。
すると刀身を魔力が伝わっていき、的に当たる瞬間、爆発を引き起こした。
その結果、的は粉々にはじけ飛び、ボロボロになる。もちろん、剣によって真っ二つにされたうえで。
「す、すごいな……」
初めて試したとは思えないほどの流れるような動きに、口をポカンと開けたアムスは呆然としている。
「今のは斬るのと同時に火の玉を爆発させた。なら次は……これはどうだ!」
誰に言うでもなく実験するように頭に思い浮かぶ銃剣の使い方を実践すべく、ヤマトは別の的に向かって斬りつけていく。
魔力に反応するように刀身が赤く光ったため、再び同じ結果になるのかとアムスたちは思っていたが、今度は爆発することはなかった。
しかし、金属でできた的がまるで熱せられたバターのようにどろりと斬られた場所から溶け落ちていく。
「今度は熱を流して、斬ることに特化させてみた。次は……」
気づけばヤマト自身もこの武器の持つポテンシャルがどのあたりまでなのか知りたいという欲のまま、次々に魔法の種類を変えていく。もうアムスたちが見ていることすら忘れるほど、シュトゥークの性能を知ることに集中していった。
水、雷、風――ありとあらゆる魔法との組み合わせを、様々な方法で試していく。
今回の銃剣の使用はアムスに武器を見せるだけでなく、自分自身の武器に対する習熟度を高めるためのものでもあった。
それは、全ての的が破壊され、裏庭の広場がボロボロになるまでひたすら続けられた。
「ふう、こんなものかな」
一息ついたヤマトは満足したのか、いい笑顔でみんなのもとへと戻って来た。その背景は彼の爽やかな雰囲気とは裏腹に悲惨な光景が広がっている。
「アムスさん、どうでした? 少しでも参考になればいいんですけど」
にっこりと涼しい顔でそう言うヤマトに対して、口をあんぐりと開けたままアムスは言葉を失っていた。
まさかここまでの実力者とは思わず、ここまで裏庭を破壊されつくした怒りや悲しみよりも、彼の銃剣を扱う技術や魔法の練度などにひたすら驚かされていたようだ。
「ヤマト、お疲れ様っ。もーすっごいかっこよかったー!! 銃剣、強いねえ! これだったら強い相手でも戦えるね!」
きゃっきゃとテンション高く彼の元へ駆け寄ったユイナは初めて見た銃剣という武器を見て、ひたすら興奮していた。新しい職業の潜在能力の高さを感じ取り、そして戦闘の幅の広がりを考えると、ワクワクが止まらなかった。
「さすがご主人様です。もし同じ武器や能力を使える方がいたとしても、ここまで使いこなせる方はいないはずです!」
息荒く褒めたたえるルクスは心からヤマトのことを誇らしく思っていた。
自分の主人はこれだけすごいのだという感動でこぶしを作りながら尻尾を大きく激しく振りつつ熱く語る。
「……あ、あぁ……本当にすげーな……。参考になったかはわからないが、その武器のすごさはわかったよ……」
ぼんやりとしたまま、やっとのことでアムスは返事をした。
その顔には先ほどまでの驚きだけでなく、銃剣への大きな可能性への期待が浮かんでいた。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV1
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67、銃士LV1、森の巫女LV1
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV1、サモナーLV1
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